ふよっふよっふよっ


珍しくソファで居眠りをしていた神威団長を発見したので、そっと近寄ってみる。気持ち良さそうに眠っていてあたしの気配に気づく様子はない。ちょっとドキドキしながら寝顔を覗きこめば相変わらずの整った顔立ち。無防備な寝顔に少しだけ心が和んだ。でも、このままここで寝ていては風邪をひいてしまうだろうと思い、そっと毛布を取りに行く。起こさないようにそっと毛布をかけたとき、


ふよっふよっ…


目に入ったのは神威団長の桃色の髪…てっぺんに揺れるアホ毛だった。


ふよっふよっ…


神威団長は少し俯き気味で熟睡しており、全く動く気配もないのに、何故か桃色のアホ毛は頭上でふよふよと揺れているのだ。いったいどうなっているのだろう?前からチラッチラっと気になってはいたのだ。どうしてこう重力に逆らって気持ち良さそうに揺れていられるのだろうか。時々、このアホ毛は神威団長とは別の意思を持っているのではないのかとバカげた妄想なんかもしていた。でも、少なからず神威団長とシンクロしている部分があるらしく、神威団長が楽しそうにしているとアホ毛もピコピコと元気な時が多いし、少し元気が無ければ萎びている姿も見たことがある。つまり団長の心を表しているということか。


ふよっ


「ん?」


思わず伸ばしかけていた手。アホ毛に触れそうになったところで何とアホ毛がするりと手をすり抜けた。一瞬ビックリするも声を出さないよう、神威団長を起こさないように気を配ってもう一度手を伸ばしてみる。ふよふよと揺れる桃色の髪の毛に触れようとすると、


スルリ…


「っ!」


やっぱりソレは手をすり抜けた。神威団長が起きた様子はない。でも目の前のアホ毛は間違いなくあたしの手をかわしている。というか、例え今神威団長が起きていたとしてもこれはすごいことだ。夜兎って自分の髪の毛を操れるのか??いや、それはないだろう。どういうことだ。


ふよっふよっ


ゆっくりもう一度手を伸ばす。


スルリ…


やっぱり…このアホ毛…自分の意思を持っているんだわ!!





―――――**





「あ、…あの、あたし名前って言います」


少しずつ覚醒してきた頭の片隅で、名前の声がぼんやり響く。目は閉じたまま浮上していく意識。


「あの、貴方は神威団長なんですか…?」





「それとも、神威団長とは別の生き物なんですか?」





「ど、どうやって重力に逆らってるんですか…?」


だんだんと名前が変なことを言っていることに気づく。けど、何となく目は閉じたまま狸寝入りを決め込んで様子をうかがうことにした。
暫くの沈黙の後に頭のてっぺんがむずむずっとする。


「うおっ…さ、触れた」


そして名前の声。どうやら彼女は俺の髪に触っている様子。いったい何をしているのだろうと薄目を開けてみたら、


「…」


すっごい近くに名前の顔があって少しだけ心臓が跳ねる。おまけに彼女は今とっても楽しそう。それこそ新しい玩具を手に入れた子供のように瞳をキラキラさせて、そして、


「あの、もしかして夜兎とは全く違う種族の天人の方なんですか?」


俺の頭に語りかけている。…もしかして、頭沸いちゃった??途端に心配になるけれど、いったいどのタイミングで話しかければいいのか分からなくて結局黙ったまま。名前がつんつんと髪の毛をつっつくからくすぐったくて仕方ない。つんつんとつっつきながら、ずっと俺の頭に語りかける。どうしていつも揺れているんですか?神威団長とはどのくらいシンクロしているんですか?取り外し可能ですか?返事があるわけないのにね。そして、


「はっ!!!」


息をのむ音にどうしたのかと見上げてみれば、


「つ、つかまえた!!」


驚きと喜びを交えた名前の顔。髪の毛をやんわり引っ張られる。今がタイミングだ。


「…名前何してんの?」


そう問いかけてみれば、


「団長!!アホ毛!!生きてる!!」


俺は、案外名前ってバカなんだってことを知った。それでも、


「…名前知らなかったの?そいつは俺と契約を交わした式神なんだ」

「…そうだったんですか!!」


こんな勘違いする女の子きっと名前くらいだし、せっかくだからと話を合わせてみることにした。案外面白かった。





桃色アンテナ

式神なんて嘘に決まってるでしょ。これは面白いものを探知するアンテナさ。





Thanks.雪葉さま
20100301白椿


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