「あはははははははあはははははははははたぁぁああのしぃぃぃなぁぁああっ」
「頭大丈夫?」
真っ赤な世界に真っ赤な女の子が一人。すっごい楽しそうに笑いながら俺の急所を的確に狙ってくる彼女の細い腕をかわして彼女の懐に潜り込んだら、今度は細い足が目の前をかすめた。頭沸いちゃった愚かな子ってだけじゃないみたい。さっきから俺をかすめる腕と足はキレと筋のある殺意の籠った動きを見せる。
「ねぇ、君どこの子?」
「きゃっははは」
「ねぇ、どこから来たの?」
「いひひひひひ」
「あり?言葉通じない??」
きっと一時的な暴走なんだろうなぁと思いながら、なるべく彼女を傷つけないように力加減に注意する。もし暴走じゃなくてこれが素の彼女だったら面倒だから殺しちゃおう。でも暴走を止めてみて使えそうなら連れて帰ろう。
「よっと」
「ううわぁっ」
少し強めに地面を蹴って彼女の後ろに回り込む。そのまま押し倒したら彼女は悲鳴を上げて地面とキスをした。でもすぐにまた蹴りがとんでくる。それを掴んで押さえつけて組み敷く。そしたら目が合った。純粋に戦と血を求める獣の目。綺麗で純粋な彼女の瞳にゾクリと背中に痺れが走る。
「君、名前なんていうの?」
「えへへー知らなぁぁああああい」
そう言いながらもけっこうな力で暴れようとする彼女を少し力を入れて押さえつける。ちょっとでも油断しようものならすぐにまた暴れ出すのだろう。しばらくどうしようか考えてみるけれど、下で彼女がギャーギャー煩いのに加えて考えるのってあんま得意じゃないから、ぐいっと身を乗り出して彼女の唇に噛みついた。
「むふぅぅぅうううううっ!!!」
「ちょっと黙って」
そのまま舌を侵入させて逃げようとする彼女のを追いかける。彼女の口からくぐもった声が零れ落ちていく。それに苦しい響きが交ざりだす。気にせず奥へ奥へ、少しだけ肌に手を這わせれば、いつしか彼女の暴れていた四肢から力が抜けた。それを確認してから口を離すと彼女は大きく空気を吸い込んで肩で大きく呼吸を繰り返す。見ればさっきまで純粋な光を放っていた瞳が、今は絶望と疑問と動揺に揺れていた。
「ここ、どこ…?あなただれ?」
俺はニヤリと笑ってもう一度問う。
「君、名前は?」
「え、え…分からない」
「え?」
「…ひっ」
言った途端に彼女の瞳から大粒の涙が零れ落ちる。すぐに血に交じって赤黒くなって地面に沈む。
「うっ…ふぇっ…ひっく、」
泣きだした彼女を茫然と眺める。なんだコレ?なんで泣く?
「ぅうっ…もうヤダぁ…うわーーーーん!!」
それなりに整った綺麗な顔立ちをしているのに、隠そうともせずに泣きだした彼女を見ていたら、なんだか笑えてくる。
ケタケタ
ケタケタ
「面白いなぁ、君ホントに何にも知らないの?」
ぶんぶん頷く。自分のことも、今まで何してたかも知らないみたい。でも、何度かこういうふうに“自分”に戻ることがあるんだって、まぁ、暴走するヤツにはよくあることかな…?
「そっかそっか、じゃあ俺と一緒に行こうネ」
「…へ?」
「でもその前に」
俺が彼女の襟元に手をかけると、彼女の瞳が怯えに揺れる。すぐに体が強張るのが分かる。俺は首を傾げた。
「あ、もしかして経験済み?」
無理矢理されるの
「や、やだやだやだ離して!!!」
「大丈夫大丈夫、俺上手いから」
「ちが、そ、じゃなくて!!」
また、“自分”を見失うから…
快楽に溺れてかすむ脳内。だんだんとブラックアウトしていく視界の片隅でケタケタと不快な笑い声を聞く。理性を失えば、迷うことなく血を浴びるのだろう。次また目を覚ませばあの男の死体を拝むことになるはず。半分の諦めと半分の絶望に唇を噛みしめながら意識を手放した。
「おはよう、目覚めた?」
でも、気づけばまたあの男の笑顔。わたしは今までで初めての経験に目を見開いた。少し痛む腰に視線を落とせばだいぶ傷が増えている。やっぱり暴走したのだろうに、男は笑顔でわたしを見降ろしている。彼にもいくつか傷が増えていた。
「あなた、だれ?」
「俺は神威」
「かむ、い」
「そう神威、あんたは今日から俺のモノね」
「神威のモノ?」
「そう、これからあんたのルールは俺だよ」
「…」
「何か質問があれば受け付けるけど」
全部全部初めての言葉。なんだか不思議な感覚のまま、わたしは口を開く。
「……じゃあ、」
わたしはだぁれ?
ん?俺のペット。名前は今度考えてあげるヨ。
Thanks.雪華さま
20100208白椿
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