「なんでそんなヘラヘラ人殺せんだよ!?」

「そ、そうだそうだー…」


なんとなく晴太君に便乗してみた。くるりと振り向いた神威団長に思わず晴太君と共に柱の影へ隠れる。


「ひどいなァここまで連れてきてあげたのに…てかどうして二人そんな仲良さげなの?」


晴太君の手をがっちり握って二人で柱から顔半分での団長とのやり取り。


「頼んだ覚えはねーやぃ!!それにオイラ別にこの姉ちゃんと仲良くしたいわけじゃねぇし!!」

「ええ!!…晴太君ひど…」

「だいたい姉ちゃんアイツの仲間じゃねーのかよ!!なんでオイラにくっつくんだよ!!さっきからアイツの視線がごっさ怖いんだけど!!」

「だだって…この恐怖を共感できた初めての人なんだもん」

「いいから離れろって!オイラ殺されそう!!」

「うわっ」


晴太君が手をブンブン振るから掴んでいられなくて手が離れる。すると団長が近付いてきて、


「雛、今度は俺と繋ご」


差し出された手を見て迷ってしまう。だってさっきまで人をスパスパ切っていた手っすよ…。団長は溜め息を吐いて言う。


「笑顔が俺の殺しの作法だ。どんな人生であれ最後は笑顔で送ってすこやかに死なせてやらないとね」


だからヘラヘラ殺してるわけじゃないからと再び手を差し出された。その手を少し戸惑いながらも握ると神威団長は晴太君を見てニヤリとし、


「逆に言えば俺が笑いかけた時は殺意があるととってもいい」


ひい!!団長なんか怒ってる気がする!!まさか本当に晴太君を、


「冗談だよ、俺は子供は殺さない主義なんだ。この先強くなるかもしれないだろう。だけど雛に手出ししたら」

「…な、なんだよ」

「…殺しちゃうぞ」


も、もう晴太君にくっつくのはやめよう…。ごめんよ晴太君、あたしのせいで余計な恐怖を与えてしまったね。
神威団長は満足そうに頷くと、


「おいでよ、君も笑うといい。お母さんに会うのにそんなシケた顔してちゃいけないよ」


…え?


見たら大きな扉が堂々と立ちはだかる。ご丁寧にこちらから開かないようにされていた。閉じ込められている…ということだろうか?天下の花魁様なのに…?





扉に何度も体当たりする晴太君を見ながら、あたしは疑問を神威団長にぶつけてみることにする。


「神威団長」

「ん?」

「どうして日輪さんはこんなふうに閉じ込められているんですか…?」

「夜王がそれだけお熱なんだろうね」

「それは、夜王さんが日輪さんのことを愛してるってことですか?」

「まぁそんな感じかなぁ…」

「愛してるのに、…閉じ込めてるなんて…なんか」

「変?」

「…そう思います」

「…そう」





-----*





少し眉をひそめた雛を見て思う。ああ、雛は綺麗な人間なんだって。まぁ前から分かっていたことだけれどね。愛する人には幸せになってほしい、地球産らしい立派でお人好しな考え方だ。俺はそんな考え方をする彼女を好きになったんだ。難しい顔をする彼女を見て頬が緩む。
だけど少し怖くなる。もし、今までに何度も訪れたであろう選択の時、雛が俺を拒絶するという選択肢を選んで俺のことを拒絶した場合、俺は今の夜王と同じことをしなかっただろうか?…と。
雛を鎖に繋いででも手元に置こうとしなかっただろうか?
今雛が眉をひそめるすべてのことをしたかもしれないよ。
雛が受け入れる努力をしてくれているという事実が少なからず嬉しい今。もし雛に拒絶されていたら、彼女を手に入れることに夢中になって今の夜王のように腑抜けになっていたのかなぁなんて。だけど腑抜けにされるまでって考えるとさ、


「なんか雛って普通すぎるんだよね」

「はい?」


普通の女の子。何にこんなにも惹かれるのだろう?この普通なとこがいいのかなぁ?なんにしても、腑抜けにされるにはいまいちインパクトのない彼女。こんな子にデレデレにされてる俺。


「うん、人って不思議」

「…」


もしかしたら日輪という花魁も案外普通の女だったりして…。








予感は的中しました

二次元兎は、本当は分かっている。三次元少女の魅力をね…










20090614白椿


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