「神威神威ぃ!!見て!!」

「なに?」

「これ、貰ったんだ!!」


  


見たら名前は白いふわふわのドレスを着ていた。嬉しそうに楽しそうに飛び跳ねる彼女に合わせてドレスもふわふわ揺れていた。年齢に見合わず子供のようにはしゃぐ彼女に苦笑する。


「すごく似合ってるよ、誰に貰ったの?」

「ふふ、神威のお母さんに貰ったの!!」

「へぇ、良かったネ」

「うん!!」





それから名前はふわりと俺の右手を握って歩き出す。真っ暗な道。彼女の進む方向は薄ぼんやりと光に包まれていた。太陽も月も出ていないのに、どうして光っているのだろうと疑問に思う。でも、






「良かった神威に会えて」


彼女が笑顔で言うから、そんな疑問頭から吹っ飛んで笑顔でこたえた。


「うん、何だか久しぶりに会った気がするネ」

「気がするじゃなくて、本当に久しぶりでしょ?」

「あり?そだっけっか?」

「そうだよ」


そんなふうに笑顔で会話しつつも、彼女が俺の手を引いてどんどん道を進んで行った。真っ暗な道が少しずつ少しずつ明るく、灰色に染まって行く。





「どう?春雨は楽しい?」

「え?うーん、春雨はそんなに面白くないけどさ、この前地球で面白い男に会ったよ」

「地球で?」

「そう、さむらいって言うんだっけ?地球人のさむらいがね、夜王を倒したんだ」

「地球人が?」

「そう、俺たちとはまた違った強さを持ってる種族みたいでね」

「違った強さ…」

「そう、もう少ししたらまた地球に行ってみるつもりだよ」

「そっか…じゃあ念願の強い人を見つけたんだね」

「まぁ、一応そういうことになるのかなぁ。でもさ、逆に鳳仙の旦那は弱くなってて興ざめしたよ」

「まぁまぁそう言わないであげてよ。鳳仙さんもいろいろ苦しんでいたみたいだからさ」

「あり?名前鳳仙の旦那知ってったっけ?」

「うん、この前会ったの」

「この前?」

「そう、ついでに神威の弟子時代の話いっぱい聞かせてもらったよ」

「…」


何か、大事なことを忘れている気がした。道がどんどん明るくなっていく。彼女の歩むペースは速くなる一方。何故か俺はそれが嫌で足を止めた。彼女の腕を引っ張る。






「おっと、…神威どうしたの?」

「…ねぇ名前、今どこに向かってるの?」

「へへ、いい所」

「それってどこ?」

「神威が今求めている世界」

「それって、」


いったいどこ…?





名前は一度ニコリと笑って再び俺の手を引いた。もう一度足を止めようとしたのに、名前の力が強すぎて、今まで勝負で負けたことなんてないのに、何故か名前の力に逆らえなくてどんどん引っ張られる。


「ねぇ、一回止まって」

「…なんで?」

「なんでも」

「…」


言っても名前は足を止めない。


「一回止まってってば!!」


このまま歩み続けてはいけない気がした。進む先は白く輝きだしている。足元はすでに随分と明るい…のに名前は闇に沈んだまま。頭の奥底で何かがうずく。足は止まらない。柄にもなくそのことに少し焦る。


「名前、止まって!」

「…」

「お願い一度止まってって!!」

「…」

「名前!!」

「あのね神威」


 



真っ白な世界の一歩手前、彼女はぴたりと足を止めて口を開いた。


「わたしね、もう神威を待ってること出来ないみたいなの」

「…どういうこと…?」


心臓がドクンドクンと大きく強く脈打つ。何か思い出さなくちゃ。何か頭につっかえて気になって仕方ない。


「人にそれぞれ寿命があるように、魂にもそれぞれ決められた時間があるんだって」

「え…」

「わたしの魂の時間は短い方みたいでさ、もうね新しい命に生まれ変わらなくちゃいけないんだってさ」

「何言って…」

「だからね、神威がこっちくるまで待ってらんない」

「名前?」

「まだ、神威には早すぎるもの」





名前は微笑むと俺の背後に回ってそっと背中を押した。


  




一歩真っ白な世界へと踏み出す俺。


    



一歩黒い世界へ後退する名前。


       



その途端吸い込まれるように白い世界に引き寄せられる。思わず踏ん張ってみるけれど、名前は微笑みながら一歩一歩後ずさって行く。


「ちょっと待って!!」

「神威、本当にさよならだね」

「さよなら?」

「ばいばい」


           

       




笑顔の君が闇に沈むと同時に、眩しい光に目を開ける。血を吸って重くなった服がニチャリと不快に肌に纏わりつく。いつの間にか夜の戦場に朝日が昇っていた。近くに転がる傘を横眼で確認、太陽の光が肌をちくちくと刺す。でもそんなこと気にならないくらいに重たくなった心から逃れるように、俺は目を右腕で隠した。





「…」


目の奥がじわりと熱くなる。
もう、死後の世界にも彼女はいないのか…ただの夢だったはずなのに、ずっしりとのしかかるソレ。お腹がズキリと痛む。穴でもあいているのだろうか…でも、どんなに血を流そうともどんなに体に穴があこうと、まだ向こうには行けないのだろう。決められた寿命。そして、もう、天を仰ぐことも、彼女を思うことも、墓参りをすることも無意味なんだなぁと思う。もうどこにも彼女はいない。そう、それは彼女が亡くなって、ちょうど一年が経ったある朝の戦場でのこと。





オモイシル
どれだけ彼女の存在が大きかったのか
どれだけ俺が彼女に思いを寄せていたのか




Thanks.結花さま
20100228白椿


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