「それなら、とりあえず今から一緒に行こうか」

「え?…どこに?」

「あの少年を探しにだよ」

「少年…?」

「うん」


あのどさくさに紛れて逃げ出した少年のことか。すっかり忘れてしまっていた。神威団長はあたしの手をにぎると立ち上がった。あたしも立ち上がってそのまま付いて行く。


「あの子の母親に会おうね」

「母親?」

「そ、なんか日輪に会ってみたくなったんだよ」


夜王鳳凰を虜にしたという天下の花魁様。日輪という名から記憶を辿って思い出せば、頭の中にはそれはそれは美しい着物の女性がイメージ像として現れた。


「…花魁様」

「そうそう」

「…」


思わず沈黙。団長まさか花魁様と一戦やるつもりじゃないよね…?花魁様って強いわけないよね…?
そんなことをモンモン考えていたら、


「あり?ヤキモチー?」

「え!?ううん!!違う!!」

「ははっ」


楽しそうに笑う神威団長に少し恥ずかしくなりながら、


「ただ、てっきり夜王さんとこに戦いに行くもんだとばかり思って…」


また戦いを求めてかと思ったのに、さすがに花魁様に戦闘スキルは求めないだろう。


「どうして花魁様のとこに?」

「そんなの決まってるよ」

「え?」

「一発ヤるんだヨ」

「は!?」


そっちか!!!いや普通に考えたら分かるだろバカ!!!カァーっと顔が熱くなるのが分かって、


「じゃ、じゃあ!あたし行かない方が!!」


早口でまくし立てれば神威団長はケタケタ笑って、


「じょーだんだヨ」


そう言った。ついでに溜め息を吐いて、


「どーやったら雛はヤキモチ妬くんだろねー?」


何か呟いたけどあたしには聞こえず、


「え?」

「んーん、何でもないよ」


それだけ言うと後は黙々と歩き、


「あ、いたいた」


気付けば辺りが騒がしくなっていった。沢山の走る足音と叫び声。少年が一人追いかけられていた。


「雛はここにいてね。ちょっと血を見るかもだけど」

「…うん」


神威団長は一瞬にしてその場から消えた。ズシャアという生々しい音と飛び散る赤。もう怯えたりしないぞと思っても、倒れていくのは人間の女の人。神威団長を恐ろしいと感じるななんて無理な話だ。それでも目を背けない。狡いかもしれないけど、これは二次元の世界だと自分に言い聞かせる。


「雛、おいで」


沢山の死体が転がる血で汚れた廊下を駆け足で団長のもとへ。


「さぁ、行こうか」


真っ赤に染まった団長の手を気にしないようにして、ぽかんとしている少年を見る。今神威団長が助けた少年。花魁様の息子…。


「…行こっか」


あたしは少年の手を取った。


「君、名前は?」

「え、あ、晴太…」

「そう、…晴太君、大丈夫だから、一緒に行こ」


それは半分自分に言い聞かせるように。

「あ、狡いなー、雛と手繋いでいいのは俺だけなんだよ」


その言葉に思わずクスリと笑うと、心なしか、神威団長の笑顔が少し柔らかくなった気がした。

大丈夫。どんなに怖いと感じても、どんなに貴方が殺しをしても、それがしっかり目的を持ってのことなら、あたしは貴方を嫌いになんてなれそうもない。こんな怖い貴方を見たのは初めてだけど、優しい貴方を今までにたっくさん見て来たから…。だから、だからもう少しだけ時間をちょうだいね。あたしは受け入れるよ。








貴方を見守る強さ

乗り越えなくちゃ見えてこないものもある










20090612白椿


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