女の子同士のお話って、こんなに楽しかったっけな。考えてみたら久しぶりかもしれない。向こうの世界にいる時は女の子のお友達といることが多かったけど、こっちに来てからは神威団員や阿伏兎さんとかといる。お掃除係の人で数人女の人と顔見知りだけど、こんなに歳の近い人はいない。
神楽ちゃんはいろいろ教えてくれた。銀さんのことが主だったけれど、他にも新八君や新八君のお姉さん、真選組、ヅラさんやマダオ。彼らがどんな人でここの生活がどんなに楽しいか、それがよく分かる。でも神威団長については一切喋らなかった。本当は小さい頃の話とか聞けたらなぁと思っていたのだが、聞かない方がいいような気がして我慢する。あたしは団長のこととか春雨のことを話せる範囲で話した。まぁ重要なことはあたしには知らされてないから心配はないと思うのだが。
「…雛は、本当にアイツのこと好きみたいアルナ」
そうして呟かれた言葉。言われたら恥ずかしくなって口を閉じる。か、顔に出てたかな…?とか変なこと言ったかなとか一瞬にしていろいろ考えてしまう。そんなあたしをよそに神楽ちゃんは言う。
「なんか、すごく嬉しいアル」
「…え」
「アイツの傍に、雛みたいな子がいてくれてるのが」
「…」
そうやってとても優しく笑った。そんな事言われたら背中がムズムズする。良い妹だなぁと思う。ちょっと団長が羨ましい。あたしも妹欲しかったなぁなんて。
「雛、ありがと」
時間というのは不思議なもので、楽しいと思う時こそ素早く流れ去っていく。気付けば赤みがかる世界。大きな太陽が赤く光りを放ちながら西へ傾いていく。
「…そろそろ帰らなきゃいけないなぁ」
呟くと隣の桃色が揺れた。
そろそろ帰らないと暗くなってしまうから仕方ない。みんなが心配するといけないもの。
「一回万事屋来るヨロシ」
「ありがとう、でもここでお別れしましょ」
「え、ここでアルカ?銀ちゃんも新八も残念がるアル!」
眉間に皺を寄せた神楽ちゃんと視線を絡める。
「神楽ちゃんありがと、あたし敵の身内なのにちゃんとお話聞いてくれて」
「ありがとうはこっちのセリフアル、最初は酷いことしてしまったし!もう一回万事屋まで来てヨ!!」
「本当にありがとう、嬉しいです。でもほら、やっぱあたしは敵ですからね。これ以上の馴れ合いはよくないかなって」
「…」
少し感じているんだ。このままもっともっとみんなと仲良くなってしまったら、いずれあたしは自分を見失う。銀さんも神楽ちゃんも新八君もみんな良い人。好意を持てる人。だけどその銀さんや神楽ちゃんが教えてくれたのは、神威団長の傍にいていいということだったのだから。あの吉原の事件から悩んでいたこと。いつか、神威団長が銀さんに殺されてしまうんじゃないかという事と、果たして夜兎と地球産は共存できるのだろうかという疑問。やっぱり今日みんなに会いに来て良かったな…。大事なのは自分の意思だと教えてくれた。戦うこと、血の争いを認めたわけじゃないけど、それでも一緒にいたいと思ったら、そうすればいいんだ。あたしは、いずれ神威団長が銀さんに勝負を挑む時がきても、神威団長の味方でいたいと思う。いや、今そう思えた。殺しは反対だけど、気持ちはずっと貴方の味方でいたい。だったらこの馴れ合いはここまでにした方が良い。
それにもう一つ。神威団長に黙ってこんなことしてる自分。神威団長に秘密事作ってる自分に少し胸がザワザワする。
「銀さんや新八君によろしく伝えて下さい」
「…ちょ、ちょっと待つアル!」
「ん?」
「お土産とか買っていかなくていいアルカ?」
「あ、買っていこうと思ってたんですよ!…良いお店知ってますか?」
言ったら笑ってあたしの手を引く。その姿が神威団長に重なってドキリと胸が反応した。
やっぱり、団長にちゃんと話した方がいいのかな…。今日のこと。
悶々と悩みながら、駆け足で数分。
「ここの団子お勧めアル!」
元気な声に振り仰ぐ。確かにそこには昔ながらのお団子屋さんがあった。うん、いいかもしれない。
「雛、何にするアルカ?」
「うーん…」
やっぱりここは定番の、
「みたらし団子にしよっかな」
「オヤジ、みたらし団子あるだけ頼むアル!」
あるだけ…?
