なんやかんやいろいろあったけど、ようやく平和な毎日が戻ってきた、なんて夜兎の俺が言うのも変な話だが、前の日常が戻ってきた。

面倒なことは阿伏兎に任せる。そんで戦場に降り立つまではぐだぐだと…たまに雛をかまって…いや、ちょくちょく雛をかまって…。


「しりとり」

「り、りんご」

「ごますり」

「り、リヤカー」

「狩り」

「り、旅行」

「瓜」

「り、リップクリーム」

「娘盛り」

「り、利益」

「霧」

「ま、また…り、りす」

「スリ」

「…り、リスク」

「薬」

「り、り…リュックサック」

「栗」

「り、り、り、…」


しりとりって案外楽しい。雛が眉間に皺を寄せながら考えている。それはそれは真剣に。


「雛あと30秒ね」

「30秒!?」


こう時間制限とかがつくと、途端に雛はパニクることを俺は知っています。だから敢えて言ってやるのです。


「5、4、3、」

「り、り、り!リムジン!!」

「アウトー」


うん、俺ってしりとりの天才だ。少し緊張した面持ちの雛に笑いかける。


「じゃあ約束だから何でも言うこと聞いてネ」

「うぅ…」


雛が必死だったのはこういう訳である。


「うーん、何してもらおっかなぁ」

「…」


凄い心配そうにこちらの様子を見ている。それはさながら怯えた小動物のごとく。加虐心を煽られる。


「うーん、ここはやっぱり」

「や、やっぱり?」

「一発ヤるって方向で」

「ひぃ!!む、無理ですぅううっ!!!」


案の定血相変えて逃げ出す雛の腰に素早く腕を回す。


「ほら逃げない」

「や、」


そのままベッドへダイブ。ボフンとスプリングが一度跳ねる。ベッドの真ん中に座り込むように着地。しっかり後ろから抱き抱えたまま、


「じゃあいただきまーす」

「ひぃいっ!!ホント無理そういう展開には不馴れなものでー!!」

「うん知ってる知ってる、だからこれから馴れなきゃね」

「た、確かに慣れるべきかもしれないですけどちょっと今はー!!」

「じゃあいつならいーの?」

「…うっ」


と押し黙る彼女は耳まで真っ赤で苦笑した。仕方ない、ウブっ子ちゃんだもんね。


「分かったよ」

「…え」


それなら、


「代わりにチュウで手をうとう」

「…」


しかしながら俺だって健全な男であるわけで、欲は人並み。だから今まで我慢してこなかったわけじゃない。いろいろ我慢してきた。めちゃくちゃにしちゃいたい衝動を抑えて…雛には分からないだろうけどいろいろ大変なんだよ?
だからせめて、次のステップ行ってみよう!


「…キス?」

「うん、雛からしてね」

「…」


いっつも俺からしてたしね。今回は雛からしてもらうことにする。


「あ、あたし、から…?」

「うん」


余計に赤くなった気がする顔。瞳が不安気に揺れる。


「あ、あの」

「もちろん唇にだよ」

「…」


ほっぺにとかそんな世の中甘くはないのである。


「ほら早く」


少し俯いて渋る。しかし暫くすると改まって向き合う雛。思ったより早い決心に心で拍手した。よし、とか気合い入れをしている。


「…いきますよ」


そう言うと少しずつ近付いてくる。下から来ますか上目遣いですかそうですか。なかなかやりますね。がしかし、だんだん雛の顔は赤みを増し、


「…団長」


途中でストップした。


「ん?」

「目、閉じて下さい…」

「…ああ」


ああ、目ね。言われた通り閉じてあげる。視界が真っ暗になって雛の気配だけを辿る。本当は一部始終観察したいところだ。目を閉じて数十秒、


「雛まだ?」

「も、もう少、し」


と言ってもなかなか来ないため、片目だけちょーっと開けてみた。





─────**





ね、狙いが定まらない。目を瞑ると、当たり前だけど何も見えなくなってどこにキスすればいいのか、


「…何してんの?」

「わっ!!」


気付いたら団長が開眼していて急いで離れる。


「キスは?」

「あ、あの、」

「ん?」

「どうやって狙いを定めたらいいんでしょうか?」

「…は?」

「目を瞑ると、どこに何があるのか分からなくなります」

「まぁ当たり前だね」

「…はい」

「ちゃんと触れるまで雛が目開けとけばいいんじゃない?」

「無理です」

「何で?」

「は、恥ずかしいから…」


そう言ったら神威団長は一瞬キョトンとした後ケタケタ笑い出した。あたしは黙って笑う団長を眺めた。


「本当に雛はどうしようもないね」

「…すんません」


だって思い切ってキスしてみて的外してたらそれこそ恥ずかしいじゃない…。
一通り笑い終わったらしい神威団長は、まだクスクスしながら口を開く。


「じゃあ俺が目開けとくよ」

「…え?」

「雛は目閉じてていいから」

「…」

「俺が狙い定めてあげるから安心しておいで」

「いや、見られてるのも…」

「何かを成し遂げる為には時に犠牲も必要だよ」

「うぅっ…分かりました…」


澄んだ碧い瞳に見守られて、再び団長と向き合う。心臓がドクンドクンと強く脈打つ中で、少しずつ少しずつ近付いていく。









重なる5秒前

甘い甘い罰ゲーム










20090904白椿


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