団長の幼馴染みだという少女が春雨に入団した。少女といっても十代後半。流れるゆるやかな薄茶色の長い髪を散らばせて、大きな瞳をクリクリさせた可愛らしい、しかし色気も持ち合わせた夜兎の少女。チャイナ服がよく似合う。スリットからのぞく白い生足は、女のわたしでも見とれた。だが褒めるべきは外見ではない。それは彼女の戦闘能力にある。半端なく強い。さすが団長の幼馴染みだけあるというか…天才だ。だから団長も気に入っているようだった。そう、まさに彼女は誰もが憧れる完ぺきガールなのだ。
わたしはといえば、
同じく夜兎であるのだが、戦闘欲は何故か薄いらしく、マイペースだとよく言われる。ポケポケしすぎだと阿伏兎に何度か怒られた。
見た目だって特に秀でたものはない。黒髪のショート。パッとしない薄い顔。胸だって小さい。女の魅力を最大限にカットした感じだ。彼女と比べたらまさに雲泥の差だろう。実際、彼女はまだ入団したばかりだというのに、すで数十という数の戦場を渡り任務をこなしているのに、わたしはその半分にも満たないのだ。しかし問題なのは、そのことに特に劣等感を感じないことである。
先ほども述べたように、わたしは戦闘欲が薄い。戦場に出るよりは部屋でのんびりしていたいし、血で興奮する時間があったら好きな読書や映画観賞をしていたい。
わたしがどんなに春雨第七師団にむいていないか分かって頂けただろうか。
わたしも充分分かっているつもりだ。だから早く師団を抜けたいと思っている。今がその絶好のチャンス。団長の幼馴染みが入団した今、仕事のほとんどは彼女がこなせることが分かった。わたし一人いなくても師団は大丈夫。
春雨を抜けるなら今しかないと思ったわたしは団長の部屋へルンルンと向かった。
「失礼しまうま」
笑顔でドアを開けて目を見開く。そこには団長と例の団長の幼馴染みさんがいて、
「失礼しまうま!」
わたしは勢いよくドアを閉めた。だって二人がつまりその大人が夜行うであろう行為をしていたように見えたからだ。
「ノックもなしにルンルン入室してすみませんでした以後気をつけますので殺さないで下さい」
部屋の外でそう叫んで勢いよくその場を去る。必死に走る。出直しじゃ!だがしかし、
「名前待てぇ!!」
団長の声が聞こえて、ついでに走る足音が次第に大きくなってくる。
「ぎゃーー!!何も見てません何も話しません記憶は抹消しますだから来ないで下さい!!!」
「変な勘違いしてるよ」
すぐ隣から声がして、見たらやんわり微笑みながら足を超高速で動かす神威団長がいた。服が…胸のあたりがセクスィにはだけている。
「いやぁあああ!!」
いろんな意味で叫びながらわたしも必死に走った。いろんな意味とは殺されそうだという恐怖とセクスィに耐性のないウブな乙女心にある。
「待ってよ」
しかし簡単に捕まるわたし。
「ひぃっ!!」
そして始まる恐怖の尋問。
「見たよね?」
「いいえ」
「嘘は嫌いだよ」
「そっすか」
「見たよね?」
「はい」
「何見た?」
「…」
「何見た?」
「…子作り」
ヴァシンッ!!
「った!!」
「ほら勘違い」
「マジ痛いこぶ出来たよコレ」
「アレ違うから、勝手にアイツが迫ってきただけで俺ヤろうとしてないからネ」
「痛い痛いどうしよとりあえず阿伏兎んとこに」
ヴァシンッ!!
