「付き合ってられん」
 警戒区域の索漠としたコンクリートに転がったトリオン兵の無機質な躰に立ち、つんと砥いだ眦で私を見下げた風間さんは、そう、淡々と言い放った。
 戦闘の名残である砂塵が彼との間隔を曖昧にし、換装しているはずの体にまやかしの動悸を与える。しどろもどろに「ごめんなさい」と頭を下げた頃にはもう、彼は私に背を向けてオペレーターと通話していた。唯一、数歩先で私のかぼそい声を拾っていたらしい菊地原くんと目が合ったけれど、無言で逸らされてしまった。恥ずかしさと情けなさで、死んでしまいたい心地だった。

 ◇

「はあ……遅くなっちゃった」

 今日と明日、もしくは昨日と今日、どちらとも呼び難い境目の時分。夜の帳が降りた住宅街は息遣いさえ躊躇うほどの静けさで、街路灯以外の明かりはどこも疾うに落とされていた。十二月の夜空はことさら奈落を思わせる深い黒に沈み、吐息を白く浮き上がらせたそばから跡形もなく呑み込んでいく。コンビニで購入したトイレットペーパーを抱えるようにして持つと、少しだけ暖かかった。スーパーのほうが割安に違いないが、営業時間はとっくに過ぎていた。
 本当はもっと早く帰宅するつもりだったけれど、ある出来事から急に思い立って、昼の防衛任務後はずっと訓練室に籠もっていた。そのせいでいつの間にか、こんな夜更けの帰路になってしまったのだ。設定した仮想空間に心身が馴染んでいくたび、どうにも、時間の感覚が狂ってしまう。

「……あれ、風間さん?」

 アパートの階段を上り、鞄から鍵を探していると、私の部屋の前に人影があった。それが誰なのかは、背格好だけでわかる。恋人の風間さんだった。

「遅かったな」
「はい……って、え!? もしかして今日約束してました!? ごめんなさい、すっかりすっぽ抜けてました」

 こんな寒空の下、風間さんを待たせてしまったなんて……さあっと血の気が引いていく。
 しかしながら、風間さんは小さくかぶりを振って「いや、約束はしていない。ただ顔を見ようと思ってな」と言った。

「か、顔を見ようと思って……?」

 あまりにも風間さんらしくない理由に、思わず声がひっくり返ってしまう。付き合い始めてそこそこ経つけれど、風間さんがそんなあやふや且つ気まぐれな理由で急に訪ねて来ることなど、今までなかったからだ。
 私の頭上に浮かぶ疑問符を察してか、風間さんは業務連絡の如く淡々と続けた。

「おまえの様子を確認しに来た。落ち込んでいるんじゃないかと思ってな」
「落ち込む?」
「今日の防衛任務のことだ」

 そこまで言われて、ようやく合点がいった。今日の防衛任務、つまり、私が唐突に思い立って訓練室に籠った要因≠ニなる出来事である。
 防衛任務は週二、三回の頻度でまわってくる。私のような野良隊員は混合チームを組まされたり、一時的に欠員が出る隊の穴埋めになったりと、様々な形で参加することになる。今日は風間隊と組んでの防衛任務だった。
 ボーダーに入隊してから一年以上が経っているものの、風間さんと同じシフトになるのは初めてのことで、私はその……浮かれてしまったのだ。風間さんに良いところを見せたい。あわよくば、褒めてもらいたい。そんな邪な気持ちで任務に臨んだ結果、風間さんにばっちりと見破られてしまった。

『公私混同するのも大概にしろ。付き合ってられん』

 警戒区域に出現したトリオン兵を堅実に仕留めた風間さんは、先走ったスタンドプレーにより換装体が欠損した私をぴしゃりと咎めた。そこでようやく、己の行いが如何に幼稚だったかを自覚する羽目になったというわけだ。……今思い出しても、恥ずかしさで顔から火が出そうである。


