少し不思議だった。
雛という女の子。わたしより年上で、わたしより弱い地球人の女の子。兄ちゃんの…神威の傍にいる女の子。神威が傍に置く女の子。アイツは、どうしてこんな普通の子を傍に置いているのだろうと。
「雛は…」
「…ん?」
「…神威のどこがいいアルカ?」
そう言ったら不思議そうにこっちを見た。その後首を傾げる。
「…」
沈黙した。
「どこがいいアルカ?」
もう一度訊いてみたが沈黙は続く。考えているようだ。
「…そういえば、どこが好きなんだろ?」
暫く経って出てきた言葉はそんなものだった。
おいおい…マジでか。
「…明確な理由はない気がします…でもなんか一緒にいたいんですよね」
さっき、傍にいる理由は好きだからだと言ったのに、好きな理由はあやふやらしい。そんなはっきりしない理由でアイツの傍にいるなんて、どんなに物好きなんだろう…?半ば呆れて溜め息した。
「…」
あのバカ兄貴のいいところ…。昔のアイツのいいとこなら沢山言える。ずっと一緒にいたから。でも今は分からない。悪いとこしか見えない。だから知りたかったのに…。そんな今のアイツと一緒にいる道を選んだ雛に教えてもらいたかったのに…。雛は思ったよりマイペースでフワフワした子らしい。こう言うのもなんだが、アイツが最もウザがるタイプじゃないだろうか…?
「じゃあ、神楽ちゃんはなんでですか?」
「何がネ?」
少し沈んだ気持ちを引き上げる。隣の質問に目を向けた。
「どうして神楽ちゃんは銀さんたちと一緒にいるんですか?」
「…」
「銀さんのどこがいいんですか?」
そんなの決まってる…って口を開いたのに、
「…」
言葉が出てこなかった。自分に首を傾げる。
「銀ちゃんは…」
「銀さんは?」
言葉が出てこない。いやいやわたしはちゃんと銀ちゃんの良いとこ沢山知ってるヨ。
「いっつも金欠で糖尿寸前で、でも甘いもん大好きでだらしなくて、天パで死んだ魚の目で…」
…アレ?
これいいとこ?
自分でも何が言いたいのか分からなくて雛を見たら、不思議そうに首を傾げていた。
「…わたしは、雛とは違うアル。銀ちゃんのことを特別な意味で好いてるわけじゃないネ」
「特別な意味?」
「男と女ってことアル」
「…ぷっ」
言ったら笑い声が聞こえてきた。雛がクスクス笑いながら、
「もしそういう関係だったら、銀さんかなりのロリコンですもんね」
言ってさらに笑う。
「…」
「クスクスっ」
言いたいことはそんなことじゃなかったのに、雛の笑顔にはどこか不思議な力があるらしい。
「…ははっ」
なんだか自分も笑えてきて、
「金欠で糖尿で天パで、おまけにロリコンまでついたら最低な男アルな」
「あはは」
なんだか警戒心とか不安とか疑問とか全部無視して、一緒に笑いたいと…。変なの。いや、雛が全然敵っぽくないとこに問題がある。緊張感の欠片もない。
雛は笑顔で口を開く。
「でも、それなら銀さんは幸せですね」
「え?」
「そういう、あまり綺麗でない部分を知っても、一緒にいてくれる人がいるんだから」
「…あ」
それを聞いてふと気付く。
幸せなのはわたしの方だ…と。
吉原で血に溺れたわたし。その姿を見ても、逃げずに一緒にいてくれたのは…?どんなに迷惑かけても、どんな失敗しても、他人なのに天人なのに、ずっと一緒にいてくれたのは、
「神楽ちゃん、もう一つ訊いてもいいですか?」
「…何アルカ?」
「夜兎から見て、地球産ってどんな感じですか?」
「…別に普通アル」
「普通?」
「銀ちゃんも新八もわたしと何も変わらないヨ……って思いたいアルけどやっぱ少し違うネ」
「…」
「銀ちゃんも新八も、わたしより何倍も強いアル」
「強い?」
「そうアル。地球人はみんな不思議な力を持ってるアル」
「…」
「みんな、わたしのずーっと奥深くに語りかけてくるのヨ」
「…?」
「雛みたいに」
首を傾げて眉間に皺を寄せる雛。無自覚なところがすごいと思う。それは銀ちゃんも新八も同じなのだが。
温かい世界を教えてくれるのは、いつだって地球の人。なんとなくだけど、雛という人間も見えてくる。すっごく優しい子なんだろう。地球人らしい子だ。わたしたちが持たない繊細さを持っている。
そうか…。アイツも地球の色に惹かれたのか…。
「雛は、夜兎と地球人が一緒にやってくの無理だと思うアルカ?」
「…え?」
少し驚いた顔をするあたり、雛はこの理由でわたしたちに会いに来たのかなぁと思う。何となく勘づいていたけど、バカ兄貴と何かあったのかなぁと…。もしその場合、悪いのは全面的にアイツの方だと思うけどな。
「…」
「…雛」
大丈夫。わたしは何度もこの種族の違いと向き合ってきた。それでもここにいるんだから。
「その人次第アル」
「…え」
「一緒にいたいってお互いに思っていれば、種族の違いなんて関係ないヨ」
「…うん」
「種族の違いは個性の違いアル」
そう言えばすごく優しく笑う。
「うん。そうですよね」
雛はアイツにもこんな笑顔を向けるのかなぁなんて思ったら、ちょっとだけ悔しくなる。もったいないよ、こんなに優しい子。アイツのものだなんて、なんかムカつく。
だけど、
「雛」
「ん?」
「アイツに愛想が尽きたらいつでも万事屋に来るヨロシ」
「ははっ」
「でも、愛想尽きるまでは傍にいてあげてほしいヨ」
「…」
神様は人に、出会いだけは平等に与えるのだろうか。兄ちゃん、わたしたち、出会いの運だけはあるみたいだね。理由はないけどなんとなく一緒にいたい…こんな不確かな理由で一緒にいてもらえる。でもそうだよね、理由なんて一緒にいたいだけで十分だよね。一番信頼できる理由かもしれない。わたしも、そんな純粋な理由でここにいれたらいい…。
「少なくともわたしは、今日雛と話せて良かったヨ」
同じ悩みを持つ者同士、女の子同士、
「あたしも、神楽ちゃんと話せて良かった」
今日この時を糧にしていこう。希望をありがとう。
乙女たちよ、笑え
わたしにとって地球人は、夜兎を幸せにしてくれる種族アル
20090828白椿
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