地球人と夜兎族とでは好みも価値観も理想だって違うだろう。むしろ共通点を見つけることの方が難しい。見た目は大差ないけれど、力や能力には雲泥の差がある。地球人は平和を好み、夜兎族は血を愛でる。だから共存なんて無理無理、って思っていたのだけど、

「神威団長まーた問題起こしたんですか」

何故かこの女は俺と同じ春雨の団員だった。地球人のくせに戦うのが好きだとかほざいて第七師団にいる。そして阿伏兎の直属の部下として俺の始末書に毎日追われているのだそうだ。

「ちょっとイラっときたから殺しただけだよ」

「ちょっとイラっときただけで殺せる貴方を尊敬します」

「ありがとう」

「いや誉めてません」

それでも地球人は地球人。根本的な考え方にはやっぱり違いがあるようだ。彼女は確かに少しは戦えるようだけど、強いとは言い難い。敵に情けをかけることだってよくある。もちろん俺がすべて始末するんだけどね。だけどその度に何故か彼女に説教される。俺はきちっと仕事をこなしただけだっていうのに。でも不思議とウザったいとか面倒とかいう感情は彼女に対して沸かないから不思議だ。むしろ俺は、この言葉のやり取りを楽しんでいるというか、

「もう、少しは自分の行動に責任持って下さい」

「俺の行動に責任持つのが部下の仕事でしょ?」

「まぁ図々しいったらない!」

「ありがとう」

「いや誉めてません」


まぁ、つまり楽しんでいるのだろう。そんな弱いコイツ。でも肝は据わってる。俺相手にこんなに言いたい放題な女はおそらくコイツだけだ。弱いくせに物怖じしないのだ。そこだけは認めているのだけど、弱いやつにいろいろ言われっぱなしでいるのもアレでしょ?だから偉そうに俺に説教を続ける彼女に少々殺気を込めて言ってやるんだ。

「もう黙りなよ、煩すぎて思わず殺しちゃいそうだ」

「むっ、だ、団長がちゃんとしてくれたら煩くなんてしませんよ」

「だいたいね、君に仕事回してるの阿伏兎でしょ?文句なら阿伏兎に言えばいいじゃない」

「神威団長が問題起こさなければ、わたしに仕事が回ってくることもないんです!!今阿伏兎さんに文句言うのは酷です!!」

「なんで?」

「阿伏兎さんはわたし以上に団長の始末書こなしてるんですよ!!そんな阿伏兎さんに文句言えるわけないじゃないですか!!」

おっと、今イライラっときたぞ。コイツ、俺にはこんなに文句言ってるくせに阿伏兎には言えないと。俺よりも阿伏兎のが大事だとそう申すかコノヤロー、ちょっと本気で面白くなかったので言い返す。

「そう、なら俺の直属の部下にしてあげよっか?阿伏兎経由せずに直接君に始末書回してあげるよ??」

「…」

言ったら彼女は黙りこくった。しばらく間を開けて口を開く。

「…それはマジ勘弁願います」

おっと、イライライラっときたぞ。俺だってあんたを直属の部下にするつもりなんてないよ。今のはちょっとしたジョークだよ。なに真面目に嫌そうな顔してんのさムカつくなぁ。

「本気にしないでよ、あんたみたいなブス傍に置くわけないだろ」

「なっ!!ひっど!!団長今のはさすがに酷すぎます!!自分が少し顔いいからって調子のんなよコノヤロー」

「ああもう煩いなぁ本当に殺しちゃうぞ」

心にもないことを口は勝手に紡いでいく。本当は殺すなんて出来ないし、ブスなんて思ってもいませんよ。だからって可愛いとも思ってはいませんがね。

「お、こんなところにいたのか」

「あ!阿伏兎さん!!」

「まぁた団長に喧嘩吹っ掛けてたのかお前は」

「違います!!始末書増やさないようにお願いしてたんです!!」

突如喧嘩の仲裁に入った阿伏兎に笑顔を見せる彼女にイライラが募る。いや、と言うよりは、なんか会話を邪魔されたことにイライラする。でも阿伏兎はそんな俺の様子を勘違いしたらしく、

「もう今日は仕事いいから」

「え?でもまだ大量に書類残ってますよ」

「いいから、今日は今からおじさんに付き合いなさい」

「はい?」

「飲み行くぞ」

「マジっすか!!」

「おう、だからもう団長に喧嘩吹っ掛けるのやめなさい」

「喧嘩じゃないです!!仕事の一環ですよ!」

「はいはいいいから行くぞ」

そう言って彼女を脇にひょいっと抱え上げた。阿伏兎にひどくイライラする。

「団長悪かったな、」

「な、なんで阿伏兎さんが謝ってるんですか!?」

「いいからお前は黙っときなさい」

「むっ阿伏兎さんのすっとこどっこい」

「すっとこどっこいはお前だ」

それは、言うことは捻くれていても阿伏兎と話す彼女がとっても楽しそうだからで、そうやっていとも簡単に彼女を誘える阿伏兎が羨ましいからで、

「そぉい!!!」

俺は迷わず阿伏兎の頭を殴りに跳ねるのだ。阿伏兎が気絶すると、彼女は驚きながらまた俺に説教を始める。



よう、俺の殺意



不本意ながらにも、愉快でおちゃらけた関係を築いてしまった彼女に、今さら好きですとか、弱い部分も含めて惚れてますなんて、口が裂けても言えないのである。





企画『切り出せない』様に提出
20100301白椿