「捨てられた犬みたいな顔をしていただろう」
「い、犬……」

 むんずと腕組みをする風間さんが、じとりと目を細めて私を見遣った。持ち前の理知的な面持ちにそぐわない可愛らしい喩えをするものだから、ちょっと面白かった。風間さんはこうした脈絡もないギャップで、意図せず私を楽しませることがしばしばあった。

「えっと、落ち込んでなんかないですよ。そりゃ、少し情けなかったけど……でも、自分を振り返る良い機会でした! ご指導ありがとうございます」

 ぺこり、と頭を下げて感謝を示した。
 もちろん強がりなどではなかった。というのも、防衛任務が終わったあと訓練室に籠もったのは、頭を冷やしてたるんだ精神を鍛え直すためだったのだ。私がボーダーへの入隊を志願したのは、恋人を作るためでもなければ、自意識のためでもない。強くなって、生まれ育った街を守るためだ。そういった初心を、はたと思い出したのである。思い出させてくれた風間さんには、感謝しかない。

「……まったく、おまえという奴は」
「はい?」

 風間さんの唇から、ふっ、と弾みを含む吐息がこぼれた。導かれるように顔を上げると、ひんやりとした夜風が頬を撫でてゆく。思わず身震いし、ふと、あることに気付く。

「風間さん、寒くないですか?」

 いつ帰宅するかもわからない私をあてどなく待ち続けていたのだ。すっかり身体を冷やしているに違いない。連絡のひとつも入れずに待ちぼうけるなんて非効率的で、一見すると合理性を好む風間さんらしくないけれど、おそらく自分の都合よりも私の予定を尊重してくれたのだろう。連絡を入れてしまったら、私が予定を切り上げて帰ってくると見越して。風間さんの本意を掬い取れば、愛しさで心臓が小さく締め付けられた。

「気が利かなくてすみません。すぐお風呂溜めるので、温まっていってください!」

 そう言って慌ただしく扉を開けると、風間さんを強引に押し込んだ。
 

 猫の額ほどのスペースしかない一人暮らし用の玄関にふたりで立ち、身体を寄せ合いながら靴を脱ぐ。トイレットペーパーと鞄をひとまず廊下に置いて、お風呂場で湯船の準備をしてからリビングへ向かう。勝手知ったる風間さんは一足先にリビングにいて、ちょうど自分のジャケットを定位置に掛けていた。私の姿を認めると「貸せ」と短く言うので、脱いだコートを風間さんに預けると、てきぱきとハンガーラックに掛けてくれた。ふたりのアウターが仲良く並ぶ。

「あ。お風呂、先に入ってくださいね」
「……おまえも冷えているだろう」
「でも風間さんのほうが」
「じゃあ一緒に入るか?」
「え?」
「そのほうが早い。もうこんな時間だしな」

 押し問答を予期してか、風間さんは早々に第三の選択肢を提示して会話を切り上げると、さも決定事項だと言わんばかりにひとりお風呂場へと消えていった。

「い、一緒にお風呂……!?」

 事もなげに言い放った風間さんとは対照的に、私は動揺した。確かに、風間さんらしい合理的な判断である。お互いの主張が通り、時間も短縮できるのだから。しかしながら、この解決策にはひとつ問題があった。実のところ、私たちは身体を重ねることはあっても、一緒にお風呂に入ったことは一度もなかったのだ。自分でも「お風呂よりももっとすごいことをしてるというのに、何を今更かまととぶって……」と思うけれど、私たちがセックスをする時は、いつも電気を消している。電気の消えた暗い部屋で肌を重ねるのと、電気の点いた明るいお風呂場ですべてを曝け出すのとでは、心構えが変わるのも無理はないだろう。いや、でも、しかし……。

「おい、何をしている。早くしろ」

 悶々としている私を、脱衣所の風間さんが責付いた。

「は、はい! 今行きます」

 つい返事をしてしまった私は、たっぷり三回深呼吸すると、こぶしを作って意気込んだ。こうなったら恋人たるもの、覚悟をキメるしかない。私は風間さんの待つ脱衣所へと赴いた。

