「荷物になるからいらねえ」

去年そう言って誕生日プレゼントを断っていたら、今年は消耗品のお菓子とかポケットサイズの手紙だとかばかりを贈られ、受け取らざるを得ない形になった。確かに、荷物ではなくなったが。

「わー、いいなお菓子おいしそう」
「デブ」
「うるさい」

掃除も終わって帰り支度をしていると、教科書との隙間を埋めるようにランドセルに詰め込まれたお菓子を覗き込み能天気な声で夢子が羨んだ。「凰壮、人気者だね」なんて言って、お菓子の一つを手にとっては「うーん、このラッピング可愛いなあ、自分でやったのかなあ?」と独り言のように呟く。何がしたいんだ、こいつは。

「欲しいの?」

わざわざ絡んでくるから腹でも減ってるのかと思ったが、夢子はブンブンと勢いよく首を振って「まさか!申し訳ない!」と言った。申し訳ないとは、一瞬自分に対して言われたのかと思ったが、「一生懸命作ったのに」と続けたので、お菓子を作った女子に対してだろう、とすぐに思い直した。

「まめだよなあ、女子って」
こんなにもらったら、お返しだってできねえし。

そう半分愚痴みたいに呟くと、目の前の夢子がきょとんとひどく間抜け面をしたので、「なんだよその顔」と尋ねると、今度はニコオと嬉しそうに笑った。

「まめなのは凰壮だね」
別に、みんなお返しが欲しくてあげてるわけじゃないから、大丈夫だよ。

随分、何でも知った風な口をきくもんだと思った。

「そうか?じゃあなんで特に仲良くもない奴に贈り物なんかするんだよ。俺、贈られる義理なんてないけど」
「それは……喜んでほしいからでしょう?凰壮に」
「なんで」
「……好きだからじゃない?」

夢子は、少しだけ目を泳がせた。

ふうん、好きねえ……。

名前知らない奴もいたけどな。本当に好きなのかも疑わしいが、結局夢子の憶測にしかすぎないので話半分できいとくのが一番だろう。

「で?お前が手に持ってるのはなに」
「え」

俺のところに来たときから持っていた、小さな紙袋を指差した。
なんとなしに尋ねただけだったのだが、夢子は「あっ、あ、の」と急に言葉を忘れてしまったかのように途切れ途切れに喋り出す。

「夢子?」

呼びかければ、今度は勢いよくその紙袋を目の前に差し出されて、思わず小さく仰け反いた。

「……あげる」
誕生日おめでとう。

俯き加減の夢子が、絞り出すような声で呟く。
よく見たら、紙袋を持った手に所々絆創膏が貼ってあった。

「……さんきゅ」
「……うん」

そう、突然しおらしくされると、こっちもどうしていいかわからない。
多少気まずくなった場を和ませようと「中身なに?」と尋ねたら、チーズケーキとの回答をもらった。
チーズケーキで絆創膏貼るような怪我するっけ?
不器用な夢子の真髄を見た気がした。

「まあ、美味かったら、お前の誕生日にお返しやるよ」
「……別に、お返しが欲しいわけじゃないよ」
「……」

なんだそれ。
先ほどの夢子の理論からいくと、お返しがいらない人間は、ただただ喜んで欲しいがために贈り物をするらしい。それは、好きだからとも言っていた。

夢子の真意を探るようにジッと見つめると、目があった夢子は顔を赤くして、目を伏せる。
なんだそれ。

「……」
「……」
「……美味くなくても、お返しやるよ」

よろこんでほしいし。

「……ありがと」

夢子は一瞬驚いた顔をしたが、すぐまたニコオと嬉しそうに笑った。

あ、喜んだ。



(2013.05.23)
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