「話を聞きな」
「き、聞いてます痛い」
「俺ヤろうとしてないからネ」
「そ、そですか」
「うん、だから変な勘違いやめてよネ」
すっごい顔を近付けてくるから後ずさってブンブン頷く。
「わ、分かりましたから離れて下さい」
「…」
「で、でもまぁわたし一人に勘違いされたくらいでそんな部屋飛び出さなくても…」
「…ん?」
「いいんですか彼女一人残してきて…」
「…」
「あ、でもちょーどいいんでコレ」
わたしは辞表を取り出した。そして渡す。
「わたし今日限りで春雨辞めようと思いますお世話になりました」
「は?」
「辞めるなら今がベストだろうと思ったので」
「…なんで?」
「有能な新人さんが入って下さったじゃないですか、今わたしが辞めてもおそらく春雨には何の支障もないでしょう」
「…名前はそれでいいの?」
「はい?」
「嫉妬とかプライドとかないの?」
「…なんて言うか、むしろ逆と言うか…」
「ん?」
「もともと春雨辞めようと考えていましたし、こんなチャンスは逃せないかなって」
「…」
「そういうことなんで」
シュタッと敬礼して後はダッシュ!神威団長の気が変わらないうちに逃げなければ!!
「ねぇ待ってよ」
「ぎゃあああ!!」
しかしまた横を余裕で走って付いて来ている団長。
「ごめんなさいごめんなさい!!子作りのことは絶対喋りませんから!!お願いですからもうほっといて下さい!!!」
「…いやだからアレ勘違いだって言ってんじゃん」
刹那団長の足がわたしの足を器用にすくい上げ、
「んぎゃっ!!!」
わたしは顔面を床に打ち付けることになった。
「もう、名前はイヤになるくらいおバカなんだから」
打ち付けた鼻をさすっていたら、神威団長がニコニコと目線を合わせてきた。
「な、なんすか…?」
「俺がアイツを入団させたのは何のためか分かる?」
「…性欲処」
ヴァシンッ!!
「痛いっ…えと有能な人材を入れるため」
「ぶーー、正解は女の団員が名前しかいなかったからです」
「…はぁ、確かにそうでしたけど」
「だからどうしていいか分からなかったんだよ、俺もこんなん初めてだったから」
「…は?」
「だから、どうやったら好きなヤツと一発ヤれるのか知りたかったの」
「じゃあ恋愛相談のために入団させたんですか?」
「そのはずだったんだけどねー、なんか向こうが変な気おこしたみたいで」
「…団長案外優しいんですね」
「ん?」
「団長なら強引に犯しちゃいそうです」
「あり?そっちがお望みだったの?…てか犯すとか女の子が言っちゃダメだよ」
「でもそれなら確かにあの方を入団させて正解ですね。わたし恋愛経験浅いですから」
「ん?」
「わたしに相談するよりはよっぽどいいと思います」
「…」
「だけどそこまで聞くと気になるんで、誰のこと好きなのか教えて下さいよ」
「…なんでそんな楽しそうなの?」
「人の恋愛話ほど面白いもんはないです」
「…」
「でも、春雨に女はわたししかいなかったわけですから…はっ!!もしやこの前の惑星で会ったあの子っすか!?確かにあの子は可愛かったっすね!あ、いや!その前の惑星の王妃とか…!!」
団長はどこかショボンとしているように見えた。そんなに多難な恋路なのだろうか。でもでも多難な方が聞く方は面白い!
「で、誰なんですか?」
「…」
「ん?」
「…あのさ、普通に考えて分からない?惑星の住人に恋したなら俺今頃この船降りてるって。だけど今まだ俺団長やってるでしょ。ね?、春雨に女は名前しかいなかったんだよ?ここまで言えば分かるよね?」
「?…はい、わたしじゃ恋愛相談の頼りになんないから幼馴染みさんを呼んだんですよね?」
「もういいや…」
「…?」
「出直すよ」
「はい?」
「あ、辞表は認めないから」
「え、…え!?どうしてですか!?」
「理由が知りたかったら早く気付けこのすっとこどっこい」
どこにいたのか阿伏兎に殴られた。
あの団長もお手上げ
少しでも嫉妬していてほしかったなぁとか…
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帆花さまへ
20091116白椿