 ◇

「か、風間さん……狭くないですか?」
「問題ない」
「何よりです……」

 私は今、背にした風間さんの脚の間で、裸を隠すように膝を抱えながら、身を縮こませている。風間さんは背丈こそ平均的な男性より小柄だけど、しっかり鍛えているのでなかなか逞しい身体をしている。ただでさえ足を伸ばすこともできないサイズの浴槽は、ふたりで入るには窮屈で仕方がなかった。必然と、身体を密着せざるを得ない。
 私にはない、筋肉のかたさが伝ってくる。お湯を介して素肌が滑るように触れ合う感覚は、ベッドの中のそれとまったく異なるものだった。促されるかの如く全身に敏感さが伴ってくると、うなじや背中に風間さんの視線を感じた。自然と強張っていく。

「なんだ。緊張しているのか?」

 こちらの心情を察したらしい風間さんは、私の肩に顎を乗せながらどこか揶揄うような声色で訊ねた。耳元で囁かれる体勢だったので、彼の声はダイレクトに身体に響いた。鼓膜から背骨を伝った刺激が尾骨を撫であげ、つむじや爪先、胸の頂といったあらゆる先端をほのかに痺れさせた。シチュエーションのせいだろうか、触れられているわけでもないのに先走ろうとする己の身体が恥ずかしくてたまらない。せめて風間さんに気付かれない内にやりすごそうと、内腿に力を入れた。

「……おまえを侮っていた」
「え?」

 いつの間にかうなじにはり付いていたらしい、水気を含んだ髪のひと房を、風間さんの指が払った。そんな、なんの意図もない彼の動作にすら反応してしまう。私の身体を火照らせるものが、お湯の熱なのか肌の熱なのか、もはやわからない。

「俺はおまえが落ち込んでいるだろうと思っていた。だがおまえは落ち込むどころか、やる気になっていただろう」
「? はい」
「そういう気概自体、俺は嫌いじゃない」

 ぴちゃん。湯船にこぼれた水滴が飛沫を上げるように、私の心は弾んだ。風間さんの「嫌いじゃない」は、ほとんど「好き」と同義だ。
 風間さんは厳しい人だけれど、その分、ちゃんと見ていてくれる。言動に宿った努力や意志を、取りこぼすことなく、あの研ぎ澄まされた瞳で見つけてくれる。だからこそ、私は彼の言葉で、何度でも奮い立つことができるのだ。
 ふいに、風間さんの指先が私の脇腹に触れた。愛でるように。それがトリガーとなってか、力の入っていた肢体が自然とゆるみ、解けていく。抱えていた膝がゆっくりと伸びて、足の爪先が浴槽の行き止まりにぶつかった。あらわになったお腹に、風間さんの手が滑り込んでくる。私は応えるように身体を後ろに倒して、風間さんに凭れ掛かった。ゆらり、と、湯船が小さく揺れる。もう、裸を隠すことはしなかった。風間さんに見てほしかった。私のすべてを。

「んっ」

 風間さんの手が、お湯の中で私の胸を下から持ち上げていた。浮力で軽くなっているのか、揉まれる感覚がいつもより柔い気がして、少しばかりもどかしい。骨太の指に左右から摘まれる乳房は柔軟に形を変え、きゅ、と前方に長く押し出る。すっかり乳首も尖っていたけれど、まだ触れてもらえなかった。

「か、かざまさ」
「心配するな、風呂ではしない。コンドームもないしな」

 心配などしていなかった。どちらかと言えば催促しているつもりだった。私の意図を知ってか知らずか、風間さんはまるで機嫌でも取るように、私のうなじへキスを降らせる。何度も繰り返されるそれに煽られ、私の吐く息にも徐々に湿り気が混じるようになっていた。私は無意識に足先を擦り合わせ興奮に耐えていたが、我慢の限界が迫っていた。

