恋愛に歳の差なんて関係ないって言うけれど、実際問題そう簡単なことでもない。好きと思う気持ちに問題はなくても、体や経験には大差があって、


「おじさんは子兎には興味ないんだよ」


そして、歳の差があるということは、相手から恋愛対象として大きく外れた位置にいるかもしれないということだ。
上司であり、意中の彼、阿伏兎さんは優しくわたしの頭を撫でた。
子兎…自分ではそれなりにレディなつもりだったけど、阿伏兎さんからしたらガキなようだ。まぁそう思われても仕方ないくらいに歳の差はある。


「もう少し色気ってーのを磨け」


まぁ、恋人同士になりたいとか、そんなことはもとより思っていなかったからショックは少ない。フられるだろうなぁと思っていたし、もし付き合えたとしても、やっぱり歳の差がある。わたしがおばさんになったとき、阿伏兎さんはおじいさん、そう考えたら将来だって不安だもの。だけどせっかく芽生えた感情だから、消えちゃう前にちゃんと証を残したかったのだ。


「…まだまだわたしも子供だね」


これからだって上司と部下を続けていかなくちゃいけないのに、愛の告白なんてしたら、やりにくくなることはあれど、関係が円滑になることはない。いや、もしかしたら、これを理由に部下を外されるなんてことになるかもしれない。そんなことになったら迷惑をかけるのは阿伏兎さんだけじゃないのに。それを分かっていても自分の気持ちを優先してしまったわたしは、阿伏兎さんが言うとおり子兎なのだろう。今さらに自分の行動のガキさを思い知る。阿伏兎さんだって困るよね…。


「さぁ、ここでクイズだ」


阿伏兎さんはいきなり言う。わたしが彼を見上げると、とっても優しい微笑みがあった。


「クイズ?」

「見込みのない片思いをしながら俺の部下を続けるか、新しい恋を探しながら俺の部下を続けるか、さぁ、どっちを選ぶ?」


思わず笑ってしまう。そうか、それでもわたしを直属の部下としておいてくれるのだと。今向けられている微笑みの意味を知る。わたしは恋愛対象なんかでは全くないのだ。それどころか、娘か何かなのだろう。いつでも、見守られている。それはちょっと寂しいことだったけど、すっごく温かな気持ちにしてくれたのも事実で、だからわたしは笑顔で答える。

「もっと役に立てるように、これからも努力させてもらいます」


見込みのない片思いを続ける勇気も、新しい恋を探す心の切り替えも、今は出来そうにないから。これからも、阿伏兎さんの側にいられるなら、阿伏兎さんに側に置いていて良かったって思ってもらえるように頑張ろう。
今までだって報われないだろう恋と思いながらも楽しくやってこれた。阿伏兎さんと一緒に神威団長に振り回されながらも、毎日笑顔でやってこれたのだから。きっと今までと変わらない。これからも団長に振り回されながら、始末書書いて、騒いで、毎日笑顔が絶えぬよう。


「ま、少し余裕が出来たら、もう少し周りを見てみるこったな」


少し首を傾げる。


周り…

意味を知ったのはもう少し後。

この阿伏兎さんとわたしの会話を、神威団長に聞かれていたこと。神威団長が実はわたしに思いを寄せていたこと。そんな団長の気持ちを知っていた阿伏兎さん。全部全部気づかずに自分のことで精いっぱいだったわたしはやっぱり子兎で、


「お前さん、そろそろ自分の幸せも考えろよ」

「阿伏兎さんに言われたくないですよ」


知ってからも、阿伏兎さんとも神威団長とも、仕事仲間という関係を崩さないようにしたのは、それが、3人ともずっと笑っていられる選択だと思ったから。大人ぶって、誰も傷つかないように、でも、幸せにもなれない選択をベストだと思い込んだわたしは、やっぱりガキだったのだと思う。



たくさん笑っていたいね



だけど、あの3人でいたときが一番楽しかったと、神威団長も阿伏兎さんもわたしも言う。子兎なりに、選択肢クイズに勝利したのだと自分を誉めてあげよう。
でもね阿伏兎さん、それでもあの時、歳の差なんて気にせずに、貴方一筋に思い続けていられたのなら、もっと楽しかったのかなぁなんて今思っています。あの時もし団長の気持ちを知らなかったなら、少しは意識してもらえたのでしょうか?
確かめるには遅すぎる今日この頃。



企画『あぶらぶ』さまに提出
20100203白椿