今週末の秋祭り、一緒に行かないか。

金魚がすうっと水の中を揺れるように視線を泳がせた彼は、同じクラスの男子生徒だ。思いがけない提案に思わず「私と?」と尋ねると心なしか頬を染め、唇をきゅっと固く結んでしまった。
今夏までの中学三年間ずうっと坊主だった頭は厳しい野球部の名残を僅かに残しながらそれでもだいぶ伸びて、以前よりも幾らか大人びたようだった。照れくさくなるのは、見上げた横顔がなんとなく見慣れないからに違いない。彼の短い前髪は丸い額を隠し切れず、秋風に撫でられると寒そうに見えた。
たまたま帰りが同じになって、なんとなしに同じ歩幅で下校した。他愛もない世間話を繰り返して、そういえば今週は秋祭りだなあと呟く彼に「いつも一番奥に出る綿菓子屋さんが好きなんだよね」とか「むかし屋台で金魚を掬ったんだけど家では飼えないから返しなさいなんてお母さんに言われて、泣く泣く幼馴染に託したんだ」とか「好きな人と秋祭り行って神社の舞を見ると、その恋は成就するんだって」なんてくだらない話を聞かせた後「でも受験生だもんね、今年は行けないなあ」なんて溜息を吐いてみせたら、冒頭のその台詞だった。
彼のぎこちない声に、緊張が伝染したようで、頬が熱くなる気がした。

「で、も、受験生、だし……」
「息抜きぐらい必要だって」
「でも……」
「……嫌なの?」

嫌か、と問われれば、決してそうではないのだけれど。

「家庭教師、が」
「家庭教師?」
「うん」
「なに、怒ると恐いの?」
「……うーん」

正確には、怒ると恐いわけじゃない。
脳裏に過るのは、その左右対称に整った薄く紅く美しい唇をわざわざ歪に吊り上げて笑うあいつ。秋祭りに行きたいなどと言ってみろ。「へえ、その成績でよくもまあ遊びにでかけたいなんて能天気なことが言えますね。あ、能天気だからこの時期になってもそんな成績でいられるんですねえ、さすがです。僕にはマネできないなあ、ま、僕は成績悪かったことないので、マネのしようがないんですけどね、すみません。まあそれも夢子さんの個性でしょうから僕がとやかく言うことではないのですけど。秋祭り、行きたければ行けばいいじゃないですか。折角僕が自分の受験勉強の時間を割いて脳みその皺が足りない夢子さんのお世話をしてあげているのに、不躾にもそんな僕の善行を蔑ろにできるのなら、行けばいいじゃないですか。夢子さんが男子からデートのお誘いを受けるなんてこの先もう二度とあるかないかのビッグチャンスですよ。確率的には宝くじに百回当選する方がよほど現実的かもしれませんね。行かないと、結婚適齢期に次々届く友人からの結婚式の招待状の山を一人で見つめ他人の幸せを祝いきれない悲しみを背負うのを筆頭に、一生後悔するかもしれませんよ。ま、高校受験こそ一度きりしかないんですけどね」などと数多の数式を難なく解いてしまう利発さで思いつく限りの皮肉嫌味罵詈雑言をわざとらしい敬語であれやこれやと冷徹に被せられれば、口惜しくも逆らうことができない私はただただ歯を食いしばることしかできなくなる。そして、そんな私を見て、不健全にもこの上なくご満悦に微笑んでみせるに決まっているのだ。
ああ、忌々しい、あの悪魔。
こんな場面、もしもあいつに見られたら。

「夢子さん」

噂をすれば影。
突然通りやすい声が背中から私の名前を呼んで、背筋が凍った。
私よりも先に、隣にいたクラスメイトが振り返ったけれど、振り返らなくても誰かわかった。私のこと、さん付けで呼ぶのは、一人しか知らない。
たった今まで話題になっていた、その人。怒ると恐い、私の家庭教師。
顔が青ざめるのがわかった。