「あ、あの」
「ん?」
「も、ベッド、行きたいです」
「珍しいな」
「だ、だって、ここじゃしないって……」
「ふ」

 笑い声に似た吐息が、私の耳元をたしかに濡らした。

 ◇

 ベッドへ辿り着くまでに、幾分か時間を要した。
 お風呂からあがった風間さんは「風邪を引く」と言って、私の身体をバスタオルで丹念に拭ってくれた。その手つきにいやらしさは微塵もなかったのだけれど、却ってじれったかった。

「風間さぁん」

 甘えるようにキスをしては、世話を焼いてくれる風間さんの邪魔をした。そのたびに「少し待て」と窘められたけれど、部下や犬のようには従えなかった。風間さんも任務の時とは違い、スタンドプレーに走る私を突っ撥ねたりはせず、呆れつつもキスに応えてくれた。

「んん、はあ、ちゅ」

 風間さんの首に腕を巻き付けながら夢中で舌を絡ませると、バスタオル越しにお尻を掴まれた。早くその奥を直に触れて欲しくて、密着させた身体を押し付けるように擦り合わせる。まだ軽い愛撫とキスだけだというのに、秘部はお湯ではないものですっかり濡れそぼっていて、拭いてもらったはずの太腿に垂れていく。冬の脱衣所は空気がひんやりとしていたけれど、そんなこと気にならないくらい熱かった。
 もはや身体など拭いても意味がないと察したのだろうか、滴る愛液を認めた風間さんは、私をお姫様抱っこしてベッドへと連れていってくれた。小柄とは思えない安定感のある逞しい腕に運ばれている間も、ベッドに降ろされる一瞬も、私たちはキスをし続けていた。1Kのアパートでは脱衣所からベッドまでの距離なんてわずか十数歩にしか満たないけれど、そんな短い時間すらもどかしく、必死に唇へ吸い付いて風間さんを求めた。
 風間さんは縋り付く私の肩を押して唇を離すと、膝立ちでベッドに乗った。ぎし、とスプリングを軋ませながら私に跨がって、こちらを静かに見下ろしてくる。お風呂場同様、部屋の照明によって、私の身体は隅々までつまびらかにされていた。もちろん、風間さんの身体も。これほど鮮明に、まじまじ見るのは初めてだ。そそり勃った男性器を目に留めると、繰り返し記憶に叩き込まれた快感が身体をなぞってゆく。「いつも、こんな太いものに貫かれているのだ」とまざまざと思い知り、息が荒くなった。
 羞恥心も理性もとっくに降伏していた私は、ヒクつく割れ目を自主的に両手で広げて見せた。風間さんは片眉を上げ、目を細くしてそれを見た。風間さんに見られている、と思うだけで膣内がぐにぐにとうねる。

「触る前からすごいな」

 太腿の愛液を丹念に指の腹で拭いながら、風間さんは率直な感想をこぼした。こんな時でも理性的に話す風間さんと、盛っている自分の差に、少なからず興奮した。

「ご、ごめんなさい」
「何に謝っている?」
「は、はしたなくて……」
「……俺の前ならいい」
「ひゃんっ!」

 風間さんは私の両脚を持ち上げると、あらわにさせた秘部に顔を埋め、割れ目に舌を這わせた。勃起するクリトリスを二本の指でしごきながら、あふれ出る愛液を舐め上げ、じゅ、じゅる、と淫らな水音を立てて吸う。

「あ、や、やら、舌、きもち」

 待ち望んでいた刺激を漸く与えられた私は、少しも取り繕うことができなくなっていた。腰をへこへこと下品に揺らしながら、明け透けない言葉で与えられる快感を享受する。風間さんの舌が挿入ってくると、無意識に足先がぴんと伸びた。

