神威団長と銀さんが戦ったら、銀さんが神威団長を殺そうとしたら、あたしはどうするんだろう。
尋ねた銀さんはまっすぐな瞳であたしを見つめてる。すべてを見透かされているような感じがして居心地が悪い。あたしは首を傾げて答えた。
「分からないです」
これが正直なところだ。銀さんと神威団長が戦い出したら、あたしなんかがとめるのは不可能だし、どうすることもできないだろう。何にも出来ないというのが正しい答えかもしれない。
「そっか」
銀さんはそう言ってあたしの頭をポンポンした。少し落ち着く。
「本当はその件で来たんです」
「おう」
「銀さんと神威団長に戦ってほしくなくて」
「…」
「銀さんに神威団長を殺してほしくなくて」
「…雛ちゃん」
「はい」
「それはさ、銀さんが団長さんに殺されるのはいいってこと?」
「え?」
一瞬何を言われているのか分からなかったけど、
「あ」
すぐに理解した。慌てて首を振る。
「もちろん銀さんが神威団長に殺されるのも嫌です!!でも、」
「でも?」
「たぶん…銀さんが負けることはない」
「…」
「銀さんが負けることはないですよ」
-----*
言い切る彼女に少し疑問を感じる。
「どうしてそう思う?」
夜兎の戦闘能力の高さはよく理解しているはずだ。地球産と夜兎だったら、明らかに勝敗は見えるはず。
雛ちゃんは困ったように笑うと少し唸って言う。
「銀さんは強いから」
「は?」
「銀さんは本当の意味で強いと思うんですよ」
「…そうでもねーよ」
「いいえ、そうですよ」
優しく微笑む彼女を見たら、自然とこっちも笑顔になる。
「じゃあ雛ちゃんは大好きな神威団長が負けると思ってるわけ?」
「…はい」
どうして彼女がそう思っているのかはよく分からない。でも、彼女なりの確信があるのだろう。
「だから、本当は今日は、」
「俺にアイツを殺さないよう頼みに来たわけね?」
「はい、でもそれが身勝手なお願いだってことはもう十分分かりました」
「…」
「だから、いいんです」
そう言って微笑む彼女がひどく儚く映る。もし万が一俺がアイツを殺してしまったら彼女がどんな行動に出るのか…。想像はしたくない。
「それに銀さん」
「ん?」
「銀さんはあの夜王さんを倒したじゃないですか」
「あんなん、俺が倒したとは言えねぇよ」
「そうですか?」
「おお」
もう一つ言っておこう。
「それから、この傷のことだけど」
「…」
「これは夜王に付けられたもんであってアイツのせいじゃねーよ?」
「…」
「雛ちゃんが責任感じることでもない」
さっきからこの怪我がまるで自分のせいであるかのように語る君。それは違うよ。
「ありがとう銀さん」
「…よし、じゃあ選手交代だな」
「え?」
訳が分からずにいる彼女のために前方を指差す。
「あ」
そこには桃色頭の少女。神楽がどこか拗ねたように立っている。もう少し素直になればいいものを溜め息する。本当は神楽だって雛ちゃんと話したいことがあるはずだ。そして、
「アイツに訊きたいこともあんだろ?」
雛ちゃんも神楽と話したいと思っている。雛ちゃんが頷くのを見て、ここは二人にさせた方がいいかと頭を掻いた。
教えてやってよ、兄貴のことを。そして話せば分かる、夜兎族の神楽が、普通の女の子だってこと。
「雛ちゃん」
「はい」
「俺も殺しは好きってわけじゃねぇ」
「…分かってます」
「ただ、大切なものがあるから、刀も持つ」
「…はい」
「雛ちゃんの言う強いってことが、そいういう強さのことを言っているんなら、その団長さんももう分かってると思うぜ」
「…え?」
「俺はアイツのことなんてよく知らねーし、この先どうなるかも分かんねぇけどよ、」
きっと君がいれば、未来はどうにでも変えていける。
「…」
「そんじゃ、神楽のこと頼むな」
少しでも光があることが分かれば、人は頑張れるもんだ。その光を神楽にも見せてあげてほしい。
小さな可愛い光は
君がいることそれ自体
20090802白椿
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