「お小遣いいくらもらってる?」

給食の時間の他愛もない話だった。班ごとに机をくっつけて食べる給食は、毎日が毎日盛り上がるわけではない。今日みたいに特に話題もなく黙々と食事をすすめる日だってあるのだ。けれども私は元来静寂というものが苦手なのか、会話がない時には常に話題を探してしまう癖みたいなものがあった。大抵そういうときに出る話題は話が膨らまないようなものが多かったし、今回もそうだと思った。お小遣いいくらもらってる?などと、何故思いついたのか。自分でも正直わからない。今どうしてもしなければならない質問でもない。ただ、私と同じように、静かな給食を居心地悪く思っていたのだろうか、班員はみな「私は五百円」とか「俺はお手伝いしたらもらえる」とか楽しそうに答えだし、思いのほか話は盛り上がった。
皆の会話に「ふんふん」と頷く。ふと、私の向かいの席の女子が、隣の席の翔くんに「翔くんは?」と尋ねた。

「僕?」

器に入ったシチューを美味しそうに食べていた翔くんがパッと顔をあげた。班の皆の視線が翔くんに集まる。私も翔くんを見た。翔くんはニカっと歯を見せて笑って「僕、お小遣いもらってないんだ」と言った。

「え、貰ってないの?」
「うん、サッカーやらせてもらってるし、それ以外はあんまり必要ないんだ。電車代とか、必要なときはさすがにもらうけど」
「あれ、でも翔くん、よくお家の手伝いしてるよね?」

翔くんが、お家の焼肉屋を手伝っているのを塾帰りによく見かけていた私が質問すると、「うん、でもそれはお母さんの手伝いだから」と爽やかに笑った。

「ふうん、翔くんって、偉いのねえ」
「偉い?」

感心したように相槌を打った私に、翔くんはキョトン、と不思議そうな顔をした。

「だって、欲しいものあるでしょ?漫画とか、服とかさ。お店のお手伝いまで文句言わずに進んでやってるのに、そういうの欲しいなって思わないの?」

私の言葉を聞くと、翔くんは「うーん」と一度、考えるように唸ったけれど、すぐにいつもの元気いっぱいの笑みを浮かべて言った。

「僕は、サッカーが一番だから」

だから充分嬉しいんだ。偉いのとは全然違うよ!

そう当然のように言う翔くんはやっぱり私からすると偉いなあって思ったし、シチューを食べていた時のような幸せそうな笑顔がとても眩しいと思った。
いいなあ。いいなあ、翔くん。

翔くんに視線を送りながらシチューを口に運んだ。

あ、美味しい。





「お母さん、何か手伝うことある?」

家に帰ってから、夕食の支度をしているお母さんに声をかけると、一瞬不思議そうな顔をしたけれどすぐに微笑んで「じゃあお米砥いでくれる?」と言った。
炊飯器にお米と水を入れてシャカシャカとかき混ぜていると、「いつもは頼んでも面倒くさいって言うのに、どうしたの?」と尋ねられた。
そう質問されることが少しだけ恥ずかしかったので、お米から視線をそらさずに「別に」と答えた。

「給食のシチューが、おいしかったから」





匿名さま!はじめまして、ナコといいます!
リクエストという形ではなかったと思うのですが、翔くんを読んでみたいとおっしゃってくださったので、リクエストとして書かせていただきました!
いつも三つ子ばかり書いているので別のキャラクターを書くのは新鮮で楽しかったです!翔くんを書くのは初めてで気に入っていただけるか不安ですが、少しでも楽しんでいただけたらなあと思います。
企画へのご参加、ありがとうございました!^^
(2013.06.05)
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