「かざまさ、も、いっイき、ま」
「ああ、好きにしろ」
「んん!」

 お許しと共にクリトリスを舌で摩られて、呆気なくイってしまった。膣が大きく収縮する。私が余韻に浸っていると、風間さんは身体を起こしながら手の甲で自分の口元を拭っていた。あの厳格な言葉を紡ぐ唇が私の秘部を愛でていたのかと思うと、それすらも興奮の材料となってしまう。

「はぁ、かざまさん……」
「なんだ」
「も、大丈夫なので、挿れて」
「……いや、まだだろう」
「え? あんっ!」

 先ほどクリトリスをしごいていた風間さんの指が、今度は割れ目をひと撫でした。膣内は段階を踏む必要もないほどほぐれていたせいで、遠慮なく押し入ろうとする指を無抵抗に招き入れるどころか、悦んで咥え込む。
 骨張った二本の指が性器のように出たり入ったりしたかと思えば、膣内でばらばらと動き回ったり、弱いスポットをぐにぐにと攻めてくる。指の動きに合わせて掻き出される愛液が、お尻まで垂れていく。それどころか好き放題に飛び散って、シーツを汚してた。ぐちゃ、ずぽ。口で吸われていた時とはまた違った濁音で、鼓膜が犯された。

「や、ま、イっちゃ、またイっちゃ」
「問題ない。好きにしろ」
「あっ、イ、イく、イきまっ、あっ、ふぅ、んん!」

 イったばかりの秘部はすっかり蕩けきっていたので、簡単に達するようになっていた。愛撫だけで二回もイかされて、あまりにも堪え性がなさすぎる。それに、私ばかり気持ち良くしてもらって……。

「ま、また、私だけ」

 覚束ない思考と乱れた呼吸の合間で虚ろに呟くと、風間さんが私の頭を撫でた。ぼんやりと視線を送ると、じっと私を覗く風間さんと目が合う。言葉を介さずとも、次に起こることが理解できた。ごく自然に目を閉じる。風間さんの唇が、私のそれと重なった。くちゅ、とふたりの唾液が混ざる。風間さんのことが好きだと伝えたくて、懸命に舌を伸ばし、絡め合う。そうしてキスに夢中になっていたら、いつの間にかまた、風間さんに秘部を弄られていた。まるであやすみたいに優しく、円を描きながらクリトリスを撫でたかと思えば、前触れもなく膣内を侵略する。太腿は震え、下腹部はきゅうと疼いた。
 私も風間さんの男性器を撫でた。今度こそ挿れてもらいたくて、懇願のつもりだった。
 風間さんはベッド脇のサイドテーブルに手を伸ばすと、引き出しの中を無造作に漁った。前回ここでした時の余りのコンドームを取り出すと、手早く自身に装着させる。その一連の動作を、期待に満ちながら見守った。風間さんの男性器が心なしかビクビクしている。先ほどよりも大きくなっているようだった。
 両手で腰を掴まれる。挿れられたら最後、果てるまで逃げられないと思うと、呼吸は「ふー、ふー」と荒くなった。太く固い男性器が割れ目を掠め、ゆっくりと挿入っていく。
 やっと、やっときた。気持ち良い。

「へあ!?」

 もたらされる快感に順応しかけていたところで、一気に奥まで貫かれた。突然のことに、目の前がちかちかとする。膣内のどくどくとする圧迫感に、わずかばかり残っていた理性すら呑み込まれてしまうのではないかと怖くなった。一旦腰を引いて逃げようとしたが、がっしりと掴まれていたため叶うことなく、せめてもの気持ちで風間さんの肩にしがみついた。風間さんのソレを、ぐり、とさらに奥へと捩じ込まれると、身体が小さく跳ねた。

「またイったのか?」

 訳もわからず喘ぐ中、ふと挑発するような声色がして、風間さんを見上げた。特徴的とも言える決然とした瞳の奥に、微かな揺らぎを垣間見た。動物の本能が滾り、私を貪ろうとしている。私はつい嬉しくなって、風間さんの腰に脚を絡めた。私のわかりやすい媚びに応えるかの如く、風間さんが腰を動かし始める。