案の定、用意されたのは大きな袋に何十箱と詰め込まれたみたらし団子。すげぇ…。支払いには困らなかったけれど、持つのが大変。でも持てないこともない。
「途中までわたしが持つネ」
そう言ってひょいっと袋を奪われて、見たら軽々と袋を持つ神楽ちゃん。さすが夜兎である。
少しずつ暗くなる街、他愛ない話で笑う。時間はどんどん過ぎ去って行く。やがて、二人の分かれ道が近付いた時、
「今日は本当にありがとうございました!」
もう一度頭を下げる。
「また来てヨ」
その言葉にお礼を言う。でもまた来れるかは分からないから頷くことは出来なかった。みたらし団子を受け取って、
「バイバイ」
手を振る。神楽ちゃんはとびっきりの笑顔を見せてくれた。あたしも出来る限りの笑顔を…。
その時あたしは気付かなかった。みたらし団子の袋の中に、一枚の桃色のメモが滑り込んでいることを。
「雛!また遊ぼうネ!!」
「…うん」
また来られるか分からないけど、来れたらいいな…。神楽ちゃんと、お互いが小さくなるまで手を振って、やがて見えなくなると溜め息一つ。
話せて良かった…。
何も迷うことなんてなかったんだなぁとしみじみ感じて顔がニヤける。
神威団長のことが好き。その気持ちがあれば、一緒にいられるんだ。良かった…一緒にいられるんだ!あたしの気持ちしだいなんだ!
そう思ったら世界は輝き出す。歩調も上がる。鼻歌を歌いたくなる。早く帰ろう。大好きな貴方のところに!
ルン、と大きく一歩を踏み出して、でも立ち止まる。
「あれ?」
さっきこっちから来たからこっちへ行けばいいんだよな。だけどあの分かれ道はどっちだったっけ?アレ?向こうの道だっけ?
「あれれ?」
いやいや今神楽ちゃんは向こうに歩いて行ったからあたしはこっちだ。こっちだけどあそこの道は右?左?あ、違う違うこっちか!アレ?でもあんなお店あったっけ?
「…」
オーノー!!まさかの迷子かよ…!!!こんな大きな袋持って迷子かよ!!!どうしましょ…!今なら走れば神楽ちゃんに追いつけるはず。あんな素敵な別れ方したけどもう一回会いに行こう!再会って案外すぐ出来るものなのね!!
レッツ回れ右!!
ドンッ!!
「おっと…」
「あ、すみませんっ」
焦りすぎて周りが見えなかった。回れ右して誰かと激突。迷子で激突…恥ずかしいことこの上ない。
「大丈夫ですかィ?」
「は、はいすみませんっ!」
「急ぐのはいいけど、きちんと前見なせェ」
「はいっすみません!」
…あ
チラリと相手の顔を見て目を見開く。
沖田…さん?
「何か困りごとならお手伝いしやすぜィ」
「あ、いや」
ビックリしすぎて今度は頭が回らない。
綺麗な薄茶のサラサラした髪に、神威団長に負けず劣らずの整った顔立ち。クリクリと大きな瞳がこちらを見つめる。
あたしが暫く放心していたら、
「ん?なんか困ってることあるんですかィ?」
言われて咄嗟に口を動かした。
「あ、あのォ」
「ん?」
「み、道を…教えて頂けませんか?」
「ああ迷子ね」
グサリ。ハートを何かが貫いた気がした。迷子…ああそうです迷子です…!
別れの後の出会い
可愛い顔したS王子
20090901白椿
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