別に弱いヤツが好きってわけじゃない。だけど強いヤツが好きってわけでもない。ただ、本当に強いってどういうことかなって考えてたら、地球に辿り着いていただけで。なんとなく、地球の居心地が良かっただけで…
明日ネ、地球は滅亡するんだってさ、名前も早く避難しなヨ
幼馴染みからそんな連絡がきても、なんでか頷くことが出来ませんでした。
今日、地球は滅亡するそうです
考えてみたらわたしが地球に来て早三年。歴戦の夜兎ともあろうわたしが、まさかこんな平和ボケした惑星を拠り所とするなんて想像もしていなかった。もう三年も戦場に出ていないなんて。
「でも、楽しかったよ」
「なんだよ急に」
銀ちゃんはわたしの突然の訪問に嫌な顔せず迎えてくれた。いつもの万事屋。だけど静かな万事屋。神楽ちゃんや新八くんは半ば無理矢理追い出したんだって。きっと今頃神楽ちゃんは海坊主さんと宇宙に、新八くんもお妙ちゃんとどうにかしている。
「銀ちゃんらしいね」
「…おめぇも早く行けよ」
首を傾げたら、溜め息を吐かれる。
「名前お前さぁ、状況理解してる?あと数時間で地球なくなるんだぞ」
「知ってるよ」
「お前夜兎だろ?地球人でもないのに、地球に残る理由ねーだろ、早くしねぇと間に合わねーぞ」
「…銀ちゃんが」
「あ?」
わたしだってね、なんで自分がこんなことしてるのか分からないよ。だけどさ、
「銀ちゃん、一人じゃ寂しいかなぁと思って」
言ったら銀ちゃんは目を見開く。みんな銀ちゃんといたいって言ってたのにさ、お誘い全部はねのけて、一人で最後を迎えるつもりだったんでしょ。お前らには一緒にいるべき奴等が他にいるだろ?そんな綺麗事並べて、上手いこと一人になったんだよね。だけどさ、銀ちゃんはいいの?誰かといたくないの?
大丈夫、せっかくの銀ちゃんの心遣いを無駄にしようなんて思っちゃいない。でも、最後に会いたくなったの。
「…それに、わたし地球が好きみたいだから」
「…」
「銀ちゃんはこのまま地球と死ぬの?」
「…」
「…離れる気は、やっぱりないんだね」
「…」
「銀ちゃん、ありがとうございました」
頭を下げる。わたしを、血染めの世界から太陽の世界へ引っ張り上げてくれた。ありがとう。
「わたしさ、今度生まれ変わったら、銀ちゃんのお嫁さん志望します」
「はっ、お断りだよお前みたいなちんちくりん」
「ははっ」
「…まさかとは思うが、お前俺と一緒に死ぬとか言うんじゃねーぞ」
「まさか、そんなことしませんよ」
「…おう、正しい選択だな」
銀ちゃんはそう言いつつ優しく抱き締めてくれた。温かくて、ずっとこうしていたいけど、
「じゃあ、そろそろ行くよ」
わたしは貴方の気持ちを無駄にしたくないから、離れた…。
「…ああ、お前はしっかり生きろな」
「うん、あ、でも生まれ変わるのはちょっと待っててよね。わたしが死ぬまで天国にいてよ」
「…面倒くせー」
「そう言わない」
そうしてわたしは万事屋を出る。
「じゃあね銀ちゃん、わたしもそろそろ地球出ないとだから…」
「おう」
「…バイバイ」
無言で片手を上げた銀ちゃん。思わず涙が出そうになってすぐに歩き出す。
そうだよ、わたしは夜兎だもん。銀ちゃんたちが必死に守ろうとした国を征服した天人だもん。一緒にはいさせてもらえないよね。だけどさ、
「嘘ついてゴメン」
わたしだって、やりたくて夜兎やってんじゃないから。そこくらいは分かってよね。
わたしは万事屋が見えなくなってから歩むのを止めた。そのまま暫く考えて、公園へと向かう。誰もいない寂しい公園の白いベンチにゆっくり腰掛けた。静かだ。
…あと何時間で地球は滅びるのだろう…
残りの時間はここで潰そう。死んで天国で銀ちゃんに会ったら、何て言われるだろう。怒られちゃうかなぁ。そんなこと想像したら笑えた。
思い返したらろくな人生歩んでない。もしかしたらわたしは地獄行きかもしれないな。それでもいいや。また血染めの世界に戻るよりは。
それにしても、銀ちゃんもいけないね。残される方の気持ち考えなくちゃ。生きていればこれから幾らでも良いことある、そう教えてくれたのは銀ちゃんでしょ?
時が流れた…
「…やっと見つけた」
ふわり優しい声に意識を取り戻す。どうやら眠っていたらしい。顔を上げたら、
「あ」
「名前なにやってんの?昨日俺ちゃんと連絡したよね?」
「…神威…どうして」
桃色頭の幼馴染みが包帯ぐるぐるの姿で目の前に立っていた。
「え…!ちょ、後時間は何分あるの?」
「あと15分だって」
その言葉に血の気がサーっと引いていく。
「は…そ、神威こそ何やってんの!!!」
もう地球から脱出には間に合わないじゃないか!!
驚いて立ち上がる。
「神威何考えてんの!?死んじゃうんだよ!?なんでわざわざ地球なんかに」
「名前がまだ脱出してないって聞いたから」
「…は?」
彼はニコニコと言い放つ。
「名前を探しに来たんだよ」
「…バカじゃないの」
自ら死にに来たのか。
「バカじゃないよ。バカなのは名前だ」
「神威だよ!もっと時間配分考えなよ!!もう間に合わないよ!!!」
「そんなのどうでもいいよ」
「どうでもよくない!」
「うるさいなぁ、自分は一人で勝手に死のうとしてるくせに」
腕を引かれて神威の胸の中へ。ギュッと抱き締められて体が強張る。
「ちょ、かむ…?」
ドキドキと脈打つ胸。こうも静かな世界では、余計にうるさく感じる。
「目、赤いね…泣いてた?」
「…っ」
「…どうしたの?」
どうせ、地球は滅亡するんだ。あたしも銀ちゃんも、神威だって。今素直にならずして、いつ素直になれと言うのか。
「…銀ちゃん、死ぬんだってさ」
「…うん」
「だけどわたし、わたしを傍にいさせてはくれないんだって」
「うん」
「生きろって言ったの」
「うん」
「だけど、…だけどわたしさ、銀ちゃんのいない世界なんて、地球が無くなっちゃった世界なんて想像したくないから」
「うん」
「だから、死ぬの」
「…同じだよ」
「…」
「俺も、名前がいない世界は想像したくないな」
「…」
「だから傍にいさせてよネ」
運命ってさ、案外残酷なもんだなぁと思う。わたしには、まだこんなに思ってくれてる人がいたというのに、その気持ち無視して、しかも道連れにまでしてさ。
「ありがとう、神威…」
だけど、一人で死ぬのはやっぱり少し寂しかったから、わたしはそっと神威を抱き締め返した。やっぱり、無理にでも銀ちゃんの傍にいれば良かったのかなぁと少し考えながら。
「…神威」
「ん?」
「今度は一緒にさ、お日様の下散歩できたらいいね」
「…そうだね」
あ、空が輝きだした。
涙落ちれば笑顔咲く
結局、本当の強さなんて見つかりはしなかったけど
ありがとう…
そんな気持ちに溢れていました
20091204白椿