久しぶりに出会っても、昔の面影を端々に見つけて空白の時間を埋めようと試みる幼馴染の再会。黒い髪に黒い瞳、白い肌。昔と変わらない色素。ただ髪は随分伸びて、顔は丸みがなくなり、瞳は光を失っていた。すべてを悟った顔をしていた。それでも俺の顔を見れば少し微笑んで、


「おかえりなさい」


そう言う声はだいぶ大人びていて。


「ただいま、久しぶりだね。まだここにいたんだね」


こくりと一つ頷く。


「君の家に行ってもいいかい?久しぶりにお邪魔したくなったよ」

「いいよ、おいで」


顔はスリムになったけれど、体は女性特有の丸みを帯びている。俺も君も大人になった。笑い方も無邪気さが抜けて憂いを含むようになった。二人別々に過ごしていても、成長した数は、知った世の中の数は同じ。そんなふうに思ったからきっと、俺は彼女を誘うことにためらいなんて感じなかったんだ。彼女の家へ向かう途中に俺はポツポツと話し出す。


「名前綺麗になったネ」

「…ありがと、神威も大人っぽくなったよ」

「そう?自分じゃよく分からないけど」

「それはわたしも同じよ」

「そう?」

「うん、…どうして戻ってきたの?」

「なに?戻ってきちゃ悪かった?」

「誰もそんなこと言ってないでしょ」

「名前なんか冷たくなったネ」

「そ?自分じゃ分からないけど」

「…君を迎えにきたんだよ」

「…」


少しして彼女は歩みを止めた。


「…は?」


眉をしかめて一言こぼれ出た言葉。俺は思わず笑ってしまった。その顔があまりにも間抜けに見えたからだ。まだ理解できていない彼女のためにもう一度言ってあげよう。


「君を迎えに来たんだよ、一緒に行かない?」


目をパチクリさせてこちらを見る彼女には昔の無垢さがチラつく。あの日、行かないでと俺に泣きついた君。そんな君の願いを叶えに俺はやってきたんだよ。嬉しいでしょ?ちょっと時間はかかってしまったけれど、君を心から捨てきれずにいた俺は、ようやく自分がするべき行動に気づいたんだ。手を彼女の方へ。その手を彼女は笑顔で取る、はずだったのに…


「神威」


彼女は薄く笑って言う。


「わたし行けないよ」


その言葉を理解するのに数秒。俺は首を傾げる。


「どうしてだい?」

「だってわたし」


その時だった、


「あ、名前―」


見慣れない男が一人、彼女に駆け寄る。手に一人の赤子を抱いて。


「どうしたの?」

「泣きやまないんだ」

「んー?どうしたのー?」


その赤子を抱きとって慣れた手つきであやし始める彼女を、どこか別の世界のことのように見る。

誰?そいつら


「わたしもう家族がいるの」


彼女は泣き続ける赤子を抱いたまま言う。


「ん?名前、この人は?」

「わたしの幼馴染。久しぶりに帰ってきたの」

「へー、初めまして、夫の………


もう何も耳に入ってこない。夜兎らしからぬ幸せそうな家族の姿。何コレ。何の冗談?彼女は、名前は俺のだったはずなのに。光を失ったと思った彼女の瞳が幸せに揺れている。戦うこと忘れ、闘争本能を忘れた夜兎の姿。いつ君は死んでしまったのか…





あと五秒

悲劇始まる




20091007白椿