そんなこんなで、平和な桃色生活が始まった俺と雛なわけだけど、…うん。やっぱりいろいろあります。


「だ、団長団長!!!!」


ほら、こうやってテケテケと駆け寄ってくる雛は正直可愛い。


「ご、ゴゴゴゴゴ!!!」

「はいはいゴキブリ出たのね」


すっごく癒されたりするわけだけど、やっぱ彼氏を団長って呼ぶのおかしくね?
もう付き合い始めて二週間は経った気がする。気長に待とうと決めた俺だけど、何て言うか、雛の心は予想以上に純白で。
そう、雛の中の恋人理想っていうのが、例えるなら、お花畑に二人背中合わせに腰を下ろして、蝶がひらひらするのを眺めながらぼんやりして、お花綺麗ねうふふ、って言って笑い合う。そんな感じなのだと思う。いやこれは俺の憶測でしかないんだけど、たぶんこんなん。つまり、隣にいるだけで、彼女の心は満たされてしまうわけで、安上がりというか可愛いというか、まぁとにかく俺とは違うわけ。
だからいつまでも気長に構えていたら、一向に進歩がない。そう思うのです。
時には強引に出るのも彼氏の役目かなぁなんて都合よく考えて、


ギュッ!!


とりあえず抱きしめてみたりすれば、


「ひぃっ!!」


何とも色気のない声。まぁそれもいっか。

何回名前で呼んでって言ったかもう分からない。でも雛はどうしてもその壁が乗り越えられないらしいのだ。そんなに恥ずかしいことかな?
そんなこと言ってたら、これから先が思いやられるよ。
もちろん気長に待つつもりではいる。だけど、そろそろ名前で呼んでほしいと思うのは事実で、このままだと欲求不満で爆発しそうなので、いつもより声を低くして、耳元に口を寄せた。唇が触れるくらい寄せて、吐息と一緒に囁く。


「ねぇ、神威って呼んでよ」

「…っ」

「そしたらゴキブリ退治してあげる」


しばらく沈黙が続くけど、気にせずに抱きしめたまま。


「だ、…だんちょ…」

「…」

「神威、団長…」

「ちゃんと言えるまで離してあげないよ」

「…」


耳まで真っ赤になっちゃって…。
うっわー、なんか離したくなくなるね。さぁ、雛はどうするのだろうか…?
またも続く沈黙の中、彼女の口から弱弱しい音が、


「…か…」


消え入りそうなくらい小さく震えるカ。俺は抱きしめる腕に力を込めた。
頑張れ!!あとムとイの二文字だ。


「か、…かか」


よしよし、頑張れ雛。


「か、むい……神威…」


わぁ…言えた?
言えたね。
うんうん一歩前進。褒めてあげなきゃと思った瞬間、


「ぎゃああああああああああ!!!!言っちゃった!!恥ずかしいーーー!!!!!」


さっきより何倍も大きな声で叫んだ。抱きしめているから、雛の口は俺の耳の近くにあったわけで、


「…痛っ」


耳鳴りがキーン…。


でも、とりあえずよしよししてあげた俺はすっごい優しい彼氏だと思う。










とりあえず呼び捨て希望

二次元兎の求めに応じろ!!三次元少女の恋のレッスンその1










20090327白椿


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