「で、どこまで行きたいんですかィ?」

「え、あ…」


確か沖田さんは真選組。真選組は警察。だったらきっと海賊の敵!!まさか春雨の船まで連れて行くわけには行かないだろう。


「どうかしやしたかィ?」

「いや、あの」


あ、そうだ


「あの、この近くのケーキ屋さんまで案内してもらえますか?」


銀さんの所に行く前に寄ったケーキ屋さん。あそこまで行けば何とかなるだろう。


「りょーかい」


言って沖田さんはあたしの少し前を歩き出す。後ろ姿を見て思う。あたしってすごい。神威団長、阿伏兎さん、銀さん、神楽ちゃん、新八君、そして沖田さん。全部で6人の銀魂キャラに出会ったことになる。なんか、もう感動しすぎて心が壊れそう。これできちんとした銀魂愛読者だったら発狂してるだろう。


「あんた、江戸の人じゃないんですかィ?」


と急に声をかけられて、


「あ、ははいっ」


吃る。


「どこから来たんですかィ?」

「え、えと…う、宇宙から」

「宇宙?なんでィ天人か」

「いえ、地球人なんですけど訳あって」

「…ふーん」

「…」

「じゃあこれから江戸に住むんですかィ?」


いや、そうじゃないけど、


「…まぁそんな感じです」


説明をするには危険なうえに面倒なので嘘を言う。


「じゃあ家まで送って行きますぜィ」


わ、わぁ!!沖田さんてこんなに良い人だったの…!!でも困る!!非常に困る!!


「い、いえ家まだ決まってないので…」

「は?もうじき暗くなるのにどうするんでィ?」

「だだ大丈夫です!!当てはありますから!!」


必至で言ったら頭をポリポリして


「そうですかィ」


とりあえず納得してくれたようだ。あたしはすぐに話題を切り換えようと、


「お、沖田さんて真選組の方ですよね?」


言ったら、


「あれ?何で俺の名前知ってるんでィ?」


デ、デジャヴー!!!しまったあたしって学習能力皆無なのかしら!?神威団長の時と同じミス!!


「いいいやだってだって沖田さんこの辺じゃめっさ有名じゃないですかぁ!あははっ」


有名かどうかなんて知らないよ!!冷や汗ダーラダラ。心臓バックバク。


「へぇー、そいつぁ知らなかった」

「あはは」


もう口開くの止めといた方がいいかもしれない。自分が恐い!と思っても、


「で?確かに真選組ですけどそれが?」

「あ、いやあたしと歳かわらなそうなのにすごいなって」


口は思うことをベラベラ紡ぐ。まぁいっか。もしかしたら最初で最後の出会いかもしれない。思うこと全部言ってみようか。


「すごい?」

「江戸の平和のために頑張っているんですよね?」

「…」

「すごいです。あたしなんてお荷物にしかなってなくて…」

「お荷物?」

「初対面の人にこんなこと言うのなんですけどね…あたしホントだめな子だなぁって最近よく思うんです」

「…」

「何やっても中途半端だし、自分のこともよく分かってないし、助けられてばっかで…」

「へぇー」

「だから沖田さんみたいな人尊敬します」





─────**





あんまりニコニコ言うので面食らった。なかなかに人を褒めるのが上手だと。


「もしかして、」

「え?」

「働き口のことですかィ?」

「え?」


真選組である事自体を凄いと思ったことはない。江戸の人々からはむしろ幕府の犬だと罵られることの方が多い。そんなふうにすごいと言うのは、たいてい色事目当ての女だが、彼女にはそんなふうには見えない。だとしたら、


「働き口が無くて困ってるんじゃないんですかィ?」

「…」


単に働いてること自体を凄いと言われたのかなぁと思う。確かに最近は天人が沢山いて地球人は就職難。女ともなれば尚更だろう。


「ここに来たばっかなんだろィ?働く場所探してるんじゃないんですかィ?」

「あ、いいえ、そういうわけじゃ」

「良かったらウチの女中やるかィ?」

「え"っ!?」


ビックリしたようにこっちを見る顔。おかしくて笑いそうになるのを堪える。


「ちょうど上から頼まれててねィ」

「上から?」

「真選組は男ばっかのむさくるしい所なんでさァ。今女の手が必要でねィ」

「…大変そうですね」

「で、どうですかィ?」

「あ、せっかくですけどごめんなさい。」

「働くとこあるんですかィ?」

「い、一応…」


彼女はそう言うと目を逸す。少し疑問を感じながらも初対面の女に根掘り葉掘り訊くわけにもいかない。


「あ、」

「ん?」


いきなり立ち止まるので何かと自分も止まると、


「夕焼け綺麗ですねー」


確かに前には赤い空が広がる。大きな赤い太陽と穏やかに浮かぶ雲。


「こういうの、一緒に見れたらなぁ…」


隣の呟きに首を傾げる。少しニヤリとして、


「誰とですかィ?」


そう問えば、


「…大好きな人」


と恥ずかしそうに、でもニコニコ嬉しそうに言った。その時不覚にもちょっと可愛いかもと思ったのは秘密にして、


「へぇ、物好きなヤツもいたもんだねィ」


そう言ってみたら、


「ははっ全くです」


いや、そこ納得するとこじゃないだろうに。予想外な反応に瞬きしか出来なかった。


「沖田さんはモテそうですね」

「そうですかィ?」

「うんうん。カッコいいし優しいし、笑顔が素敵ですからね。女の子たちイチコロですよ」

「ははっ、じゃあ付き合ってくれやすかィ?」

「ぇえ!!」


もちろん冗談だ。どうやら好きな野郎がいるみたいだしねィ。だけどちょっと揺すってみようかなぁと思って、その素敵な笑顔とやらをしてみたら、最初こそ少し頬を染めたけれど、


「沖田さんやっぱりモテるでしょー。そうやっていろんな子口説いてるんじゃないですかー?」


と笑顔でスルーされた。
ちょっと不思議な感覚。見返りを求めずにただ会話を楽しんで褒めてくれる女の子って、案外俺の周りでは貴重だったりする。姉上以外で出会ったことはないかもしれない。今まで雇った女中たちは皆いつも俺か土方さんに言い寄ってくる。だからすぐに思い通りにならないと分かると辞めていく。


「次、右ね」

「あ、はい」


だから少し遠回りしようと思う。最初は少し前を歩いていた俺。気付けば隣の彼女に歩調を合わせていた。









夕焼けに染められて

もう少し話してみたい










20090903白椿


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