「おい、まだ拗ねてんのかよ」

下校する私の後ろを歩く凰壮がうんざりしたような声を出した。まるで被害者だと言ってるみたいな声色が、既に充分煮えたぎった私の頭を更に沸騰させる。

「……まだ?どうして私がこんなに怒ってると思ってんの?!」
「知るかよ……」

グルンと、それはもう、私の起こす風力が電気になって一家庭の生活を賄えるんじゃないかってくらいの勢いで風を切り振り返れば、眉を顰めた呆れ顔の凰壮と目が合ったけれど、凰壮はすぐに顔を俯かせて、はあ、とこれ見よがしに溜息を吐いた。
そういう凰壮の態度に、怒りで顔がタコのように真っ赤に染まった気がした。
生まれた年を同じとした凰壮の人生経験なんて私とそれほど変わるはずもないのだろうけど、どうしてこうも冷静なのだろうか。時々、こういった凰壮の、感情を露わにしてしまう私の子供じみたところを見下したような態度に苛立つことがある。さも、自分は大人ですという涼しい顔を見ると、自分のことが恥ずかしくなってしまうのだ。

「第一凰壮が悪いんじゃん。デリカシーのデの字も知らないんじゃないの?」
「知ってるよ。デリカシーのスペルはD、E、L、I、C、A、C、Yで」
「そうやって!すぐおちょくるの!」

そこがムカつく!

感情に任せて喚いた後、また前に向き直ってズンズンと一人歩き出した。
私だって言う時には言うのだ。凰壮の口の悪さに腹を立てること幾星霜。勢いでこれくらい言ったって、罰は当たらないだろう。

無我夢中で足を進めていると、先ほどまで気怠げに後ろをついてきていた足音が聞こえないことに気付く。ハッとしてまたグルンと後ろに振り返れば、凰壮がいない。驚いて、ガクガクとランドセルを揺らしながら慌てて通学路を戻る。

言いすぎたんだ!怒らせたのかも!

大人びてて、冷静で、私のこと呆れるばっかりで、私が馬鹿なことをしたときは叱ってくれるけれど、でも、絶対見放したりしない凰壮が!

凰壮が怒った!

「おうぞ……!」
「わ!」

走って曲がり角を曲がれば、丁度こちらに向かっていた凰壮とぶつかりそうになった。寸でのところで踏みとどまって目をパチクリさせる。同じように凰壮も目を丸くさせて「なに逆走してんだよ」と言った。

「だ、だって、凰壮がいなかったから」
「それで慌てて戻ってきたのかよ」

フッと口元を緩ませて笑う凰壮に、また小馬鹿にされたような気がして、不機嫌に頬を膨らました。

「そんなんじゃな……ひ!」

突如、首筋にぞわぞわする感覚。驚いてのけ反ると、目の前の凰壮が「ハハッ」と悪戯っ子のように笑った。
凰壮の手には、ねこじゃらしが握られている。

「な、なにす……」
「気持ちーだろ」

そう言ってまたねこじゃらしで私の首を撫ぜた。

「や」
「フ」
「フフ」
「フフ?」
「あ、あはは」
「笑った」

だって、ねこじゃらしが首を走る感覚がこそばゆくて。
何より、凰壮が、ランドセル背負ってねこじゃらし手に持って楽しそうに笑ってる凰壮が、同い年のあどけない少年にしか見えないから。

「まだ拗ねてんの?」

首を傾げた凰壮が、なんだか可愛い。


「知らない」




小鳥さま
いつもお世話になっています。
リクエスト頂いて、恐縮です!一番でした!笑
ありがとうございました^^
いかがでしょうか?少しでも楽しんでいただけたら幸いです。
いつもお気遣い等ありがとうござます。
これからもどうかよろしくお願いします。
リクエスト、ありがとうございました!
(2013.06.15)

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