地球といってもあたしの地球とは文化が違う。だからあたしの世界の服だと大幅に目立ってしまうだろうと考え、薄い桃色のチャイナ服を着ることにする。あと、適当に必要だと思われる物を鞄に詰めて、船を出た。
「行ってきます」
「行ってらっしゃい」
そう言う神威団長が笑顔なのを確かめて、後は振り返らずに歩いてく。銀さんたちに会うという緊張と、漫画の世界を歩けるというわくわく。自然と歩調は速くなった。
銀さんたちがどこにいるかは、万事屋にいるという漠然とした情報しかなくて、万事屋がどこにあるかは分からない。人に尋ねながら歩を進める。途中でケーキ屋さんを見つけたので、ショートケーキを1ホール買った。
やっぱりあたしの地球の日本とは全然違う。現代のハイテクな技術と昔々の文化を足して2で割ったような世界。天人もちらほら見る。
「あのすみません、万事屋ってどこにあるか知ってますか?教えてほしいのですが…」
「ああ、この道をまっすぐ行って、二つ目の角を左に…それから…」
親切な人が多かった。尋ねれば皆笑顔で答えてくれる。
言われた通り歩いて行けば、うっすら見覚えがある『スナックお登勢』の建物。上には大きな文字で『万事屋銀ちゃん』と書いてある。
やっと着いた…
辿り着けた喜びとこれから彼らに会うという緊張で心臓が高鳴った。万事屋に続く階段を一段一段上がって行く。引き戸の前に立ったら、さらに心臓がドクンと大きく脈打った。
-----*
「ねぇ阿伏兎」
「なんですか?」
「雛どこにいるのかなぁ」
「知りませんよ」
「…」
「…」
「ねぇ阿伏兎」
「なんですか?」
「雛戻ってくるかなぁ」
「…さぁ、俺が知るわけないでしょ」
「…」
「…」
「ねぇ阿伏兎」
「なんですか?」
「雛のこと…解放してあげた方がいっかなぁ」
「は?」
「…」
「そんなに気になるなら見に行ったらどうですか」
「…」
「連れ戻す戻さないは別にして、見てくるだけなら問題ないだろ?」
「…」
正直面倒くさい。団長も雛も面倒なことこの上ない。別に二人でイチャコラしてくれるぶんにはいい。だけれども、そのいざこざがこっちにまでふっかかってくるから面倒だ。ただでさえ俺は団長の始末書で忙しいというのに、恋愛相談までなんてたまったもんじゃない。しかもあんたら両思いなんだろコンチクショー。見せつけか!早いとこやることやってスッキリサッパリしちゃって下さい!!
非常に面倒だ!!
-----*
「す、すみませーん」
ノックしてみたら引き戸が予想以上にガシャガシャいう。若干の緊張と一緒に暫く待つと、
「はーい、今開けます」
少しして、戸の向こうでくぐもった声が響いた。良かった、気付いてもらえたらしい。おそらく今のは新八君の声だろう。
ガラガラガラ
「こんにちは、お客さんですか?」
出てきたのはやっぱり新八君で、こんな間近に新八君が現われたことに少し感動する。でも、新八君が少し不思議そうに、
「あの、依頼の方ですよね?」
と訊くものだから、
「え?あ…」
あたし依頼人ではないけど、どう言えばいいかと首を傾げて考えていると、
「あれ?どこかでお会いしたことあります?」
新八君も首を傾げる。わたしが事情を話そうとした時だ、
「お前はバカ兄貴のォォ!!!」
ズガシャーン!!!
「うわっ!!」
もの凄い破壊音と共に戸と新八君が吹き飛んだ。桃色がシュンと横切る。
「何しにきたアル」
気付くと神威団長に似た女の子がすぐ隣に立っていて、
「ちょ神楽ちゃん!いきなり何すんの!!!!」
新八君の叫びの中、ピリピリする殺気が突き刺さる。
「早く言うアル!お前何しに来たアルカ!!」
「え、あの…」
ちょっと怖い…。殺気が怖い…。だけれどもこれは!!小さい神威団長だ!!女装した神威団長だ!!すごい!神威団長の妹だー!!!
あたしのテンションは頂点に達していた。恐がればいいのかはっちゃければいいのか分からなくなっていた。
「ちょっとお前ら何してんの?」
そんな中で万事屋の三人目、銀髪の彼が面倒そうに顔を出す。
「銀ちゃん、こいつバカ兄貴と一緒にいた女アル」
「あ?」
銀さんがこっちを見た。
死んだ魚のような赤い瞳に、一瞬だけ光が灯る。その瞳に見つめられて、
「…こ、んにちは…」
会えた感動にうねる心を抑えてとりあえず挨拶。そして、
「あの、つまらないものですが…」
ケーキを差し出そうとして、
「あれ?」
ケーキを持っていないことに気付く。
「ん?」
先ほどの吹き飛び事件のせいだ。ケーキは後方でグシャグシャになっていた。
過激なお出迎え
にぎやかな三人は正義の味方
20090731白椿
[*前] | [次#]