吉原から帰ってから、神威団長はどこか変わった気がする。強い奴らがいないと渇きを訴えていた団長が、そういう文句を一切言わなくなったのである。それどころか、どんな雑魚相手でも、どこか期待の眼差しを持って挑むようになったのだ。相手を出来る限り極限にまで追い詰めて、それでもって時間をかけて殺す。今まで瞬時に数十人という命をで消していた人とは思えない。きっと地球で何かあったのだろう。阿伏兎からあの夜王が死んだという情報は貰ったが、それ以外は何も聞かされていない。云業が帰ってこないのは任務で命を落としたとのことだったが、どうもそれには納得がいかなかった。だって云業は強いもの。地球の任務なんかで命を落とすはずがない。もしかしたら、夜王が死んだことと関係があったのかなぁなんて思考を巡らせてみるけれども、真相が分かるはずもなくてただ頭を悩ませて疲れるだけだった。

「最近考えごとが多いみたいだね」

団長が笑顔で話しかけてくる。正直わたしは団長が苦手だ。だっていっつも偽物みたいな気持ち悪い笑顔を張り付けているし、やたら顔はいいし、噂で聞くにかなりの女好きだし、大食いだし殺し好きだし弱いの嫌いだし、なんか仲良くやっていく自信が全くわかない。それどころか出来るだけ関わりたくない。

「まぁ、わたしもいろいろ考えることがあるんですよ」

「もしかして吉原のことかい?」

「んー、まぁ合ってるって言えば合ってます」

「すっきりしない言い方するね」

「正しくは云業のことですね」

「云業?なんで?」

「どうして死んじゃったのかなって」

「あー、なんで死んだのか気になるんだ、簡単に言えば俺が殺したんだよ」

「…は?」

「まぁ事故って言えば事故なんだけどね」

「すっきりしない言い方しますね」

少しだけ唖然として、そして少しだけ殺意が芽生える。どうして仲間の死をそんなニコニコと語っているのだろうか。自分のせいとか言っておきながら、全く反省していない様子。まぁこのお方は反省なんて言葉知らないだろうけどね。いくら上司だからって何してもいいと思ってもらっては困るというものだ。だけど、ここは一先ず話を聞いてみることにしよう。

「事故って何ですか?」

「俺の邪魔をしようとしたんだ」

「はい?」

「邪魔したら殺しちゃうぞって忠告したんだけどね、あいつ無視して間に入ってきたんだ」

「間?」

「俺と鳳仙の旦那の間にさ」

「…」

わたしは目を見開いた。つまり、

「夜王を殺したのは団長…?」

「あはは、違うよ。鳳仙の旦那を倒したのは地球人、侍さ」

「…全然話が見えません…え?夜王は地球人に殺されちゃったんですか?」

「うん」

それは驚きだ。夜兎の王を倒したのが地球人だなんて…。これでも一応同じ夜兎として憧れていたというのに。まさかあんなに弱い生き物に殺されてしまっただなんて幻滅だ。いったいどうしたというのだろう。やはり歳だろうか…?

「…いやほんと幻滅」

「…夜王のこと?」

「そうですよ」

「奇遇だね俺も同意見だよ」

「そですか」

「あら冷たい」

「…」

「ねぇ」

「なんですか?」

「云業の彼女ってあんただよね?」

「…」

「彼氏死んじゃったね」

「そですね」

「代わりに付き合ってあげよっか?」

「殺した本人が言ってんじゃねーよ」

一瞬団長がキョトンとした。誰が付き合うかこんな奴。
その日から、わたしが団長に付きまとわれる生活が始まった。



過去形の彼女

「ねぇねぇ、俺のどこが云業に劣ってるのか教えてよ」
「優しさ!謙虚さ!勤勉さ!身長!体重!顔!!」
「ええ!!?ちょっと待ってよ!最後のは大きな間違いだと思うよ」
「…一度鏡見てみたらどうですか?」

人の好みはそれぞれである。