今日、日本に帰るから。

虎太からあまりに淡泊なメールが届いた。絵文字も顔文字もない、要件だけ添えられたメールはなんとも虎太らしいと言えば虎太らしい。けど、いきなり帰ってくるなんて何かあるんじゃないの。いつもはちゃんと予定組んで帰って来るし。
そう思ってカレンダーの日付を見てみれば、なるほど今日は四月一日。エイプリルフールだった。
虎太は案外行事には積極的だ。クリスマスだって未だにサンタを信じてて、一晩中ソワソワしてるし。エイプリルフールだって、毎年何かしら嘘をついていた。あんまりにも突拍子のない内容だから、すぐ嘘だってばれちゃうのだけど。だから、今回の嘘はちょっとそれっぽくて騙されかけてしまった。
いや、ただ単に、この嘘が本当であってほしかっただけなんだけど。
今すぐにでも、虎太に会いたい。毎日だって会いたいのに。寂しい。

そんなことを考えていたら電話が鳴った。ディスプレイを見ると、虎太の名前が表示された。
電話をかけてくるなんて、本当に珍しい。いつもは時差とかあって、大抵メールだし、かけるとしても私からだ。虎太は、用事がないと連絡すらしようとしないから。

「もしもし?」
「今どこ」

恐る恐る出れば、名前も名乗らず、挨拶もせず、不躾な声が聞こえる。(まあどうせ声を聞けば、虎太だってすぐにわかってしまうのだけど)けれどそれすらも愛しくて、久しぶりに聞こえる虎太の声に、少し泣きそうになった。

「どこなんて聞いてどうするの」

スペインにいるんだから、私がどこにいるかなんて関係ないじゃないか。

「は、なんだそれ」
「……駅前にいるけど」
「あ、本当だ」
「は」

突然電話が切れて振り向けば、体が強い力で引き寄せられて視界がグラついた。何事かと混乱したけれど、誰かに腕を回されている感覚がして、抱きしめられていると理解した。ギュウギュウに強い力で抱きしめられて、少し苦しい。私は肩に埋まってしまって、相手の顔は見えないけれど、懐かしい匂いがして、顔を見なくても、誰かなんてすぐにわかった。

「う、嘘じゃなかった」
「なんだそれ」
「何でもない」

声が震える。泣いてることに気付かれたくないから、虎太の肩に顔を埋めて、私も虎太を抱きしめ返した。



(2013.04.01)

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