拝啓、降矢虎太さま、竜持さま、凰壮さま。
若葉萌える好季節となりました。皆さんお変わりなくお元気でしょうか?
御無沙汰しております。あなた方の愛らしい従姉妹、夢山夢子でございます。
最後にお会いしたのは昨年のお正月でしょうか。今年のお正月はこちらの都合で会えず仕舞いだったのが、たいそう寂しくて仕方ありませんでした。
こちらは皆変わりありません。元気だけが取り柄の家なので、その唯一の尊厳を失わないよう、健康には細心の注意を払い、相も変わらず笑顔で毎日を過ごしております。
さて、今回筆をとらせて頂いたのは、他でもありません。
この手紙が届く頃……私はこの世にはもう……などと笑えもしない冗談に興じるほど、私はナンセンスな人間ではございませんのであしからず。ただ、一度はこういう台詞を言ってみたい年頃なのです。同い年のあなた方なら、分かってくれるでしょう?
そんなことより。
この手紙が届く頃……それはきっと五月の二十三日に違いありません。郵便屋さんが不慮の事故に合わなければ。または、白ヤギさんがお手紙を食べてしまわなければ。きっとあなたたちは、五月の二十三日にこの手紙をお読みになってくれていることでしょう。
さて、五月の二十三日ですが、もうなんの話かお分かりいただけたでしょう?
そうです。聡明な三つ子の悪魔なら、察しているはずです。
五月二十三日、それは恋文の日なのです。
なんでも、某方原作の映画「ラブ・レター」の公開初日であったことが由来であったらしいのです。
こんな日が制定されていたなんて、恥ずかしながら私、つい先日まで知りも致しませんでした。手紙の向こうで無知な私を馬鹿にして笑っているあなた方の顔が、容易に想像できます。
しかし、知った以上、イベント事に乗っ取らずにはいられません。恋文なんて、こんな文明の発達した時代になんと奥ゆかしい。私、日本のこういう文化は守っていきたいと思っておりますの。この素晴らしい日が廃れないよう、たとえ私だけだったとしても、恋文を書いて古き良き時代を守っていきたい所存でございます。
けれども私、恋文を宛てる相手がいないことに気付きました。
うら若き乙女が、なんとも嘆かわしいことでしょう。仕方がありません。同じ学級の男子たちは、まだ人類が二足歩行を得る前の時代を生きている、原始的な生命体なのです。私は古き良き時代生存委員会会長ではありますが、古きと言っても限度があります。私が守りたい古き良き時代とは、文明に胡坐をかく前の、自分で作り出すもの一つ一つを慈しんだ時代のことなのです。故に、原始的な男子は、私が好意を寄せるのに値しないのです。
ですから、御三人には、どうか私の恋のお相手になってほしいのです。
私の従兄弟であらせられるあなた方なら、恋のお相手に申し分ありません。
もちろん、疑似的なもので構いません。私が恋文を書く相手を得られれば、それで問題ないのです。
古き良き時代生存のため、何ぞと、何ぞと宜しくお願い致します。

話は長くなりましたが、本題に入りましょう。
この手紙は恋文なのです。
恋文とは、恋する想いを綴らねばなりません。
それには、想いを寄せる殿方の好きなところを列挙していくのがよろしいでしょうか。
はたまた、思いの丈を綴るのがよいのでしょうか。なにぶん、初めてのことなので、私が戸惑ってしまうのも、理解して頂きたいと思います。

とりあえず、お一人ずつがよいでしょうね。
一人ずつ、好きの気持ちをしたためたいと思います。

それでは、どうか、私の思いの丈を。どうか。



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