人を好きになってから、いろいろ面倒くさいことを考えるようになってしまった。自然と意中の人というのは目で追ってしまう。そうするとね、いろいろ見えてしまうの。あ、またあの子と話してる、とか、わたしといる時より楽しそうとか…
「俺は名前といるときが一番楽しいヨ」
そんな言葉、他の子にも言ってるんじゃないかとか、嘘なんじゃないかとか、気を使ってるんじゃないだろうかとか、
「名前は面倒なこと考えるのが好きだねぇ」
そうケタケタ笑う神威。二人で一つのベッドに素っ裸でもぐって抱きあってみたって、結局は体が繋がるだけで心が繋がるわけじゃない。そんな行為にも飽きてきた。日々疑問と疑いの念が強まっていくのは、きっとわたしが本気で神威のこと好きなっていってるからだ。いっぱいいっぱい変なこと考えてしまう。
「いいじゃない、俺本気で名前のこと好きだし」
そう言われたって顔が良くてモテモテな神威だもの、本当かどうかなんて推し量るのは難しい。本気だったとしても、すぐに飽きられちゃうんじゃないかなぁとか。色恋沙汰の心って恐ろしいなぁと思う。どんどんどす黒くなっていく気がする。
「でもそのくらいなら可愛いもんだって」
「可愛いもん?」
「そうだよ、そんくらい可愛いもん。もっとネチッこくて嫌なこと仕掛けてくる女いっぱいいるよ?心の中で思ってるだけなら可愛い可愛い」
「でも、思ってるのはこれだけじゃないもん…どんどん嫌な女になってる…」
「分かったヨ、じゃあ今思ってること全部言ってみなよ。」
そう言われて、少し戸惑った。あまりにも執着心丸出しなわたしの心を曝け出すのはちょっと恥ずかしいし、なんか悔しいんだもの。
「いいから言ってみな」
仕方ないのでポツリポツリ語ってみる。
まず最初は、神威に話しかける女の子、みんないなくなればいいなって思いました。それから女の子に笑いかける神威もいなくなればいいなぁと思いました。そんでいっつも仕事に神威を連れて行ってしまう阿伏兎さんもいなくなればいいなぁって思う。でも、阿伏兎さんがいなくなっても、仕事は無くならないわけで、だから仕事場自体無くなればいいと思う。戦場無くなれって思いました。それから、もしかしたらこれからの出会いで今の関係が壊れちゃうかもしれないから、これから出会うすべての人もいなくなればいいし、未来だっていらない。明日だって来なくていいよ。だけど、そんなことを考えて勝手に嫌な思いしてるわたしが一番いらないものだ。こんな気持ち、消えてしまえばいいと思う。いや、むしろわたし自体が消えればいいのになぁ。
ケタケタ
神威は笑った。名前は面白いねぇと笑った。わたしは眉をしかめた。
「…こんなこと考えてるわたし、嫌じゃない?」
「全然」
「…」
溜息する。そんな言葉すら、本当かどうか確かめる術なんてないのだから。
「いや、でも順調順調」
「順調?何が?」
「俺もさ、けっこう必死だったりするんだよネ」
神威は読めない笑顔でケタケタ笑う。
「必死?」
「でも、まだまだ足りないかな」
よく分からない。神威が何を言っているのかよく分からないから首を傾げて尋ねる。
「何が足りないの?」
「ん?溺れ具合?」
「溺れ具合?」
「そ、まだまだだヨ」
「…?」
「もっと溺れていいヨ」
俺に…
大丈夫、奥底にまで沈めてあげるから…
窒息すればいいと思うヨ?
「俺だって、名前と考えてること大差ないよ」
消えてなくなればいいのにね
こんなに跳ねる心臓も、膨張して収まらない気持ちも、わたしも、神威も、みんなみんな消えれば楽なのになぁ。恋心は難しいなぁ。
Thanks.紅さま
20100207白椿
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