見られた。あいつ。悪魔みたいなあいつに。

小さく生唾を飲み込むと、もう一度、夢子さん、と私の名前を迷いなくはっきりと呼んだ。

「どうしてこっちを向かないんですか?」

笑いを含んだ音色が、馬鹿にされているようで苛立ちを齎す。不貞腐れるように俯いた。
こいつのこういうところが、いちいち嫌いだ。

「知り合い?」

クラスメイトの男子が私に尋ねる。足元に視線を落としたまま無言で頷くと彼は不思議に思ったのか「大丈夫?」と覗き込んできた。
だいじょうぶ。
そう一言添えて頷こうとすると、突然強い力が手首を掴んで思わず「ひっ」と声を漏らした。そのままその力に引っぱられ、足がよろめく。本当は振り払ってやりたかったけれど、そんなこと到底できやしない。無意識に体は強張ってしまう。仕方なしに、腕を掴んだ張本人を睨むと、やはり可笑しそうに笑った。
腹立たしいのは、なんだかんだこいつには逆らえない、自分だ。

「お気遣い感謝します。大丈夫ですよ。夢子さんは、僕が送って行くので」

頭の上で、あいつが至極友好的に語りかける声が降った。同じく、戸惑うようなクラスメイトの声が漏れる。

「え……でも」
「行きますよ、夢子さん」

あいつとクラスメイトの男子が、私に視線を向ける。
が、こいつにこう言われてしまえば、私のとれる行動は一つしかなかった。

「ごめん……また明日ね」

クラスメイトの男子に小さく視線を送り軽く会釈すると、別れもそこそこに、引かれる力に従順に足を進めた。手を引く目の前の悪魔を、後ろから睨む。
幼い頃から変わらない、私たちの関係も、その長く揃った襟足も。男子校の黒い学ランを身に纏うこいつの背中。怒ると恐い、同い年の、家庭教師。

「竜持、あの」
「黙っててください」
「……はい」

それは悪魔のような幼馴染だった。


降矢竜持は幼い頃から私に対し威圧的であった。
敬語でこそ話しているが常にどこか命令口調であり、彼の意に逆らうと冷たく睨まれた。そんな竜持の態度が恐くて、結局いやいや彼の言うことを聞いてしまっていると、いつの間にか竜持の言うことには刷り込みのようなもので逆らえなくなっていた。内心悪態を吐いていても到底口には出せず、ただ竜持の言葉に頷くばかり。小さな反抗心も竜持の鋭い視線一つで萎んでしまう。せめてと目で訴えるように睨みつけると、竜持は楽しそうに笑った。威勢よく睨む割に自分に逆らえない私を、滑稽に思っているのだと思う。
それは、互いが中学三年生になったいまでも変わらない。
竜持が右と言えば右を向き、左と言えば左を向く。駅前のモンブランが食べたいと言い出せば走って買いに行き、ご褒美に数学の問題集を解かされる。肩が凝ったと言うので揉んでみれば力が強い弱いと文句ばかり。小学生の頃、竜持がサッカーをやっていた時なんか、応援には必ず来いと言うから夏の暑い日にも雨で試合どころじゃない日も風邪をひいても足を運んだ。女子から贈り物を貰えば荷物持ちは私の仕事。修学旅行は強制的に同じ班にされ、八つ橋を吐く寸前まで食べさせられて、いい思い出なんてない。竜持の中学受験、神様など信じていないだろう竜持に「毎日合格祈願してきてください」と命令され、毎朝登校前に神社へ参って健気に悪魔の合格祈願の日々。学校が別れてからも相変わらずちょっかいを出してきてはあれしろこれしろ暇があってもなくても会いに来いなどと毎日のようにメールが送られてきてもうたくさん。
忘れもしないのは小学校低学年の頃、竜持に託した金魚。屋台で掬ったはいいが母親に返して来いと言われ泣く泣く竜持に「代わりに飼ってほしい」と託したのだが、次の日竜持に金魚のことについて尋ねると「ああ、あれ。食べちゃいました」とあっけらかんと言った。金魚は食べられるのか、などという疑問が頭をよぎる前に、何故そんな極悪非道なことができるのかと思って泣いた。悪魔のことだ、きっと野良猫の餌にでもやってしまったに違いない。貴い命を、一体なんだと思っているんだ。
決定的に、竜持を嫌いになったのはその時だった。

