明るい光にウトウトと重たい意識を持ち上げる。

「…っ」

もう朝…いや、お昼かな…?だんだんクリアになる視界にふわふわと銀色に揺れるくるくるの髪。甘い香りはシャンプーの香り?それとも糖分の香り?まだぽわぽわとおぼつかない思考は温かな体温に包まれて再びとろけ出す。隣でしっかりと、ゆっくりと刻まれている心臓の音を聞いて少し安心した。良かった…ちゃんと生きてる…。しっかりと背中に回されている腕。起き上がろうとしても無理だけど、起き上がりたいとは思わないからそのまま目を閉じた。

「…んー」

しかしかすれた声に再び目を開く。

「…銀ちゃん起きたの?」

「…いや、まだ夢の中」

「ははっ、おはよぉ」

「はよ」

まだ目覚めきらない銀ちゃんの目はいつにも増して生気がない。温かくて柔らかい布団にくるまれて、温かい太陽に包まれて、温かい貴方が隣にいる。そんな幸せに思わず頬が緩んだ。

「もう起きる?」

「…んー」

「今日の予定は?」

「…何も無い…からもちっと寝る…名前と」

「はは、お付き合いします」

銀ちゃんはわたしに回した腕に力を込めて再び布団にうずまった。そしてくぐもった声で言う。

「…の…た」

「え?何て?」

「…昔の夢見た」

「え…?」

少しだけ心臓が大きく跳ねた。だって、

「奇遇だね…わたしも昔の夢見てた」

さっきまで、わたし寒くて鉄臭い戦場を彷徨ってたのよ。言ったら銀ちゃんが再び布団から顔を出してわたしと視線を合わせた。

「そりゃ奇遇だな」

「ね」

「…どんな夢だった?」

「うーん、いつも見るのと同じような感じかなぁ…戦場に刀持って、銀ちゃんや晋ちゃんたちと一緒に…」

そう言ったら銀ちゃんは少し不思議そうにわたしを見て言う。

「…お前楽しそうに語るのな」

「え?」

「そういうのって、気分沈むもんじゃね?」

わたしは少し笑って言う。

「じゃあ、銀ちゃんは今気分沈んでるの?」

「んー、まぁ上々ではないな」

「…そっか」

温かい布団にくるまれて、温かい太陽に包まれて、温かい貴方が隣にいる。こんな幸せが夢での悲しみに劣るわけがない。

「…わたし夢だって分かってたから」

「ん?」

「今見てるのが夢だって分かったの」

「あー、俺もたまにあるなぁソレ」

「だからね、戦場のわたしに教えてあげたの」

「何を?」

「未来の貴方はたくさんの幸せに包まれているよって」

失った仲間の数は多い。受けた傷も深く、今にも余韻を残す。生き残った仲間も散り散りで、決してハッピーなエンドではなかったわたしたちの過去。でも、わたしたちの人生はまだ終わってないのよ。どっかのヨージローさんが言っていた、人は過去と未来、どちらかを見られるようにしてあげるよと言われ、過去を見られるようにすることを選んだのだと。過去の自分を振り返って今の自分が優しくなれるように。それは未来に繋がっていくこと。今こうして布団にくるまって太陽に包まれて貴方の隣にいられることがこんなにも幸せだと思えるのは、あの過去があったからだと思うんだ。だから、昔の夢を見ることは、今の幸せの確認なの。気分を沈める必要なんて無いじゃない。

「それに、あの時はあの時で良い事もいっぱいあった…」

「…そだな…」

「ね」

「…んじゃ俺も、昔の俺に伝えてくるわ」

「ふふ、何を?」

「その今背中預けて戦ってる可愛げのない女が、お前の将来の彼女だぞって」

「うぅわ、酷い言い方」

「じゃ、おやすみ」

「…おやすみ…」

夢の中よりも幸せな世界なんて、素敵でしょ?





夢現

次に目覚めたとき、夕焼けに染められた部屋の中、二人はまた夢について語るのだ。そんなダラダラと幸せな今。





Thanks.亜希さま
RAD「オーダーメイド」より
20100302白椿


[*前] | [次#]