「つーかーれーた!!」


初めての春雨での任務はなんと団長と一緒だった。


「むふふー」


しかも嬉しいことに、君強いねなんてお言葉を頂けたものだから、あたしはニヤけた顔のままベッドに飛び込んだ。さっき浴びたシャワーのせいで頭が濡れたままだけど、気にしないでベッドに頭をグリグリする。


「きゃっほーぃ!」


嬉しい嬉しい!!あの憧れの団長に誉められたのだ。世界はバラ色、顔はデレデレ。
今日はいい夢が見られそうだ。
ベッドにルンルンで潜り込もうとした時、


コンコン…


ノック音。
まだ春雨に入って日の浅いあたしは友人も少ない。誰だろうと思いながら、ニヤける顔を叩いてドアに向かう。


「どちら様ですかぁ?」


ガチャッ


「やぁ、」


ドアを開けたらなんと神威団長がいて、


「ぷぷーっ」


あたしを見るなりいきなり噴き出した。


「神威団長!!どうしたんですか?何であたし見て笑ってんですか?」


団長はいつもの笑顔のまま口を手で覆って肩を震わせていた。


「団長?」

「なにそのカッコ…」

「格好?」


あたしは自分の服を見た。


「パジャマですけど…?」

「なんでパンダ?」


あたしのパジャマはいわゆる着ぐるみパジャマだ。
足首から首もとまでパンダの体を模したフリースで、頭に被ったフードには可愛らしいパンダの耳と黒くて丸い小さな瞳。スリッパにもパンダの耳と目がついている。


「可愛くないですか?パンダ可愛らしいでしょ?」

「ぷふっ」


団長は笑い続けてる。
なんかそこまで笑われると気分が悪くてちょっと頬が引きつった。
あたしはパンダが大好きなのだ。世界一、いや宇宙一好きなのだ。パンダは世界を救えると思う。癒しの力で。


「で、団長何の用で来たんですか?」

「ぷぷーっ」

「団長…」

「クスクス」

「団長!!」


これはない!
全くなんだっていうんだ!!
笑い続けてる団長を見ているとパンダが笑われているみたいで(実際そうだけど)、だんだんムカムカしてきた。
パンダを馬鹿にすんなよ!!
あたしはイライラして言った。


「団長!パンダを笑うのは許しませんよ!!」

「ぷっ!」

「なっ!!パンダは団長なんかよりずーっと可愛くてお利口さんなんだからー!!」

「別にパンダを笑ってるわけじゃないよ…ぷっ」

「え…」

「パンダを着てるあんたを笑ってるのさ」

「なっ!!」


んだとコノヤロー!!
憧れていた団長に笑われたのと、いつも一緒で一心同体だと思っていたあたしとパンダのコラボを否定されたショックであたしは閉口した。
団長は、そんな恐い顔しないでよと言って、フードのパンダ耳をいじくってまた噴き出していた。


「ねぇ、とりあえず部屋入れてよ」


あたしはモチベーション下がりまくりで、とりあえず団長を部屋に入れた。
正直パンダとあたしを馬鹿にした人を部屋には入れたくない…。


「ねぇ、あんた名前なんだっけ?」

「…名前です」

「そう、名前、さすがにコレはないと思うよ」

「…何がですか?」

「このパンダの量だよ」

「…」


部屋にある何百というパンダのぬいぐるみを指さして団長は言った。みんなあたしの友達であり癒しであり自慢のパンダたち。


「みんなあたしの宝物なんで、…もう何も言わないで下さい…」


頼むからもうパンダたちを笑わないで!!ほっといて!
いくら上司だからって怒るぞ…!
パンダはあたしの永遠の恋人だもの…


「名前変わってるね」

「…で、何の用ですか?団長がわざわざいらっしゃるなんて」

「うん、名前と一発ヤろうと思ってさ」


はぃぃいいいっ!?
聞き間違えかコレ、ヤバいとんでもないこと想像しちゃったよ恥ずかしい!!


「すみません、もう一度言って頂けませんか?」

「一発ヤろう」


ヤベ…聞き間違えじゃなかった。
あたしは団長から一歩下がる。


「…お、お断りします」

「なんで?」

「だって、あたしと団長付き合ってるわけじゃないし…パンダ馬鹿にしたし…」

「違うって、パンダ着てる名前を馬鹿にしたんだよ」

「…」


硝子のハートがボロボロよ…。パンダとあたしは二人で一つ。どっちをけなされてもダメージは大きいのよ…。


「ねぇ、じゃあ付き合おうか」


心の傷に打ちひしがれていたら、またありえない言葉が聞こえた。


「…はい?」

「付き合ってれば一発ヤってくれるんでしょ?」

「…」

「名前は強いから、絶対いい子ども出来ると思うんだよなぁ」


なんだソレ…。複雑きわまりないことをおっしゃる。
結局子ども目当て?いやその前に、


「…お断りします」

「えーなんで?」
「あたし彼氏いるんで」

「…誰?」

「この子です」


あたしはこの部屋のパンダのぬいぐるみ中で、一番大きなのを指差した。


「マイダーリンのパン太くんです」

「…」

「だから申し訳ありませんがお付き合いできません」


団長の顔が笑顔で輝いた。


「じゃあ名前はこのパンダとヤってんの?」

「…そんな変態チックなことはしませんよ」

「ぬいぐるみを彼氏と言ってる時点で十分変態チックだと思うよ」

「…」


いいじゃないか別に…。
だってパンダより素敵な人いないんだもの。
あたしがうなだれた時だった。


ゴスッ!!


嫌な音がして顔を上げたら、


「パン太ぁあああ!!!」


マイダーリンパン太の顔に団長の拳がめり込んでいた。


「弱いなぁ」

「なーに言ってんですかぁああ!!パン太はぬいぐるみですよ!!強いとか弱いとかあるわけないでしょパン太ぁああっ!!」


顔から綿がはみ出して、目も取れちゃった見るも無残なパン太…。なんてこと!!
あたしは立ち尽くした。


「ねぇそのパン太のどこがいいわけ?」

「…ぐすっ」


涙出てきたよコレ。
なのに団長は謝るどころかニコニコで言う。


「言わないと殺しちゃうぞ」

「…ぐすっ、マ、マルっとしたところとか…」

「…」

「どこにあるのか分からない、黒いつぶらな、ひ、瞳とか…ぐすっ」

「…」

「柔らかくて癒してくれるとこ…とか」


言ってたら悲しくなって、それから怒れてきた。


「と、とにかく!団長よりうーんと好きなんですっ!!」

「ふーん」


団長が骨をポキポキ鳴らし始めた。準備体操をしている。


「団長、何やってんですか?」

「体操」

「…どうしてですか?」

「まぁ見てなよ」


団長は一通り体操を終えると、


「死ね!!」


そう言って、部屋のパンダたちに攻撃を開始した。


「ぎゃぁあああ!!団長!やめて下さい!!」


死ね!!ってぬいぐるみは生きてないでしょ!!!

パンダたちが次々と綿を散らして可哀相な姿になっていく。
酷い酷すぎる!!!パンダをいじめて、ただですむと思うなよ!!!


「団長こそ死ねぇええ!!」


あたしはパンダを救うべく、果敢に団長に挑んでいった。そして、


「邪魔すると殺しちゃうぞ」


負けた。

すべてのパンダが綿と化すと、団長は満足そうに笑い、


「これで邪魔者はいなくなったね」


素敵なニコニコでそう言った。

あたしはショックで暫く寝込んだ。













モノクロ野郎抹殺計画

改めて、お付き合いしませんか?











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雨花様へ

20090221白椿