「好き」

は?

「凰壮が好き」

何言ってんの、こいつ?

「いつも喧嘩ばっかで、意地はってなかなか素直に言えないけど」

そうだよ、お前はいつもツンケンしててさあ。全然かわいくねえし。

「大好き」

……。

「一番に好き。ずっと好き」

……何を。

「つまんないヤキモチばっか妬いてごめん」

別に。

「この間も、無神経なこと言って傷つけてごめんね」

あれは、傷ついたわけでも怒ったわけでもない。こいつ、なんにもわかってねえな。

「優しくされてばっかで、優しくできなくてごめんね」

優しくした覚えもねえし。

「許してほしいなんて我儘言えないけど」

だから、怒ってねえって言ってる、のに。

「好きなの」

また……。

「好きだよ。凰壮。好き」

……そんなの……。

「暖かい?誠意だよ」

誠意?ああ、そういえば、すごく暖かいな。こいつの手。

「悪かったな」
「え?」
「怒鳴ったりして」
「……は」

あ。涙。

「お」

なんで泣いてんだよ。

「怒ってないってばあ」

ああ、もう、泣くなよ。馬鹿じゃねえの、謝ってんのに。なんで泣くんだよ。ムカつく。そんな顔が、見たいわけじゃねえのに。

「うん」

めんどくせえな。本当……手の、かかる……。

「夢子」
「はい」
「抱きしめていい?」


*



堪らない気持ちになった。
抱きしめてもいいか、とガラにもないことを尋ねたくせに返事も聞かず加減すらもできずに抱きしめてしまったのは「衝動」と言うやつだろうか。「凰壮くんが一番冷静だ」といつか竜持が言っていたが、俺は今も冷静なのだろうか。普段感情的にならないのは、俺の代わりに熱血を担当してくれるやつがいたからだ。でもこの感情は熱血とは違うし、誰かに代わってもらうこともできない。それに、俺の意識とは関係なしに湧く。

「う」

夢子が苦しい声を出す。力が強すぎたのかと一瞬思ったが緩める気はなかったし、泣いているからだったと思うと、ますます強くしたいと思った。

本当は、虎太が夢子のこと恋愛対象に思ってないことなんてわかってた。ずっと見てたし、なにより虎太は兄弟なのだ。あいつの考えていることくらいわかる。虎太がどういうつもりで俺たちのことに口を出してきたかまではわからなかったが、いつもだったら余計な杞憂を抱くこともなかったし面白くねーな、なんて思うこともなかった。のに。

どうしてもっと優しく抱きしめられないのか。このままだと夢子は潰れてしまうかもしれない。わかってはいるのだが。行き場のない気持ちを、こいつに押し付けているようだ。他人に自分を押し付ける奴のことは、何より煙たがってたはずなのに。


こいつが、変なこと言うから。


いつも喧嘩ばっかで。素直じゃねーし。ツンケンしてて。怒ってばっかで。それはそれで面白いんだけど、虎太といる時のほうがよっぽど可愛い。竜持といる時はリラックスしてるし、俺には相談しないこともあいつには言う。それはやっぱり面白くない。

だから時々、夢子が俺のことで泣いてると、ちょっとだけ嬉しいって本当は思ってる。

夢子が泣いてるとムカつくとさっき言ったが、あれだって本心だ。いつもヘラヘラしてる夢子が耐え切れなくなるくらい悲しんで泣きだすのは、すごく腹立たしい。自分が何に腹を立ててんのか、よくわかってねーけど。
でもそれが、俺のことでいっぱいいっぱいになって、なんて理由だと、ちょっとだけ、気分よくなっちまう。目の下赤くしてるのも。隠すくせに、隠し切れなくて、変な顔で泣くことも。
でも、やっぱり、どっちかって言うと、ニコニコされるほうが安心する。
俺が試合に勝ったときに見せる顔とか。何故か自分のことのように無邪気に喜ぶ。むしろ、俺よりも喜んでいる節がある。あれは、結構いいもんだ。何がって、感じだけど。俺にもよくわかんないけど。
たぶんそれは、さっきの、手袋で俺の手を包んだ時と、似ている気がする。

本当は、俺が暖かくしてやりたいと思うのに、いつの間にか暖かくされてる。時々、あいつに先を越されるんだ。
一度だって、こいつに優しくした覚えだってない。ただ、こいつが泣いてるとムカつくから。笑ってる方が安心するから。だから機嫌とってるだけだ。それなのに、あんまりこいつが無邪気に喜ぶから、俺の方が気分よくなって……。
いつも、俺の方が。
それは、俺が考えている間に、あいつは「なんとなく」でやってしまうから。
夢子は馬鹿だから、理屈より感情を優先するんだよなあ。
そういうところ、虎太に似てるかもな。なんて。


好きだ。すごく好きだ。
こいつが、怒ったり、泣いたり、笑ったりするたびに、そうだって思う。こいつの反応を、いちいち気にしてる自分がいる。きっと、「冷静」な俺の代わりに、感情的になるこいつが。それが嬉しいって、どこかで思ってるんだ。
感覚的すぎて、口に出すとどう言っても薄っぺらくなりそうだから、絶対言わねーけど。


ああ、嫌われたかと思ったけど、こいつが馬鹿でよかった。
それとも神様のおかげかも。
神頼みなんて、らしくないこともたまにはしてみるもんだな。


腕を緩めて、夢子を解放すると、また目を擦った。
「だから擦るなって」と呆れたように言うと、夢子が涙でグチャグチャになった顔で笑う。



こいつ、時々可愛いんだよなあ。





oriさん
こんにちは!いつもお世話になっております!
企画へのご参加どうもありがとうございました!
長編で書いたところの凰壮くん視点ということでしたが、いかがだったでしょうか。
少しでもご希望に添えたなら幸いに思います!
長編の三つ子とヒロインの関係が好きだと言ってくださってなんだか嬉しいです!
凰壮くん夢なんですけど、竜持くんや虎太くんの見せ場も書きたいなって思いながらいつも書いているので…!
感想ありがとうございました。
これからもツイッター等々でよろしくお願いします。
それではリクエストありがとうございました!^^
(2013.06.17)

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -