※痴漢される描写があるので苦手な方はご注意ください。


 近界民の侵攻などという未曾有の脅威ばかりが注視されがちだが、もちろんここ三門市にもありふれた犯罪は蔓延っている。夕方四時五十分から五分間だけテレビ放送される、ローカルネタを取り扱う「三門市ニュース」では門の発生状況の他に、空き巣、窃盗、暴行、詐欺、交通事故、自然災害、痴情の縺れ……何かしらの事件が毎日のように報道されていた。
 そんな三門市ニュースは、明日の放送で私の名前を流すのだろう。もちろん被害者として。
 私は今、痴漢に遭っている。

 この辺りの相場よりもずっと安い1Kのアパートは、最寄駅から十五分ほど歩いたところにある。駅前の商店街を抜けた後はコンビニ一つなく、夜は街灯の少ない住宅街をひたすら歩かなければならない。この立地の悪さが安さの秘密であることは言うまでもないことだが、生まれてこのかた露出狂やストーカーといった類いの被害には一度も遭ったことがないので油断していた。
 時刻は二十三時を回っていた。バイトで疲れ果てた身体を引き摺り、一刻も早く家路に着こうと、並び建つ家々の切れ間に鎮座する公園を横切って近道を試みたのだ。
 昼間、陽の光を浴びて木漏れ日を作る草木は夜になると鬱蒼として不気味な影を濃く深める。ペンキが剥げて悲しげな表情になっているパンダのロッキング遊具、今にもひとりでに動き出しそうなブランコ、ロープの軋む音が静寂を揺らすリングネット。人気のない公園の異様さに身震いし、足早に通り抜けようとした時だった。月明かりに照らされた私の影がぬっと濃くなると同時に、真後ろに人の気配を感じた。振り返って確認しようとすると、背後から胸を鷲掴みにされ、手のひら全体で擦られる。
 一瞬何が起こったのかはわからなかったが、しばらくして、気配の正体が痴漢であることを理解した。
 
 騒いだら、殺されるかもしれない。

 脳裏をよぎった最悪の展開に、手足の指先から血の気が引いていく。得体の知れない何かが身体中をぞわりと巡り、同時に、痺れや痛みを伴う不快な感覚が内側から肌を撫でた。恐怖と嫌悪感が綯い交ぜになった、経験したことのない現象だった。
 声も出せずに膠着していると、痴漢はまるで許しを得たかのように、暴力的な手つきをさらに荒々しくさせる。耳元で大きくなっていく露骨な息遣いと、お尻に必死に擦り付けられる硬い感触に、全身が粟立った。
 どのくらいの間そうされていたのかは、分からなかった。実際は一分程度だったかもしれなかったが、何時間にも感じられた。
 状況が変わったのは、胸を撫で回していた痴漢の手が、脚の付け根に触れた時だった。生存本能というやつだろうか、一瞬にして、恐怖を嫌悪感が上回った。そしてそれがトリガーとなって、締まっていたはずの喉から漸く悲鳴が飛び出した。
 突然狂ったように叫び出した私の口を痴漢は慌てて塞ごうとしたが、皮肉にも私の身体を拘束していた腕を解く格好になった。半狂乱の私は無我夢中で暴れ、持っていたトートバッグを力任せに振り回す。すると確かに、トートバッグ越しに衝撃を感じることができた。どうやら、痴漢の背骨に直撃したらしい。う、という鈍い声と共に、一歩二歩と離れていくのがわかった。
 今日は珍しくパソコンを持ち歩いていて助かった。親戚に譲ってもらった古い型なのでかなりの重量があり、それなりの武器になり得た。壊れたかもしれないけど、命には代えられない。
 蹲る痴漢には目もくれず、全力で駆け出して公園を脱出した。痴漢が追ってこないか時折振り返りながら走る。途中で足がもたれて盛大に転んだけれど、無事アパートの中へ逃げ込むことができた。
 内側から鍵とチェーンをかけると、疲れか、はたまた安堵からか、玄関にへたり込んでしまった。必死に息を整える。肺から込み上げるような血の味が滲んだ。
 しばらく動く気にもなれず、放心状態で座り込んでいると太腿に振動を感じた。スカートのポケットから、震える手でスマートフォンを取り出す。画面には、同じゼミに所属している二宮匡貴くんの名前が表示されていた。連絡先は交換していたものの、実際に電話があったのは初めてだったので、少し動揺した。
「……も、もしもし?」
「俺だ。来週提出の課題のことだが」
 どうやら業務連絡だったらしい。いきなり要件から入るのがなんとも彼らしいなと思った。
「えーと、ありがとう。私からも連絡しようと思ってたんだ。論文がねーなかなか見つからなくて……」
「……何かあったのか?」
「え?」
「声が震えている」
 二宮くんの言葉に、私は耳を疑った。
 二宮くんとはゼミが同じというだけの関係性だ。同じ空間にいれば話すけれど、わざわざ理由もないのに連絡を取るような間柄では決してない。彼は飲み会にも顔を出さないし、お昼すら一緒に食べたこともない。私がただ片想いをしている、一方的な関係だ。
 だから、二宮くんが私の異変に、しかも電話越しで気付いた上、あまつさえ指摘してくるなんて、思いもしなかったのだ。
「あは、えーと……実はさっき、夜道で痴漢に遭いまして……」
「……何?」
「でも、あの、ちょっと身体触られただけで逃げれたから、最悪なことにはなってない、んだけど、あはは」
「……」
 コメントに困っているのだろうか、二宮くんが黙ってしまったので、私の空笑いだけが虚しく響いた。もしかしたら引かれたのかもしれない。特別親しい関係でもないのにこんな話しなければよかったと、密かに後悔した。こんな話、好きな人に知られるなんて恥ずかしいやら情けないやら悲しいやらで、先ほどの事件と相まって情緒がおかしくなりそうだった。
「……夢山」
「え、は、はい」
「住所はどこだ」
「じゅ、住所?」
「早くしろ」
 二宮くんの唐突な質問に戸惑いながらも、有無を言わさない圧を感じ、しどろもどろに答える。全て言い終わると、二宮くんは「今から行く」と言ってブツリと電話を切った。
 ……今、来るって言った?
 ◇
「ほ、本当に来た……」
 もはや日付が変わろうという頃。インターフォンが鳴った。尚も玄関に座り込んだままだった私は、ドアノブを支えにし、力の入らない足でゆっくり立ち上がる。ドアスコープを覗くと、そこには確かに二宮くんの姿があった。
「こ、こんばんは?」
 恐る恐るドアを開けると、二宮くんは玄関に散らばった化粧ポーチやら、ハンカチやら、筆箱やらに順番に視線を落とす。玄関に駆け込んだ拍子に、トートバッグの中身が散乱してしまっていたのだ。汚い部屋かと思われたかしらなどと思っていると、二宮くんはそのことには言及せず「周辺を見てきたが、おかしなやつはいなかった」と言った。
「え、見回ってくれたの……?」
「……警察には連絡したか?」
「いや、まだ……」
「早くしろ。じゃあな」
「え、ちょっと待、きゃっ」
 淡々と指示を出し、早々に立ち去ろうとする二宮くんを、慌てて引き留めようとした。咄嗟に伸ばしたのはドアノブを掴んでいた方の手で、支えをなくした足はやはり力が入らず、崩れ落ちそうになってしまった。すんでのところで地面に膝を打ちつけずに済んだのは、二宮くんが受け止めてくれたからだ。
 香ってきた彼の匂いと、しっかりと私を支えてくれる逞しい腕は、とても居心地がよかった。比べるのも失礼極まりないが、今も身体中に這い寄る痴漢の気持ち悪さとは、全く違う。
「あ、ありがとう」
「……怪我でもしているのか」
「や、違くて。……恐くて、まだ足に力が入らなくて」
「……」
 へらへら笑う私に対し、二宮くんは眉を顰めるだけの反応をする。そして伏し目がちに何か考える素振りを見せた後、小さく屈み、私の背中と膝裏に手を滑り込ませてきた。そのまま一気に持ち上げられて、いわゆるお姫様抱っこをされてしまう。
 突然宙に浮いたことに驚き、体勢が崩れないよう、慌てて二宮くんの首に腕を巻き付ける。身体は思いの外、ぴったりと密着した。
「え、な、に、え……?」
「黙ってろ」
 二宮くんはそのまま玄関に上がり、狭い廊下と一体化したキッチンを抜けて、躊躇いなく部屋に入る。昨日片付けておいてよかったと密かに安堵する私をよそに、二宮くんは室内を小さく見渡す。六畳しかない単身者用のワンルームは、ベッドとデスク、ドレッサー、チェスト、姿見鏡でぎちぎちだったので、最も落ち着けると判断されたらしいベッドに下ろされた。二宮くんは、縁に腰掛ける私を見下ろしながら「怪我もしてるな」と言った。
 二宮くんの視線を辿ると、私の膝に行き着いた。赤黒くなっている膝は、道中転んだことを思い出させてくれた。視覚が情報を得たことで、痛覚が復活する。よく見れば、服も汚れていた。
「救急箱はどこだ」
「あー……絆創膏なら、ドレッサーの引き出しに」
 二宮くんは私が指した方に向かい、ドレッサーの引き出しから絆創膏を探し当てると、何故か私の前を通り過ぎて部屋を出て行ってしまった。キッチンから水の流れる音がして、戻ってきた二宮くんの手には濡れたハンカチがあった。
 私の前で片膝をついた二宮くんが、ハンカチで傷口を拭ってくれる。膝はコンクリートの破片や土埃で汚れていた。傷口に水が沁みて少し痛かったが、黙っていた。
「あの……ありがとう」
 私は、未だにこの状況を飲み込めないでいた。あの二宮くんが、私の部屋で、私の怪我のために、私の前で跪いている。
 二宮くんは堀の深い顔立ちで、背も高く、大人びた雰囲気からとにかくよくモテる。それなのにどうやら恋人はいないようだし、かと言って遊んでいるという噂を聞いたこともない。ボーダーの同僚とされる加古さんとは時々話しているようだけど、二人の雰囲気が甘ったるいものではないということは一目瞭然だ。
 そんな二宮くんが、ただゼミが同じというだけの女の家に、夜中にも関わらず駆けつけてくれるなんて、不思議だった。言葉の一つひとつは命令口調だったけれど、その全てが私を気遣う意図のものだった。

 なんで、私のために、ここまで……。

 二宮くんが、絆創膏を膝小僧に貼ってくれる。その優しい手つきに、思わず涙が零れ落ちた。
「夢山?」
「二宮くん、優しくしないで」
 こんな弱ってる時に優しくされると、期待したくなる。
 両手で顔を覆って涙を隠すが、堪えきれずしゃくりあげてしまう。優しくしてもらったくせに、二宮くんを否定するようなことを言って、なんて恩知らずなんだろう。本当は、死ぬほど嬉しかったのに。声の震えに気付いてくれたことも、夜中に駆けつけてくれたことも、叱られたことも、手当てしてくれたことも。どうして涙が溢れるのかは、自分でもわからなかった。
 きっと、二宮くんだって呆れてる。その証拠に、二宮くんはずっと黙っていた。でも、涙は止められなかった。
 不意に、ベッドが私以外の重みで静かに沈んだ。顔から手を離して気配のする方を見上げると、二宮くんが隣に座って私をじっと見つめていた。しっかり目が合っているというのに逸らす素振りすら見せない二宮くんに、こちらの方が居心地が悪くなってしまう。
 二宮くんは「夢山」と、私の名前をその低い声で静かに呼んだ。
「俺にどうして欲しいか言え」
 どうやら二宮くんは、呆れていたわけではなく、困っていたらしかった。デリケートな被害に遭った女を前に、必死だったのかもしれない。落ち着いて見えても、私と同じ二十歳なのだ。
 二宮くんの問いに少しだけ落ち着きを取り戻すことができた私は、視線を膝に落とした。二宮くんが貼ってくれた、ピンと張りすぎている絆創膏をぼんやりと眺めながら、ゆっくり自分の気持ちと向き合う。そして、頭に浮かんだことを、順番に言葉にした。
「今日、一緒にいて欲しい。恐いから」
「……ああ」
「それ、から……」
「……さっさと言え」
「あの、えっと、私の身体、に、触って欲しい……です」
 唇が震えるのがわかった。辿々しく伝えてすぐ、言わなければよかったと後悔した。ちらりと盗み見れば、二宮くんは眉間に皺を寄せていた。
「……どういう意味かわかっているのか」
 二宮くんはやはり、真っ直ぐ私を見ていた。
 確かに、こんなことをお願いするのは、どうかしているかもしれない。でも、言葉にしてしまった以上、今さら引き返せもしなかった。それにこれは、片想い相手である二宮くんにしか頼めないことだ。このまま突き進む以外に、道はない。
「痴漢に触られたところ、今も感触が残ってて、気持ち悪いの。その……二宮くんの手で、全部なかったことにして欲しい」
 二宮くんの手にそっと自分の手を重ねる。指でツ……と二宮くんの手の甲をなぞると、私の方からキスをした。

 二宮くんの厚くはない唇を喰むように、角度を変えて何度も吸い付く。とにかく二宮くんを誘惑しようと、必死だった。もちろん、二宮くんが少しでも嫌がる素振りを見せたら止めようと思ったけれど、特に制止されることも拒絶されることもなかった。
「ん、はぁ……ね、二宮くんもしよ?」
 一体全体、自分のどこからこんな声が出るのだろうと不思議になるほど甘い声で誘う。ちゅ、とわざと音を立てて唇を離し、二宮くんの首に腕を回した。
 すると、それまでされるがままだった二宮くんが突然、私の後頭部に荒々しく手を添えた。そのまま私を力強く引き寄せると、まるで余裕がないとでも言うように性急なキスをする。二宮くんは顔を傾けて舌を滑り込ませ、私の舌をねちっこくなぞった。
 ついさっきまで乗り気ではなかった二宮くんがやっと応えてくれたことが嬉しい反面、正気に戻られるのが怖くて、必死になって舌を絡ませる。荒くなる息や、唾液が交わる音、口内を撫でられる感触。それら全てに五感が犯されていく。キスって、なんて気持ちいいんだろう。
「ん……ふぅ、はぁ」
「……夢山」
「ん?」
 二宮くんが、キスとキスの合間に私の名前を呼ぶ。彼の彫刻のように端正な唇は二人の唾液で濡れているし、熱っぽいような艶っぽいような吐息がかかるので、背中がゾクゾクしてしまう。
「……触られたのはどこだ」
 言及こそしなかったが、これは「痴漢に」という意味に他ならない。二宮くんは極めて理性的に、私のお願いを遂行しようとしてくれていた。
 なのに私ときたら、今さらながら言葉に詰まってしまった。自分でお願いしておいて、好きな人にあの時のことを説明するのは憚られたのだ。
 しばらく言い淀んでいると、二宮くんは私の後頭部に回していた手を頬へと滑らせた。そして「早く言え」とでも言うように、親指の腹で私の耳を撫でる。
 言葉も使わず命令される自分は、まるで二宮くんの物になってしまったみたいで、そんなことを考えるとお腹の奥がきゅうっとした。
「あの……胸、とか」
 おずおずと申告した途端、二宮くんが両手で私のトップスをたくし上げる。「腕を上げろ」と短く指示されるので素直にバンザイをすると、そのまま脱がされた。髪がぼざぼさになって逆立つのを、二宮くんが手櫛で整えてくれる。まるで子供が親に着替えを手伝ってもらっているみたいで、少しおかしかった。場違いなことを考えている間に、二宮くんはブラジャーのホックに手をかけ、あっという間に私の上半身を裸にした。
「こっちに来い」
 言われるがまま、彼の足の間に割って入り、背中を向けて座った。
 こめかみと耳にキスが落とされる。背後から伸ばされた両の手が、私の胸をやわやわと揉んだ。最初は持ち上げるように。その内、指を沈めて弾力を確かめたり、浮かせて揺らせてみたりと柔らかさを堪能しているみたいだったが、不意に乳首を潰されて「あん!」といかにもといった喘ぎ声が飛び出してしまった。
 私の反応に気を良くしたのか、二宮くんは首筋に舌を這わしながら、その長い指でピンと主張する乳首をきゅっと摘んだり、コリコリとこねまわしたりする。首を回して後ろを見ようととすると、首筋にキスをしている二宮くんの額に頬が当たる。身を捩る私に気付いた二宮くんが、キスをやめて私を見てくれる。遠慮がちに舌を出しておねだりすると、すぐに唇を深く重ねるキスをしてくれた。
「ふぅ、んっ、はぁ」
 キスをしながら乳首を弄られて、下着の内側が濡れていくのがわかる。腰に力を入れると、お腹の奥で何かが昇ってくる気がした。もっと気持ち良くなりたくて、腰を押し付けるように揺らすけれど、柔らかいマットレス越しでは期待通りの刺激が得られず、もどかしくなるばかりだった。
「なに一人で気持ちよくなってやがる」
「っんん!」
 突然。二宮くんの右手が割れ目をなぞると、身体の中に電気が走ったみたいになって、反射的に背中がのけぞった。二宮くんの首元に額を擦り付けて「はー、はー」と必死に息を整える。軽くイってしまったのだと、働かなくなった頭で考えている内に、二宮くんが私の両膝を持ち上げて、彼の太腿に引っ掛かけさせた。ぐしょぐしょに濡れているせいで、割れ目がわかるくらい張り付いたソコは籠るような熱気を帯びている。開かれるとスースーした。
 二宮くんの手が伸びてきて、馬鹿になった頭なりに何をされるか察すると、慌てて声を上げた。
「や、まだ、待っ……ひうっ!」
