今日で神威団長と付き合ってちょうど一年が経ちました…。

少しドキドキしていたのに、あと五分で今日は終わろうとしている。まぁ仕方ないか…相手はあの団長だものね。そんなこと全く気にしてなさそうだ、うん、覚えてないだろう。今日も朝から戦場に出たっきり。


はぁ…


笑顔を崩さないように溜め息した。告白したのはわたしから。絶対に無理だろうと思ってなお決行した告白は、何を間違ったか成功した。嬉しくて嬉しくてそれから毎日ルンルン生活が始まったのだけど、相手はあの団長だ。きっとあたしが知らないところでいろいろやってんだろうなぁという思いが常に付きまとう。だってあたし、彼氏って団長が初めてだもの。まだいろいろなノウハウが分からない。浮気だってしやすいだろうなぁ…ってちょっと落ち込んでみたりもした。


「…あと一分…」


だからどっちかって言うと付き合っているというより付き合ってもらってるって感じなんだな。わたし、団長に釣り合ってるかって言われたらイエスって自信持って言えないもの。それでも今日は付き合い始めて一年。あたしにとっては初めての恋人一年目。だから、ちょっとだけ、ウキウキしてたんだけど…なぁ。ううん、そんな我が儘言っちゃダメよね!団長に迷惑かけちゃうもの!!

時計を見たらすでに記念日は五分も過ぎていた。一つ溜め息を吐いて、


「おやすみなさい!!」


誰もいないのに叫んでベッドに潜り込む。そのまま少しの寂しさを抱き締めて眠りについた。


「もう!名前ったら!!」


午前二時。
突如穏やかな眠りを邪魔したのはそんな声。完全に熟睡していたわたしは覚醒しきらない頭で何事かと飛び起きる。はぎ取られた掛け布団、冷やりとした空気に鳥肌が立った。


「先に勝手に寝ちゃって!」

「え?…え?」


見れば団長がわたしに馬乗りになって顔を覗き込んでいた。ぷぅうんとお酒の香りが鼻を掠める。


「…んん…お酒?」

「だって帰ってきたら名前熟睡してんだもん、愕然とした勢いで酒飲み過ぎちゃった」

「愕然…?」


まだ覚醒しきらない。団長が何を言ってるのか半分くらいしか理解できてない気がする。


「ほら名前起きてー」

「んー…?」

「俺仕事頑張って早く終わらせて帰ってきたんだよ?熟睡してる名前見たときだって最初は寝かせておいてあげよって思ったんだよ。阿伏兎にお酒付き合ってもらってそんで今日は俺我慢しよって…もう!!頑張って良い彼氏務めてきたけどもう無理!!」

「んん?…団長酔ってます?…すんません…まだ眠くて団長の言ってることよく理解できな「いいよ理解しなくて!!!」んぎゃあ!!」


体重をかけられて深くベッドに沈む体。ようやく覚醒を始める頭。


「…え」

「名前ー今日は何の日だ」

「今日?」

「あ、間違った昨日だ」

「…わたしと団長が付き合い始めて一年目」

「なんだ、覚えてるじゃん!!」

「…!!」


言った途端にむちゅーっと唇に押し付けられたのは団長の唇で、ビックリして一気に目が覚めた。唇が離れると団長はニコッと可愛らしく首を傾げて、


「シよ?」


楽しそうに言った。あたしは一気に顔の温度が上がるのが分かった。団長とっても、ホントにとっても楽しそう。


「シよ?」


また言った。


「…な、なんで急に」


だって今まで一度もそんなこと…誘われたことなかった。そう、団長は一回もあたしを求めたことなかったんだ。
若干恐くなって団長の顔を覗き込むと、


「俺さぁ、けっこう名前のこと大事にしてきたつもりなんらよー」


少し呂律が回らないらしい口調で語り出した。あたしは頷く。


「は、はい、大事にしてもらってます」

「ホントにそう思ってるー?」

「思ってます思ってます!」

「嘘つきー!!」

「ぎゃあー!!」


団長は叫ぶとわたしの首筋に顔を埋めた。体が強張る。


「だって名前俺のことまだ信じてない」


くぐもった声。首筋がくすぐったくて身をすくめる。


「し、信じてないって…?」

「俺が本気じゃないって思ってる」

「…」

「そろそろ信じてよーだって俺さぁ一年も我慢したんだよ?」

「が、我慢…?」

「そうだよ、ね?もう体目当てじゃないって分かったでしょ?もう俺は一年もヤってないんだよ我慢の限界だよ頂きます!!」


言ってバリっという嫌な音。ボタンがコロコロと転がって、胸元がはだけた。冷やっと寒くなると同時に恐さも合間って、あたしは団長の手を掴んで口を開く。


「団長、あたしが傍にいるだけでいいって言った…!!」


声が震える。
今まで求めてもらえないことが少なからず悩みだったのに、いざ迫られてみたら恐くて嫌だ。
団長がそろりと顔を上げて視線を合わせる。お酒のせいか若干顔が赤い。


「うん、名前が傍にいるだけでいいって言ったよ」

「…」

「それは本心だけど半分嘘」

「…!」


団長がぐいっと顔を近付ける。反射で目を瞑る。耳に染み渡る優しい声が能を揺さぶった。


「嘘ついてごめんよ名前」

「…」

「体目当てじゃないなんて真っ赤な嘘」

「…」


きゅうっと心が狭くなる。だけど、


「俺はね、全部欲しいの」


その狭くなった心は一気にほてり出す。


「名前の体も心も、居場所も将来も、全部欲しいの」


団長はゆっくり語る。


「あのね、体目当てじゃないって言ったら嘘になるけどそれだけでもない。俺についてはいろんな噂聞いてると思うけど、名前に限ってはないから…」

「…」


逆の意味で胸がぎゅうぎゅう苦しくなっていく。


「ホント、大好き」

「…っ」

「だからそろそろ信じてくれないかなぁ」

「…」

「今日だってさー、ちょっと楽しみにしてたのに…付き合ってやっと一年経ったのに、名前ってばなんも思わず先に寝てるし」

「な、なんも思ってなかったわけじゃない」

「名前こそホントに俺のこと好きなの?」


いつも執着心を見せない団長の初めて見る姿に唖然とする。なんだこれ…お酒の力?


「もういいよ、今から好きにさせてあげるから!」

「えっちょっ!待って団長!!」

「待たない、早く俺のもんになれ!!」


ケタケタ


そうやって半ば無理矢理大人の階段を登ったわたし。初めてだったからいっぱい恐くて、でも、


「俺のこと好き?」


最中にされた質問に必死で頷いたら、


「良かったぁ」


そうやって最高の笑顔を見せてくれた団長を、心の底から愛しいと感じた。










「名前、痛くなかった?恐くなかった?」


朝、眠りと酔いから覚めた団長は酷く後悔してるご様子で、心配そうにあたしの顔を覗き込んだ。団長の手が、まるで壊れ物を扱うように優しくあたしの頭に触れる。


「…ちゃんと名前が信じてくれるまで待つつもりだったんだよ…ごめんネ」


らしくないショボンとした姿に、この腰の痛みが甘く疼く。


「…どうする?とりあえず一発殴っとく?」


と遠慮がちに差し出された頭、


「何なら好きなだけ叩いていいよ」


あたしはそれに思いっきり抱き付いて、大好きと叫んだ。


こんな俺は君にだけ


俺はずっと前から君のもの。










20100114白椿