ぺたんこの赤い靴が、地面と仲良し。後ろ手に結んだ両の手は、背を預けた冷たい壁を寂しく撫ぜ、桜貝のように淡い桃色に彩られた可愛い小さな爪は、陰にかくれんぼ。伏せた睫毛が、独りぼっちを語らう。
煌びやかなシャンデリア。華やかなワルツ。大人たちの宴。
背伸びした世界。私は一人、壁際の花。
つまらない。

「踊る?」

不意に、目の前に差し出された掌。思わず、怪訝に形づく眉。
恐る恐る、その手を取れば、地面とぴったんこの赤い靴は浮足立ち、冷たい壁は背中を押して、彩られた爪は日の目を浴びた。
世界が変わる。
支配する高揚感。取り巻く、夢のような淡い瞬き。一瞬香る、甘い匂い。
それは、私の中で溶けて、小さな恋になる。

何もかもが素敵。

ただ一つ、そこに不完全があるとすれば、それは。


「あなた、誰なの?」


あなたが誰だか、わからないの。



(2013.04.07)

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