異世界トリップをしたという奇怪な発言と共に泣きだした彼女が真選組に居候を始めて三日が過ぎた。頭のイカれた可哀そうな子かと最初思っていたのだけど、行動を見るにおかしなところはない。泣きはらした目以外はその辺にいる女たちと同じ。ただ少し、身にまとっているものが見慣れない。女中の着物を何着か渡しているはずなのだが、
「…その、帯が苦しくて…」
そう言っていた。着物は着慣れていないのだろう。彼女は初めて会ったときの衣装そのまま。今着やすいものを自分で作っているようだ。彼女は白いレースのひらひらした着物をいつも着ていた。
ひらひらふわり
ひらひらふわり
彼女が動く度にそれに合わせて揺れる布。見なれないそれに思わず視線が吸い寄せられる。
ひらひらふわり
ひらひらふわり
それは彼女が急な方向転換をした時、それから洗濯物を干していて風に吹かれたとき、立ちあがったとき、座るとき、どんなときでもひらひらふわり。彼女はよく働いていた。だんだん異世界トリップなんておかしな発言をした子だという認識が薄れていく。目の端にチラつく白いひらひらレースに、知らずに視線を持っていかれる。
「あ、近藤さん!!」
近藤さんを呼ぶときも、
「土方さーん」
土方コノヤローを探すときも、
ひらひら
ある日、彼女が洗濯物を干しているときに何となしに声をかけてみた。彼女は今ではあの奇怪な着物と普通の着物を交代で着ているようだ。洗濯していて着るものがないときだけ普通の着物。今日はあのひらひらの着物。風にふわふわ揺れている。
「あんたさぁ」
「あ、はい何でしょう?」
「名前なんていうんでィ」
「え?あ、名前って言います」
「ふーん」
「…あの、何か用ですか?」
「沖田総悟」
「ん?」
「俺の名前」
「あ、沖田さん」
「そ、…んじゃまたな名前」
「??」
ただ、何となく名前が知りたくなっただけ。
もう少し時が経てば、彼女はやわらかい笑顔を見せるようになる。泣きはらして腫れた目も治り、こっちの世界で頑張っていこうと前向きになる。その笑顔に視線を持っていかれるようになるのは、さらにもう少し先の話。
真っ白レース
ふわふわひらひら君のよう
Thanks.希紗さま
20100207白椿
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