食べたいから食べる、寝たいから寝る、戦いたいから戦う、殺したいから殺す……強くなりたかったから家族を捨てた、強い奴と会いたかったから春雨に入った……弱かったから名前を捨てた。名前を置いて惑星を出た。そうやって生きてきた。
したいようにしてきたはずだ。常に正しいと思う道を歩んできた。それなのに、


「それ以上近づかないで!」


大人になった名前に、鋭い眼差しと共にそう言われて少し傷ついている自分がいた。目の前の彼女は俺を見つけるなり鋭い視線を投げかけて、そして身体を強張らせたのだ。その反応に少し驚いて、ついいつものニコニコが崩れそうになる。


「…久しぶりに会ったのに、それはないんじゃない?」


平静をよそおってみても、明らかに再会を喜んでいない彼女を目の前にしてそれ以上足は歩み寄ろうとはしない。心は動揺したまま。名前は俺を睨みつけたまま。


「やだ!再会なんて望んでないもの!!そのまま出て行ってよ!」


弱いから名前を捨てた…。弱い奴は嫌いだ。見ていて反吐が出る。今も彼女は弱いまま。俺の再来に震えて、戦おうともせずに出ていけと言う。そんな彼女を嘲笑って殴ってやりたいのに、そんなこと出来ないだろとどこかで自分が囁く。なぜ?


「…俺も嫌われたもんだね」

「…」


あの日、確かに俺は君を捨てて出て行った。それは認めるよ。でも、変な話だけど、俺はあの日を君との最後の日にしようなんて微塵も思っていなかったんだ。もう会わないつもりで出て行ったんじゃなかったんだ。それなのに、君はもう俺とは会わないつもりでいたんだね。


「少し悲しいよ」

「…」

「今謝ったら許してくれるかい?」

「…誰が」

「だろうね」

「…」

「名前、俺はどうすれば許してもらえる?」

「…許しては、あげられない!」


名前は震えながらも、しっかりと俺を見て言いきった。俺が思っていたより俺たちの間には随分と深い深い溝が出来てしまっていたらしい。弱くて泣き虫などうしようもない名前が、人を傷つけるのが大嫌いな名前が俺を睨みつけてけっこうひどい言葉を投げかけてくる。どうしようか…それほどまでに俺は君にとって敵なんだね。


「今から誘ってもダメ?」

「誘う?」

「一緒に宇宙に行ってくれないかなと思って」

「…神威にしてはバカらしい質問するんだね…何言ったって無駄だから…もう出て行って」

「…そんなに置いてかれたの嫌だったの?」

「え?」

「そんなに俺に置いてかれたの嫌だった?」


待って、行かないでと泣きついてきた君を俺は振り払ったんだもんね。今思えば確かに少し酷いことしたかなと思うよ。でもあの時はまだ自分一人のことで精いっぱいで、とても他人を背負うことなんて出来なかったんだ。でも、今は違うんだよ…少し彼女の様子を覗っていれば、彼女はポカンとした表情を再び引き締めた。


「…本当にバカ?そんなわけないじゃない」

「…え」


彼女の震えが止まった。代わりに瞳に怒りの光が宿る。


「そんなの、海坊主さんの腕奪ったからに決まってんじゃない!」

「…」

「病気がちのお母さん放って、妹も捨てて、そんな薄情な奴に付いていきたいなんて思うわけないでしょ!」


あり?そっち…??
面白くない冗談に、俺の顔も自然と笑みを消す。名前はとことん夜兎らしくない夜兎だった。強いのに心は弱い。心が弱ければ戦闘時にだって隙が出来て結局は弱い奴になってしまう。だから名前は弱い。なのに、何でか昔から俺は彼女に振り回されてばかりだ。今もそう。彼女の言葉一つで俺の心臓が悲鳴をあげる。

どうして俺は、今も昔も、彼女の一番ではないのだろうか…?

本当は気づいていたんじゃないのか。今彼女のもとに戻ってみても拒絶されることくらい。それでも戻ったのは少なからず執着していたからか。でも、俺はもう随分前に選択を誤ったみたいだ。いや、正確には誤ったのではなく、捨てたんだね。強くなる道を選んで彼女を守る選択肢を捨てたんだ。そうか、俺は今、





記憶の片隅で


『俺が本当に選びたいのはどれなの?』


幼い俺が問いかける。でも、聞こえないフリをして、俺は彼女に背を向けた。


「もう二度とわたしの前に現れないで!」


追いかけるように浴びせられた彼女の声に、胸がチクリと痛んだ。





Thanks.姫愛羅さま
まーた兄貴いぢめちゃったよ…
20100222白椿


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