どうしてだろう。
したいこと、言いたいこと全部胸に閉じ込めて黙って雛を見る俺は、きっと普段の俺じゃない。

髪を手櫛でとかす。少し引っ掛かる桃色、でもすぐに引っ掛かりは消えてスルスル指が通っていく。その髪を束ね、続いて三つに分ける。
雛は部屋の掃除をしていた。ちょうど掃除機をかけ終わったらしく、うるさい機械音が静かになる。


「終わりました」


笑顔て告げた。せめてこれくらいはと率先してやっているのが清掃の仕事。しかし、いかんせん、髪を編んでいる俺を見ても笑顔でスルーである。あたしがやります、という以前の可愛らしい申し出が彼女の口から紡がれることはなかった。

また胸に、チクリと何かが突き刺さる。


「神威団長、今日の予定は?」

「雛とトランプして、昼飯食べたらまたトランプして晩飯食べたらまたトランプ」


言ったら楽しそうに笑う。そろそろトランプにも飽きてくる頃だが、残念なことに雛をこの部屋に縛り付けておく手は今のとこそれくらいしかない。次どこか惑星に着陸したら何か買わねば。最近は毎日トランプ。トランプしていないと雛は船の中で何かすることはないかと歩き回って探すのだ。そんなことされてはこっちの気が持たない。頭をかすめる新人の顔に溜め息しか出ないのである。


「じゃあ、掃除機片付けたらトランプ用意しますね」

「今日は何で勝負しようねー?」

「うーん、昨日ブラックジャックやったから…」

「…」


なんでこんなに臆病になってんだかと首をひねる。新人相手に俺たちの何が理解できるかなんて考えたら、そんなの微塵も心配いらないことのはずなのに。


「じゃあ神経衰弱やります?」

「いいね」


そう、だけど今は雛も、その新人たちと同じくらいに俺たちのことを知らない…忘れてしまっているから、だから、他の色に染まってしまいそうで…





─────**





ここ数日、様子見をしていたが、あの雛という女は毎日いつも神威団長の部屋にいる。やはり恋人なのかと思ってみたが、二人はただ一緒にいるだけ。していることといったら掃除かトランプ。夜になれば彼女は自室に戻って行くし、神威団長も引き止める気配はないし、そんな親密な関係ではないように思えてきた。
それでも、あの日初めて神威団長に対面した時に言われた言葉


『あの子には手出ししないでね』


これを思い出せば、少なからず彼女が神威団長にとって大事な存在であることは間違いないだろう。現に毎日団長の部屋に呼ばれているのも事実なのだから。


「はぁ…」


思わず溜め息してしまう。強さにしか興味を示さないと聞いたあの団長…しっかり他にも興味を示しているではないか。頑張って修行してきたのに…まさかの障害だわ。


「顔、スタイル、強さ、共にわたしのが上」


ここ数日の観察から導き出されること。だって彼女はこの第七師団にふさわしくないような子だ。そんなのがどうしてここにいるのか疑問ではあるが、今はそれを考えている場合ではない。
見た目も強さも勝っているのに、わたしが神威団長に近付けないのは、やっぱり接触の少なさに原因がある。どんなに良い女だって、出会わなければその良さは理解できない。してもらえない。だったらどんどん接触を試みるのみ!!


「…雛…か」


きっと神威団長は今少なからずわたしに警戒の意を示している。だったら無理なアプローチはかえって逆効果だ。まずはあの女から…





─────**





あれから本宮さんには一度も会っていない。聞くところによれば、彼女は毎日団長の部屋で団長の身の回りの世話をしているのだとか。


「てことは団長のお世話係?」


てっきり恋人かなぁと予想していたけど違うのかな。そんなことをぼんやり考える。

最初は上手くやっていく自信の無かった第七師団。でも、ようやく上手くやれそうな気がしてきた。知り合いもだいぶ増えた。恐い面構えの人が多いけど話してみたら気が合ったりして、戦闘に関しては皆エキスパートだし、話していてやっぱり楽しい。
三日後には、戦場に行けることにもなったし、ここで俺の実力を試してみよう。今からワクワクして仕方ない。

でも、戦場行く前にもっかい本宮さんとお話できたらなぁと思う。なんだか今の状況を聞いてもらいたい。初めて第七師団に来た日に、一番最初に元気をくれた人だから。別に彼女はなんとも思ってないと思うけど、あの出会いはかなり心の支えになっている。彼女の屈託のない笑顔にどれだけ心が軽くなったか知れない。そのせいでたぶん団長にはあんま良く思われてないだろうけど、あれから変な嫌がらせを受けたなんてことは全くないし、気にすることもないだろう。


「はぁ…」


しかし思わず溜め息。だってきっと今も本宮さんは団長室。まさか団長の目の前で彼女を借りて行く何てしたら恐いことが起きそうだ。団長は少なからず本宮さんのこと気に入っていそうだからなぁ。どうしたもんかなぁ…。


「うーん」


でもまぁ、別にいやらしい意味で本宮さんに関わろうとしてるわけじゃないし、堂々としてればいっか。それに二人が恋人って決まったわけでもないし。


「よし、明日にでも団長の部屋行ってみよ」


やっぱり団長の部屋は広いのかなぁ。団長まだ若いのにすげぇよなぁ。俺も頑張らせて頂きます!!









それぞれいろいろ

あるよねー





20091225白椿


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