あたしと神威団長二人相手に、何千という人数で襲いかかってくる惑星の住人たち。
生きるために必死なんだろう。体裁なんて気にしない。女のあたしにも五六人の男たちが束になって攻撃してくる。
それを避けながら、一人一人の急所を順番に攻撃していった。
潰れたような声を漏らして、順番に倒れていく男たち。

ふと見れば、団長はいつもの笑顔で一気に五六人ほどの相手に致命的な一撃を繰り出していた。


「やっぱり凄いな団長は」


思わず呟いてしまう。
団長はあたしの憧れだ。強さを求めて戦場を跳ね回る団長はカッコいい。春雨に入団してまだ間もないあたしにとって、団長の戦う姿は刺激的で、いつもあたしの心を痺れさせた。いつかあたしもあんなふうに戦えるようになりたいものだ。
あたしは団長を目の端に捕らえながら、敵を抹殺していく。
周りの敵は、あたしと団長の二人によってどんどん少なくなっていった。


「ふー、お終いか」


団長が一人の男にとどめをさしながら言った。
周りに立っている人はもういなくなっていた。あたしと団長だけ。緑豊かだった惑星が真っ赤に染まっている。


「阿伏兎さんたちの方も終わりましたかね?」

「さあね、まぁこんな雑魚相手にやられはしないと思うよ」

「そうですね」

「本当につまらないなぁ」


つまらないとは思わなかったけど、確かにあまり強い相手ではなかった。あたしもそれなりに強くなったということなんだろうか?


「名前」

「なんですか?」

「きちんと殺しておかなきゃダメだよ?」

「え?」


団長が人差し指を一本立てて言った。


「それに、戦いが終わったからって気を抜くのはダメ」

「…何がですか?」

「あと、気を抜いたら弱くなるなんて、もっとダメだ」

「!!」


団長の言葉を聞き終わったとき、ふと影がさした。びっくりして振り返ると、血まみれの生き残りが、あの男たちの中の一人がものすごい形相で斧を振りかざしていた。


「っ!!」

「うらぁあああ!!!」


雄叫びと共に迫り来る男に咄嗟に動けず、目を見開いて硬直するあたしの目と鼻の先を斧がかすめようとした時、


「ね?言ったでしょ?」


団長があたしの前に立った。それと同時に大量の血しぶきが上がる。
男が倒れる音がした。


「名前はまだまだだなぁ」

「…」


あたしは硬直したままだった。まだあまり戦場に慣れていなかったのと、こんなに簡単に背後をとられたことにびっくりして動けなかった。
団長があたしに笑いかける。


笑顔は俺の殺しの作法なんだ…


前に言われた言葉が脳内で乱反射する。


弱いヤツは嫌いだよ…


ああ、あたしは殺されるのかな…


何となくそんな気がした。

それと同時に気を抜いた自分に後悔する。
あたしは小さく震えながら足元を見た。いろんな人の血が飛び散っていた。

団長と一緒に戦場に出たくて、ようやく同じ仕事が出来たと思ったらこの様だ。最後の最後での大失態だった。
団長が雑魚と呼ぶヤツに殺されそうになったのだ。あたしは雑魚以下。
殺される。団長は弱いヤツが嫌いなんだから。あたしは今明らかに弱いヤツだもの。


「名前…」


団長に呼ばれてビクリとなる。
情けないのと恥ずかしいのと悔しいので涙が出そうになった。


「…す、すみませんでした」

「謝罪はいらないよ」


仕方ない…弱いあたしが悪かったのだ。気を抜いたあたしが悪かったのだ。

見上げたら、団長が素敵スマイルで言う。


「殺される覚悟できた?」


どうせあたしはさっきの男に殺されていただろう。もともと無い命と思えば、別に今から団長に殺されようと変わらない。
弱い自分がいけなかった。いさぎよく殺されよう、そう自分に言い聞かせる。
無様に命乞いをするよりよっぽどいい。


「…はい」


もう少し団長の戦う姿を見ていたかった…。
あたしが目を瞑ったら、ケタケタ笑う団長の声が聞こえた。
ああ、笑いながら殺されるのかあたしは…と思ってジッと待っているが、なかなか痛みはこない。


「じょーだんだよ」

「…え?」


目を開けたらニコニコな団長の顔が目の前にあって、びっくりして一歩下がる。


「俺は女を殺す趣味はない」

「…」

「だって強い子どもを生むかもしれないだろ?」

「…なるほど」


団長らしいと思った。まぁ、女としては少し微妙な感じはするが…。
ということは、あたしは死なずにすんだのか?


「だけどさ」


団長は続ける。


「名前は俺がいなきゃ死んでたよね?」

「…はい」

「つまり俺に生かされたわけだ」

「…その通りです」

「じゃあ」


団長はニタリと笑ってあたしとの距離を縮めた。そして腕をあたしの頭に回して耳元で囁く。


「俺のものになることを誓いなよ」

団長の言葉が甘美的にあたしの体に浸透していった。体がどんどん熱くなって、宙を浮いているみたいな感覚に陥る。
こんな戦場で、死体に囲まれながら言うセリフじゃない気もするが、あたしは頷くしかできない。


「いい子だね」


団長はそう囁いて、あたしの腰に腕を回した。慣れない感触にビクリと体が震えると、団長はクスクス笑う。


「名前は強い子を産みそうだね」


そう言った団長の顔がどんどん近付いてきて、唇と唇が合わさりそうになる。
おいおいこの死体の中でどんな急転回なんだ!!?
そんな経験ないあたしは、ギュッと目を瞑って知らず知らずのうちに体に力が入った。


チュッ…


しかし感触は唇にではなくて額に。
そっと目をあけたら団長が満足そうに笑っていた。


「名前はこういうの慣れてないの?」


あたしは顔が熱くなるのを感じた。図星です…はい。恥ずかしくて、これなら殺された方がマシとさえ思った。


「まぁそれもいいけど、早く慣れてね?」


あたしは黙って頷く。
でも正直慣れる自信なんてない。心臓がバクバクいって壊れてしまいそうだ。


「俺はあんまり気長に待てないからね」


団長が頭をポンポンとたたいて、腰の腕をほどいた。

阿伏兎さんがあたしたちを呼ぶ声が遠くで聞こえる。

団長がもう一度あたしの顔を覗き込んで口を開いた。


「忘れないでね?名前はもう俺のもんだよ」









痺れる心

俺は、やっと欲しいものが手に入ったとほくそ笑む










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咲様へ
キリリク1000


20090213白椿