にも関わらず、相変わらず竜持から離れられないのは、どうしてなのだろう。
私はまるで、竜持に調教されたペットのようだった。



「あれ、誰ですか?」

連れて行かれたのは私の家だった。玄関の前で足を止めた竜持が、不意に振り返った。あれ、とは先ほどの男子のことだろう。

「……ただのクラスメイト」

端的に答えてから一歩後ずさると、「開けろ」とでも言うように竜持が顎で扉をさした。
鞄の中を急いで漁る。鍵本体よりもずっと大きく鞄の中で場所をとっているウサギの尻尾のストラップ見つけて引っ張り出しせっせと鍵穴に差し込むと、後ろでそれを見ていた竜持が「頭の悪そうな鍵ですね」と呟いた。呆れたような声色に、顔が熱くなった気がした。

二人で家に上がり、まっすぐ私の部屋へ向かう。
竜持は鞄を壁にかけるように置くと、慣れた動作でベッドに腰掛けた。マットが反動で何度か弾むのに合わせて、竜持の身体も揺れる。それを扉の傍で見守っていると、「座ったらどうです?」と竜持からお許しが出て、様子を窺うようにと勉強机に座った。私の部屋なのに。

「秋祭り、彼と一緒に行くんですか?」

きた!

竜持がベッドから立ち上がり、そっとこちらに近寄ってくる。鋭い目を細める様は、まるで尋問でもするみたいだ。
予想していた質問を前に、緊張でごくりと喉を鳴らした。竜持の気に入らない回答は、できるだけ避けなければならない。
どうしてこんなに気を遣わなければならないのか、と内心毒を吐いた。

「行か、ない」

それだけ答えると、目を泳がせる。まるで品定めするように視線を巡らせる竜持は、ふうんと意味深に相槌を打った。

「どうして?」

すぐ傍に置いてある竜持専用の丸い椅子に、彼が腰掛ける。数学の苦手な私を気遣った降矢のおばさんが、週に数回、同じく受験生のはずの竜持を家庭教師として派遣するようになってから置かれたその椅子は、すっかり竜持の物になった。おかげで、いつでも部屋に竜持がいるようで、居心地が悪い。

「受験生、だし」
「息抜きも必要だって、さっきの彼も言っていたじゃないですか」

一体いつから聞いていたのだろうか。
疑問に思いつつ、竜持の誘導するような言葉を振り払い、適当な答えを選ぶ。

「私、馬鹿なので、勉強しない、と」
「……ああ」

竜持はくすりと笑みを零した。口許に指先を添えて、上品に笑う。

「よくできました」

どうやら、竜持のお眼鏡に適ったらしい。
そっと胸を撫で下ろした。

「しかたがない。お馬鹿な夢子さんがそこまで僕とお勉強したいって言うなら、ちゃあんと付き合ってあげますからね、優秀な家庭教師として」

そう、竜持がご機嫌に微笑むので、私の顔は大そうなしかめ面だった。
竜持にこういうところが、大変面倒で、嫌い。



翌日、秋祭りに誘ってくれた男子に、祭りには行けない旨を伝えて謝った。
彼は苦笑いを浮かべると「昨日の男と付き合ってるの?」と尋ねた。
まさか!
どうしてそのような世にも恐ろしい発想があるのだろうか。不愉快とも呼べる感情で否定すると「でも、妬いてたみたいだけど」と言った。
妬くはずなんてない。私は竜持にとって従順なペット以上にはなれない。もしもそう言った感情に等しい態度だったならば、それは恐らくペットに対する独占欲に他ならないだろう。竜持は、潔癖なのだ。

「竜持となんて、絶対ないよ」



ところが竜持の態度が変わったのはその日のことだ。
いつも通り、放課後私の家に寄った竜持は至極言葉少なげであり、不審に思った私は「どうしたの?」と聞かざるを得なかった。しかしながら竜持は不愉快に目を細め「どうも?」と冷たくあしらう。昨日はあんなに機嫌がよかったくせに。竜持にこういう態度をとられてしまえば、私は何も言うことができない。ただただこれ以上機嫌を損ねないように細心の注意を払うのみであった。

