「ごめんなさい、てっきり俺と同じ新人かと思って」

「いえ、いいですよ」


微笑みながら言えば安心したように笑った。短い漆黒の髪に同じ色の瞳。神威団長より少し高めの身長の彼は、


「改めまして、今日から第七師団に配属になりました。藍斗(あいと)って言います」


そう名乗って手を差し出した。それを握って、


「本宮雛って言います、よろしくお願いします。」


まだ出会って数分なのに、彼の笑顔には人を安心させる何かがある。笑顔ですんなり自己紹介できてしまった。


「本宮雛?…もしかして本宮さんは地球の人?」

「へ?」

「あ、いや、名前が二つあるみたいだから…そうかなって思って」

「…ああ」


そういえば、あたし、自分のこともよく分からない状況だ。どこ出身なのかもはっきり分からない。後で団長に訊いてみようかな。
藍斗さんが少し首を傾げてこちらの様子を窺っている。何か答えなくてはと思っても何も言えず、いっそ記憶喪失だと言ってしまおうと思い口を開くと、


「まぁ、出身地なんてそんな関係ありませんよね」


人の良さそうな笑みでそう言った。そして、


「これからいろいろ迷惑かけると思いますが、よろしくお願いします」


律儀にそう付け足した。こんなこと思うのも何だけど、第七師団には珍しい種類の人だと思い、つられてあたしもこちらこそと頭を下げた。





―――――**





本宮さんの存在に少し安心した。
もともと戦闘というものはやるのも見るのも好きだ。強さを求める人たちも好きである。だから宇宙でもっと戦場に出会って強くなりたいと思って師団に来たのは事実だけど、まさか師団自体がこんなにピリピリした雰囲気を纏っているとは思わなかったのだ。戦場にこそなっていないが、新人を歓迎する雰囲気はない。最初に会った阿伏兎さんはそれなりに面倒見の良さそうな感じはしたが、聞くにあの人は団長の世話係らしい。新人の面倒なんて見ていられるほど暇ではないようだ。


「でも、ちょっと意外だなぁ」

「何がですか?」

「本宮さんみたいな人が第七師団にもいるなんて」

「わたしみたいな?」

「はい、ここの人たち、みんな血の気が多いじゃないですか」

「確かにそうですね」

「…もしかして、」

「?」

「もしかして、こう見えて本宮さんも戦場出るんですか?」

「え?あ、いやあたしは…」


そう言えばやっぱりと安心したような笑い声が上がった。


「本宮さんからはそういうオーラ感じないから」

「オーラ?」

「たまにそういうオーラ完全に消してる人もいるけど、戦場に出てる奴らは少なからずそういうの纏ってるんです。俺そういうの見るの得意なんで」

「へー」


一目見たときから違うと確信していた。
こんなに殺気だらけのとこにいたら、いくら俺が戦闘好きって言っても発狂してしまいそうだと思っていたから迷わず声をかけたんだ。俺は宇宙最強の戦闘種族夜兎ではないから、少なからず安心できる場所を求める。彼女は間違いなく戦闘とは無縁だ。でもそれならどうして、


「あの、失礼かもしれないですけど、本宮さんは第七師団で何をしているんですか?」

「…えと」

「戦闘員以外の仕事って言うと調理員とか清掃員ですか?」

「…」

「…?」

「…」


無言になってしまった彼女に少し焦りを感じて再び口を開こうとしたとき、


「雛ー」


誰かが入ってきて、


「あ、」


本宮さんは顔を上げ、声にした方を振り向く。


「雛いる?」

「はい、ここです。すみません遅くて」


本宮さんは声をあげて返事をした。誰だろうと声のした方を見れば、現れたのは桃色の髪を三つ編みにした青年。ニコニコと張り付けたのような笑顔を携え、しかし俺を見るなり彼は瞳をぱちっと開けて、


「誰そいつ?」


さらっと、しかし少し冷たく響くその声に彼の強さを推し量るのは難しい。でも、


「あ、今さっき出会って、今日からここに配属になった藍斗さんです」

「ふーん」


なんだか、安心できる存在ではないような気がした。










その瞳がものを言う

あまりその子に近づいてくれるなと





20091221白椿


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