「やあ凰壮くん」
「竜持。出かけんのか?」
「ええ、ちょっと本屋へ」

部活が終わって家に帰ると、玄関で靴紐を結んでる竜持と鉢合わせた。ふうん、と相槌を打ち竜持の隣を横切って家に上がると、靴紐を結び終えた竜持が「夢子さんが僕の部屋で寝てるので」と言ったのが聞こえて振り返った。玄関の扉に手をかけた竜持も同じくこちらに振り返る。ニタと企むように笑った。

「静かにしておいてあげてくださいね」
「……ふうん」

なんで竜持の部屋で寝てんだよ。
頭の中で誰かが不機嫌に毒づいた。
相変わらず、竜持とは仲がいいようだ。

「怒ってます?」

フフ、と声を漏らす竜持に「怒ってねえよ。ムカつくけど」と溜息を吐いた。

「ああ、凰壮くんらしいですね」
「何が」
「賢いって意味ですよ」

いってきまあす。
意味深な笑みを残して出て行った竜持を見送って「なんだ、あいつ」とやはり溜息を吐いた。


部屋に戻って荷物を置く。クローゼットから着替えを漁り、風呂に向かおうとすると、竜持の部屋が少しだけ開いているのが目についた。
一つ間を置いてから足音を立てないように近づく。開いていた扉のノブをそっと握り、部屋を覗いた
すぐに、ベッドの上に寝転がる人間がいるのを見つける。
竜持の部屋には壁に向かって置かれた俺と虎太とお揃いの勉強机と、その反対の壁に沿って置かれたベッド。ベッドの横にみっちり詰まった本棚があるくらいで、物は少ない。散らかることもなく片付いている。竜持らしい。
時計の音と冷房が風を送る音がそっと囁く部屋に入る。ベッドの主はこちらに足を向け、身を丸めるようにして眠っていた。一歩ずつベッドまで歩み寄ると、少しずつ、ベッドで横になっている人間が姿が大きくなる。
静かに、傍で見下ろすように立った。

「(寝てる……)」

肩を上下させて寝息をたてる夢子が視界に映って、目を細める。

「(人の部屋で寝るか?ふつう)」

その場でしゃがみ、夢子に視線を合わせた。
まじまじと夢子の顔を眺める。幼い頃からずっと一緒だが、寝顔を見たことなんて数回しかない。漠然と「こんな顔して寝てんのか」と物珍しい感情が芽生えた。

「(竜持といるときはリラックスしてんだろうなあ)」

人のベッドを占領して寝こけるくらいだもんな。信じらんねえ神経してる。
そうやって言うと、きっとまた怒るんだろうなあ。こいつはなんつーか、生きるのに一生懸命っていうか、全力というか。疲れないのか、と思う。

「つまんねーな、起きろよ」

時計と冷房の音の間でひとりごちた声は寝ているこいつには届かない。悪戯してやろうと軽くデコピンをしてやったが、煩わしそうに眉を顰めるだけで終わってしまった。
やっぱりつまんねえな。
こいつはうるさいくらいが丁度いいんだ。

「……早く起きろよ」

そう言って、今度は先ほどデコピンした額を手のひらで包むように撫ぜた。
先程顰められた眉が、再び穏やかになっていく。

早く起きろよ。
いつまで竜持のベッドで寝てんだよ。
面白くねえだろ。
早くこっち見ろよ。
そんでいつもみたいに顔赤くして怒ってさ。
ちょっと機嫌とってやれば簡単に笑えばいいんだ。
それだけで俺は面白い。


夢子がもう一度身を縮め、今度は足を擦って暖を取る仕草をした。
そういえば外から帰ってきたばかりで気付かなかったが、この部屋少し寒い。眠っていれば尚更だろう。冷房を切ってもよかったが、それはそれでまた暑くなるだろうし。
竜持のベッドを見渡すが、かけれるようなものはなかった。

「面倒くせえな」

一度溜息をついてから、自分の部屋に戻り、ブランケットを探し出す。
それを夢子にかけてやってから、今度こそ風呂に向かった。




匿名様方、企画に参加してくださいまして、ありがとうございました!
お返事はアンケート発表時に行っておりますので、各自そちらを見ていただけるとありがたいと思います!
因みに、こちら長編の一話凰壮くん視点でした!
少しでも楽しんでいただければと思います!
それでは!
(20131103)


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