青く澄んだ空に、今日は雲が一つ二つ三つ…天気は上々。心地よい風に吹かれて目を細める。


「おい、ちゃんと足元見て歩け」


銀時は小さい頃からよくわたしにそう言った。今もそう言ってわたしの手を握る。


「上ばっか見てっと、その辺の石につまずくぞ」


そうやって面倒そうにわたしを見る。でもわたし転んだことない。思いだせるだけの記憶を辿ってみても、空を見ていたからつまずいたなんて事実には思い至らない。


「…心配しなくても転ばないよ」


もう子供でもないし。


「お前よく空見てるよなぁ」

「うん」

「そんなに空って面白いか?」


そう言って銀時も空を見た。


「面白くはないけど、落ち着くよね」

「ふーん」


死んだらお空にいくんだって、昔あの子に聞いた。あの子は今、空にいるのだろうか…?あの子だけじゃなくて、お母さんとかお父さんとか、それから先生とか…。お空からこっちは見えるのかな…?お空は気持ちいいのかな…?そんなことを考えながら空を見上げて歩く。


「おら、いい加減ちゃんと足元見て歩け」

「んー」


もし地面に石が転がっていても、今は銀時が手にぎっててくれるから転ばない。そんなふうに思って目は空を見上げたまま。
足元見てたってさ、面白いもん何もないんだもん。茶色い地面に誰かが捨てたゴミに誰かの足跡。そして、死体に血。下見たって今まで良いこと何もなかったから、いつからか癖になってしまったのかな。


「ったくしゃーねーな」

「…」


銀時はいつもそう。いつも足元見て歩けってわたしに注意する。でも暫くすると何も言わずに手を引いてくれるんだ。そうなって初めてわたしは銀時をみる。下が小さな花に埋もれていても、たくさんの足跡に埋もれていても、死体に埋もれていても、空は変わらず青く広がっている。歩く場所が、江戸の街中でも田舎のあぜ道でも、戦場でも、銀時はわたしの手を引く。「足元見て歩け」そう言いながらわたしの手を引く。わたしの手を引きながら歩く銀時はどこでも変わらない。空も変わらない。


「銀時の頭は雲みたいね」

「嫌味かコノヤロー」


ふわふわ

ふわふわ

歩く度に優しく揺れて、今度そればっか見てみる。


「ちゃんと足元見ろって言ってるだろーが」

「うん、もう少ししたらちゃんと足元見るよ」

「…」

「ねぇ、銀時」

「…あ?」

「ありがとね」

「何だよ急に」

「ん?たまには言葉にしてみようと思ってね」

「…」


銀時がいたからさ、わたしいっつも空見ていられた気がするよ。
時代が流れていることも、貴方がもうわたしだけのものじゃないってことも、もうわたしが子どもじゃないことも分かってるよ。そろそろ独り立ちしなくちゃね。ちゃんと一人で歩けるようにするからさ、


「…ま、独りで立つことは大事だけどよ、隣に誰かがいること忘れんじゃねぇぞ」

「…うん」





空に焦がれて

掴むことの出来ない思い出の人に焦がれるよりは、今隣にいる人のこと、大切にした方が利口よね。





Thanks.あすかさま
20100207白椿


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