今日も雛が目を覚ます気配はない。
四日目…か。医療班が言うには、命に別状はないらしい。だけど目を覚ますとは言わなかった。つまり目を覚ますかどうかは分からないということだ。


自業自得…


そんな言葉に渇いた笑いが漏れる。らしくないと思いながらも、そんなふうに落ち込んでみる。そういえば、前に雛が、俺に殺されそうになったら、俺に殺される前に自殺するとか何とか言っていた。もしかして今、それを決行しようとしているんじゃないよね…?もう目覚めないつもりじゃないよね…?


「ごめんね」


もう何度したか分からない謝罪。雛にちゃんと届いているのかも分からない。それでも謝るのは、彼女が目覚めた時の不安から。目覚めてほしい。目覚めてほしいけど、もし雛が目覚めたときに、俺に前と同じ笑顔を見せてくれるかとても心配だ。

正直怖い…。

雛に拒絶されることが怖い。でも、このまま目覚めなかったらどうしようという不安も大きい。それから、これから雛をちゃんと守っていけるだろうか…。そんな不安もある。不安だらけで胸の奥がぎゅうっと狭くなって窒息してしまいそうだ。悲しいね。弱い自分にさらに息が詰まる。


「俺は、雛が一番だよ」


白くて細い手をそっと握った。でも、俺の方が若干白い。彼女は地球人。俺は夜兎。彼女はいつだって儚くて壊れやすい。簡単に壊せてしまう。そんな弱さ。でもいつも温かくて笑顔で、こんな狂気的な俺を穏やかに包み込む。


「…」


小さく浅い呼吸を繰り返す、動かない雛の手は冷たい。胸の奥が締め付けられる。

どうしてこんなことになってしまったのか…。

傷つけたいなんて一度も思ったことないのにね。傷つけないように努力だってしてきたつもりだ。なんでよりよって…。
やっぱり俺に守ることは出来ないのだろうか…。どうすれば…良かったんだろう…。


「今からまた任務に行ってくるよ」


急遽延滞して後回しにしていた交渉。あの頑固な年寄りたちと話をつけてこなくちゃ。強行突破もいいけれど、今はそんな気になれないから話し合いから始めてくるね。


「行ってきます」


頑張ってくるよ。雛も頑張って。
そんなこと、傷つけた俺に言う資格はないのかもしれないけど、そう思わずにはいられない。こんな俺に雛は釣り合わないって誰かに暗示されているようで…もし運命というものが存在していたなら、俺と雛は引き離されるべき存在であるような気がして。
それでも、帰ってきたときに、笑ってお帰りなさいを言ってくれたらいいなぁと。










取りとめのない思考の渦

どんなに思ったって、君が笑ってくれなきゃ意味がない




20091115白椿


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