 制止も虚しく、膨らんだ陰核を下着越しに強く撫でられて、今日一番の音量で声が漏れた。先ほどの余韻が今尚残っている私には、強すぎる刺激だった。
「はぁ、あん、あっ、に、みゃ、くぅ」
 足はもう力が入らないし、二宮くんの太腿に引っ掛けられているので閉じることもできない。押し寄せる快感になす術もなく、ただただ喘ぐことしかできなかった。
「はっ、に、や、くぅん」
「はぁ、なんだ」
 腰に当たる二宮くんの硬くなったソレの存在に気付くと、お腹の奥が締まる感覚に陥る。もはや理性なんてなくなった脳みそは「早く挿れてほしい」という欲望で埋め尽くされていた。やはりおねだりするように名前を呼ぶと、二宮くんも熱っぽい吐息を漏らしながら返事をしてくれる。ちゃんと興奮してくれてるんだと思うと、余計に気持ち良くなってしまった。
「なか、ぐじゅぐじゅって、しえ」
 もう自分が何を言っているのかわからなかった。呂律が回っていないことは理解できたが、かえって自分で興奮してしまった。
 二宮くんは苦しそうに舌打ちをすると、下着をずらして指を一本だけ挿れてくれた。ソコは十分濡れていたので、すんなり挿入った。もう片方の手で再び陰核を弄られる。指はいつの間にか二本になっていた。
「あっ、やら、またイっちゃ、んん!」
 ビクビクと身体が震える。二宮くんはゆっくり指を抜くと、首筋に何回か吸い付くようなキスを落とした。まるで愛されてるみたいに錯覚してしまう。
「満足したか?」
 これで終わりと言わんばかりの言葉に、違和感を覚える。
「……続き、しないの?」
 恐る恐る尋ねると、二宮くんは目を細めた。
「避妊具がないから無理だ」
「はっ……」
 今の今まで忘れていた。どうしてこんな大事なことを思い出さなかったのだろうと、自分で自分を責めた。高校を卒業してから彼氏がいない私の部屋に、ゴムなんてものは当然なかった。二宮くんだって元々は私を心配して訪ねてきてくれただけなので、何かを期待していそいそとコンビニでゴムを買ってくるなんて真似をしているはずもなかった。
 私は、ジーパン越しに膨らんだ二宮くんのソレに視線を落とす。このまま我慢させるなんて、できない。私は二回もイかせてもらったというのに。
「おい、何をしている」
 ベッドから降り、二宮くんの足の間に、向かい合うようにして座る。ベルトとボタンを外し、ジッパーを下ろして、そそり立つソレを解放してあげた。
「あの、上手くできるかわからないけど……」
 そう前置きした上で、胸で二宮くんのソレを挟む。どちらにしろ経験がないのだけれど、舐めるよりは上手くできるかと思って、こっちにした。
 左右の胸を交互に上下させたり、強めに挟んだりと、とりあえず思いつく限りの動作でソレをしごいた。
 二宮くんは声こそ漏らさなかったものの、時々目を鋭く尖らせるので、全く気持ち良くないというわけではなさそうだった。
「夢山、もういい……」
「……やっぱり良くなかった?」
 二宮くんは私の腕を引っ張って立たせると、太腿の上に座らせる。
 返事の代わりみたいにキスをされ、私もそれを受け入れる。強引に奪うのに唇の触れ方は優しい。恋人になったみたいだと思った。
「少し、付き合え」
 そうして二宮くんは私をベッドに寝かし、ここへきて漸くスカートと下着を剥ぎ取る。自分もシャツを煩わしそうに脱ぐと、私の腰を掴んだ。そして、そそり立ったソレを太腿で挟ませ、割れ目に擦り付けだした。いわゆる素股というやつだった。
「あっ、二宮くん、んぅ」
「く、はっ、夢山」
 陰核を硬いソレでこすられて、すぐにまた気持ち良くなってしまう。今度は二宮くんも気持ち良さそうで、息を荒くして私の名前を呼んでくれる。
「はっ、二宮くん、好き、はあ、私で、んっ、気持ち良くなって、ね」
 息も絶え絶えに伝えると、二宮くんは「そういうことは早く言え」と言って、それからキスをしてくれた。
「は、夢山」
 切なげに呟いた二宮くんが、私のお腹に白濁としたものを吐き出した。珍しく息が上がっている二宮くんを眺めながら、私は精液に手を這わす。ツ、と指で伸ばして、肌を上書いた。
 もう、あの痴漢の手は思い出さなかった。



二宮×片想い×夜プラのテーマ縛り企画で書いたものです。(21.6.26)

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