「夢子さん」
「はい」

私が問題集を解くのを隣でジッと眺めていた竜持が、芯のない声で呼んだ。内心、面倒なことを言い出さなければいいなという思いで返事をする。

「週末の秋祭り、行ってきたらどうですか?昨日の彼と」
「え?」

どうしてそんなことを言い出すのだろうか。思いがけない提案に戸惑っていると、竜持が煩わし気な溜息を吐いた。あからさまに苛立っている。伝染する空気に、思わず息を呑んだ。

「あの、なんで……」
「夢子さんみたいな馬鹿の相手してる暇ないんですよねえ、僕」
「あ、あの、ご、ごめ」
「なんで謝るんです?」
「だって、竜持、怒って……」
「だからとりあえず謝るって?僕、そういうのが一番嫌いです」

やはり冷たく言い放つと、音を立てて竜持専用の椅子を引いた。乱暴に床を引っ掻くその音に、思わず肩で驚く。立ち上がった竜持は、自身の掛けてあった学ランを手に取り身支度を始めた。どうしていいか分からずに黙って見送っていると、竜持は「気が向いたら来ます」と最後に言い残して部屋を出て行った。

なんで怒ってるんだ、あいつ。

理不尽に当てられた不機嫌に、苛立たずにはいられなかった。
竜持のそういう気分屋で自分勝手なところは、最も嫌いとするだった。

「さいってー!」

竜持がいないことを良い事に、普段閉じ込めている毒を、握っていたシャープペンを投げつけながら吐き出した。



そうは罵りながらも、竜持の言うことには逆らえないのは性である。
秋祭りに行けという命令が下った以上、はせ参じずにはいられなかった。クラスメイトの彼を誘って。一度断られたはずの彼は、快く了承してくれた。

夏の時期を少し外れた秋祭りは、夏に負けず劣らず人が集まっていた。桃山神社を中心に出店がずらりと並び、特設された舞台では巫女による舞が披露される。この舞は男女で見ると恋が成就するなどと迷信みたいなものがあったが、幼い頃竜持と見てしまった(というか強制的に見せられた)私にとっては悪しき言い伝えに他ならなかった。
色とりどりの出店に目移りしながら、お気に入りの綿菓子を買いに行きたいと告げ、二人並んで一番奥へ足を進めていた時だ。顔見知りの集団が見えて、声をかけた。

「凰壮」
「ああ、夢子」

凰壮、それから翔くんとエリカちゃん、玲華ちゃんに、杉山くん。久しぶりにこのメンバーで集まっているところを見たけれど、相変わらず仲が良いらしい。凰壮に続いて、皆笑顔で声をかけてくれた。エリカちゃんが隣にいる男子に気付いて「なん?夢子ちゃんデート?竜持くん可哀想やんな」とからかうように笑うので、苦笑いを零す。
五人は金魚掬いの前に群がっており、水の中を泳ぐ金魚を眺めていた。

「掬うの?」
「あーうん」

凰壮が煮え切らない返事をするので、思わず首を傾げる。どうしたんだと尋ねれば「竜持がさあ」と憎い名前が飛び出して相槌も疎かになった。

「ああ、そういえばいないじゃん。なに、もしかして仲間外れ?」

凰壮が不愉快とでも言うように眉を顰めたので、口を噤んだ。再び視線を金魚に戻す。
そこで凰壮は、耳を疑う話を始めた。

「いや、そうじゃないけどさあ、あいつ落ち込んでんだよね」
「竜持が?」
「死んだんだ、あいつの飼ってた金魚」

金魚?
竜持、金魚なんて飼ってたんだ。
初めて聞いた事実に首を傾げて見せると「元はと言えばお前の金魚だろ」と凰壮が呆れたように吐いた。

「え、私?」
「そうだよ、いつか忘れたけど。お前、おばさんに金魚返して来いって言われて、竜持に泣きながら押し付けたろ」
「でも、あれ、食べたって……」
「金魚って食えんの?」

