プルルルルルルル。
ガチャ。
「はい、竜持です」
「あ、もしもし、竜持?私だけどさーちょっとお願いがあるんだけど」
「僕に『私』なんて知り合いいません。失礼します」
ブツッ。
ツーツーツーツーツー。
ピポパポピ。
プルルルルルルル。
ガチャ。
「はい、竜持です」
「いや、画面見ればわかるでしょ?誰からかかってきたかわかるでしょ?表示されるでしょ?あんたの最新のスマホには液晶ついてないの?馬鹿なの?」
「これはこれは。夜中の二時に電話をかけてくる非常識でお馬鹿な夢子さんじゃあないですか。こんな夜更けに何か用ですか?夜這いですか?お誘いですか?間に合ってますので丁重にお断りさせていただきます、おやすみなさい」
ブツッ。
ツーツーツーツーツー。
ピポパポピ。
プルルルルルルル。
ガチャ。
「はい、竜持です」
「ごめんごめん、時間見てなかったのは盲点だったわーあは。で?今暇?暇だよね?」
「おやすみなさい」
「ちょっと待っていい加減にして話だけ聞いてほんとごめん謝るから!誠実に!ごめん!」
「……で、なんですか?」
「いや、あのさーその……」
「……おやすみなs」
「あああ明日の!デート!なんだけど……」
「デート?ああ、凰壮くんとの初めてのデートですか?僕にさんざん迷惑をかけてようやく実った、片思い歴十年の夢子さんが初めてのこぎつけた大事な大事なデートですか?」
「…………そうです」
「それが?どうしたんですか?失敗したんですか?まだ始まってないのに失敗したんですか?随分器用ですねえ」
「ち、違うもん、まだ失敗してないもん」
「じゃあ何を悩むことがあるんですか、なにか心配事ですか?大丈夫ですよ杞憂ですから早く寝て明日に備えてください。ではおやすm」
「違う違う違う!眠いのは分かるけど聞いて!」
「……」
「あ、明日のその、着ていく服をね……?」
「……は?服?」
「う、うん。服。一緒に選んでほしいな、と」
「おやs」
「もういいよこのやり取り」
「もういいのはこっちですよ、そういうくだらない用件はもういいです。飽きました。夢子さんの悩みは、夜の二時にはくだらなすぎます」
「ご、ごもっとも、なのですが、決まらないのです、明日の服が。もうかれこれ四時間は選んでいるのです……」
「……着たい服を着るのが一番ですよ。第一、夢子さんの私服なんて凰壮くんは見飽きているでしょう?」
「だからこそじゃん?だからこそ!いつもと違う女らしさをアピールするしかないじゃん?」
「ないものをだそうとしてどうするんですか。自分の限界を知ることも大事ですよ。無茶なことは諦めて寝てください」
「ひ、ひでえ……」
「どうしても女らしさで攻めたいなら、短いスカート履いて下着見せれば男はイチコロですよ。凰壮くんもまた然りです」
「まじでか」
「まじです。では」
ブツッ。
ツーツーツーツーツー。

最後はおやすみも言われず切られた。





十年間も一緒にいて片思いもしていたくせに、凰壮の好みを全く把握していなかった私は恋する乙女失格である。
恋する乙女といえば相手の情報収集に余念はなく、誕生日から家族構成まで基本データの把握はもちろんのこと、相手の行動を推察して待ち伏せたり偶然を装って何かにつけて接点をつくるような人種だというのに、私は幼馴染という安定されたポジションにかまけてそれら全てを怠っていた。
凰壮の好みのタイプはおろか好きな女優すら知らない。
従って、四時間も鏡と睨めっこしたにも関わらず明日の装いが少しも決まらないのは、当然の報いである。

しかしながら、果たして本当に、下着を見せれば凰壮は私にイチコロなのか?
否。竜持最後らへん滅茶苦茶適当だったし。やつの言葉を鵜呑みにはできまい。
第一、下着なんて見せたら引くでしょ、普通。駄目だろ、さすがに。女らしくないでしょ、むしろ。
大体、下着見たいか?私の?凰壮が?

駄目だ……。「そんなきたねーもん見せるんじゃねえよ、ブス」って馬鹿にして笑う凰壮の姿が容易に想像できる……。

しかし私に与えられた情報はこれしかないのだ。
……さあどうする?





結局昨日は二時間しか寝れなかった。昨日というか今日であるが。
眠気からか、目玉は血走り瞼は少し腫れている。

最悪だ……。

ただでさえ特別容姿に恵まれた人間ではないというのに、せめてベストな状態で今日という日を迎えたかった。しかしながらこれはやはり、十年間恋する乙女のくせに胡坐をかいていた自分に非がある。(胡坐はないな、正座しとけばよかった。)
これは以前竜持にも言われたことだが、努力の一つもしない怠慢な私が悪かったのだ。

「(だからこそ、今日は、いつもより、積極的に!素直に!可愛らしく!女らしく!)」

少しでも凰壮に可愛いと思ってもらえるようにと、私は心の中で気を付けるべき点を何度も復唱した。


結局服装は竜持の適当中の適当なアドバイスにのっとることにした。
別に下着を見せるわけではないが、いつもはスカートの下に履くレギンスをやめた。
丸襟のついた淡いピンク色のワンピースから黒のハイカットスニーカーにかけて、普段隠しているため日に焼けていない比較的白めの素足が露出する。
いつもは隠す部分が今日は見えて恥ずかしい。

加えて今日は髪の毛もいじった。普段はめんどくさくおろしたままの髪の毛を、アイロンでぎこちなくだが巻いた。
慣れないなりに化粧もした。普段は適当に塗るマスカラも、丹念に塗った。ただあまり化粧を施すのはあまり凰壮が好まないことを知っていたので(以前、化粧品の匂いに酔うと言っていた)、他にはグロスを唇に塗り、チークで頬をピンク色に染めるだけに留めた。

いつもは三秒と見ない鏡をじっくり十分見つめてから、ファッションショーの如くターンを何度もして全身のチェックをした。
そして鏡の前で意気込む自分に向かって「よし!」と言い、戦場に向かうかの形相で家を出た。

「(いかんいかん!今日はいつもより積極的に!素直に!可愛らしく!女らしく!)」



さあ!いざ出陣!


















うまくいくといいですね 相変わらず空気凰壮くん(2012.8.21)

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