「あっ、あん、かざ、ふぅ、い、きもちいっ、んん」
「は、そう締めるな。あまり保たん」
「ぁん、だして、にぁ、なか、いっぱい、びゅう、ってしてえ」
「おまえは、また……」

 風間さんの眉間に皺が寄る。私の膣内で風間さんが気持ち良くなっているという事実が、どうしようもなく私を高揚させる。何度目かわからない絶頂が迫っていた。

「ふ、かざまさ、あっ、見てて、わたし、の、イくとこ、ぜんぶ、見、ん」
「ああ、安心しろ」
「んんっ!」

 びくん、と大きく身体を仰け反らせてイくと、少し遅れて風間さんも達した。ずるり、と引き抜かれたソレにぼんやりと視線を送る。愛液がまとわりついたコンドームの中に、風間さんの精液がとっぷりと吐き出されていた。あんなに射精るものなんだ、と、思わず凝視してしまった。

「夢子」

 風間さんは隣に寝転がると、私の前髪を掻き上げながら額を撫でてくれた。まるで「よくやった」と褒められているみたいだった。先ほどまでとはまったく別の気持ち良さで目蕩みそうになる中、ぐりぐりと風間さんの手のひらに額を押し付けて「もっと撫でて」と主張してみせる。けれども風間さんが撫でてくれたのは額ではなく、胸だった。勃っていた乳首を親指でこねながら、もう片方の乳首を舌で転がされる。絶頂したばかりだというのに、再び秘部が熱を孕んでいく。

「あ、あの……またするんですか?」

 戸惑いながら問いかけると、風間さんは事もなげに告げた。

「ああ。今日はおまえを徹底的に甘やかすと決めたからな」
「え?」

 風間さんの厳格な唇が、ふ、と弛み、笑みを作った。

「たまには悪くないだろう?」
 
 ◇
 
「風間さんのイジワル」

 顔を埋めた枕の中で恨み節を吐くと、キッチンから戻ってきた風間さんが怪訝な表情で私を一瞥した。ペットボトルの水をひと飲みしながら、目線を天井に向ける。記憶を巡らせているようだったが、どうやら「イジワル」に相当する出来事を見つけられないみたいだった。

「あれだけ何度も達しておいて、何が気に入らないんだ?」

 そう。あれから風間さんは宣言通り、私の身体をひどく甘やかした。それはもう、でろでろになるほどに、何度も何度も絶頂に導いたのだ。
 もちろん気持ち良かったし、風間さんに触られるのは嬉しい。嬉しいのだけれど……。

「力尽きて、動けないじゃないですか!」

 ベッドの中から抗議する。馬鹿になるほどイかされた私の身体は、ミミズのようにうねうねと這うことしかできなくなっていた。

「それでもボーダー隊員か。鍛錬が足りないんじゃないか?」

 しれっとした調子で受け流すと、風間さんはうつ伏せになっていた私の身体を抱き抱え、風間さんの膝へ横向きに座らせた。それから、飲みかけのペットボトルを私に渡して「飲め」と視線で指示をする。促されるままちびちびと飲むと、ご褒美と言わんばかりに頭を撫でられた。たったそれだけのことで、私のちょろい心臓はきゅんとトキめいてしまう。

「俺は、恋人としての務めを果たしただけだ」

 ふいに思いもよらぬ言葉が続いた。思わず目をまるくて風間さんを見たが、すぐにキスされてしまって、風間さんがどんな表情をしていたかわからなかった。けれども、それで良かった。
 換装体ではない生身の感触は、風間さんの厳しさの中にある愛情をたしかに伝えてくれる。努力や成長を見つけてくれる風間さんのように、私も取りこぼすことなく、彼の優しさを見つけたいと願った。

(22.12.11)

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