凰壮が呆れたように溜息を吐くので、絶句した。
だって、竜持、食べたって言った。言ったのに、なんで食べてないんだろう。いや、問題はそこじゃなくて。

「竜持、落ち込んでるの?」

なんで。

「んー、可愛がってたしなあ」

なんで、私の押し付けた金魚、ずっと可愛がってたの。なんで。あの竜持が。そんなの、面倒見る義理なんてないですよって、いつもだったら言うのに。私なんかが、竜持に、言うこと聞いてもらえるはずなんてないのに。なんで、竜持が。

「夢子に頼まれたからって、嬉しそうだったぜ」

なんで今更そんなこと言うの、凰壮。



クラスメイトの男子にはごめんと一言残して、神社を後にした。一目散に降矢家へ向かうと、門は閉まっていたがリビングに灯りがついている。人がいるのは明らかだった。インターフォンを鳴らすと、機械音を通して竜持に似ている声が返事をする。
竜持?
問いかけると、無言になった。

「あの、開けて、ください」
『秋祭りは?』

私の要望には応えない自分勝手な竜持が、言葉少なく尋ねる。

「行ってきたよ。今帰り」
『随分早くないですか。ああ、それともフラれちゃいました?可哀想に夢子さん。夢子さんをデートに誘ってくれるなんて物好きな人、もう現れませんよ』
「ねえ、なんで開けてくれないの」
『……』

饒舌に嘲笑う竜持に催促すれば、やはり無言になってしまう。
最後に会った時からそうだが、どうやら私に会うのを拒否しているようだった。何故。

『なんで、開けてほしいですか。いつもは、僕に会うの、あんなに嫌がってるくせに』

かみ殺したような竜持の声がする。雑音の中で消えてしまいそうだった。

「凰壮に、聞いたの。金魚、死んだって」
『……』
「なんで、嘘ついて、飼って」
『……さあ』
「竜持、私の家庭教師でしょ。質問くらい、ちゃんと答えてよ」
『……別に、意地悪したくなっただけですよ。夢子さん、すぐ泣くから。面白くて』
「なにそれ……」
『だって、僕らしくないでしょう。夢子さんから預かった金魚、甲斐甲斐しく世話するなんて』
「意味わからないよ」
『お馬鹿な夢子さんにはわからなくていいですよ』
「なにそれ。ねえ、竜持、開けてよ」
『嫌です』
「なんで」
『だって』


夢子さんに、会わせる顔がない。


シンと、一瞬二人の空気が静寂を纏った。
そうやって弱弱しく言う竜持こそ、最もらしくなかった。

「竜持、あの」
『……』

竜持なんて、自分勝手で、言うこと聞かないと嫌味ばっかり言うし、恐いし、私が睨むと笑うし、偉そうで、だいきらい、だけど。


「私の代わりに、可愛がってくれて、ありがとね」


感謝くらい、してもいい。


「竜持、開けてよ」
『……』

返事の代わりに門が開いた。すぐに長い庭を抜けて玄関まで駆けると、竜持が扉を開けて出てきた。
いつものように、有無を言わせない絶対的な笑みも皮肉も持たない竜持は、静かに私を見つめる。こんなのやっぱり、竜持らしくない。

「竜持」

別に、竜持への評価がすぐに変わるわけじゃない。ずっと嫌いだった人、突然好きになれだなんて、無理な話だ。いくら、一緒に恋愛成就の舞を見たからって。数学を見てもらってるからって。金魚を可愛がってもらったからって。それだけで、今までの竜持の行いが私の中で正当化されるわけじゃない。
きっとこれからも私は竜持の言いなりだし、この上下関係が変わらない限り。

でも、今日は、せっかくのお祭り、だから。


「一緒に秋祭り行こう」


ああ、ほだされてる。






綾奈さん
企画に参加していただき、ありがとうございました。
大変遅くなってしまって申し訳ございません…。
リクエストの内容に沿えているかとてもきんちょうしますが、少しでも綾奈さんが喜んでくれればいいなあと思います。
いつも大変お世話になっています。またいろいろお話してくれると嬉しいです!
これからもよろしくお願いします。
ありがとうございました。

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