「たっくん、いらっしゃあい」
「……酔っ払いじゃねェーかコラァ」
 玄関扉から勢い良く飛び出してきた夢子に、全体重で抱きつかれた。思わず一歩後ろに下がって、バランスを取った。普段、苗字にくん付けをする夢子が、聞き慣れないあだ名で自分を呼ぶので、弓場は訝しげに眉を顰めた。同時に、甘く痺れる匂いがほのかに香り、彼女の状況を把握した。
 夢子は弓場と同じ学年だが、一浪しているため、すでに成人している。飲酒を咎めるつもりは全くないが、飲み方には気をつけろと言いたくなった。もしも他の男にもこんなベタベタしていたらと思うと──。妄想上の見知らぬ男に対し、青筋を立てる。
「とりあえず中ァ入れろ」
 ひっついたまま首筋に吸い付き始める夢子を宥めつつ、弓場は扉の中に入った。後ろ手に鍵を閉めると、今度は唇同士を押し付け合う、力任せのキスをされる。内心、頭突きが飛んできたのかと思った。夢子はキスが下手だ。というか、自分からは滅多にしてこない。その弊害か、ちっとも上達しない。今も、閉じられている弓場の口にうまく舌をねじ込ませることができず、唇をちろちろと舐めるばかりだ。まるで犬が戯れているようで色気の欠片もないのだが、風呂を済ませていたらしい夢子は、ノーブラだった。ブラジャーの厚みがなく、薄手のTシャツから柔らかい感触が伝わってくる。よくよく見ると、ボトムスは履いておらずパンツだけだった。弓場は眉間の皺をいっそう濃くした。
 二人は恋人同士なので、セックスすること自体になんら問題はない。弓場はこのところ、防衛任務だ隊長業務だ課題だと忙しく、全く夢子に会いに来れなかった。そのせいか、強面の険しさが三割は増し、すれ違いざまの犬飼に「うわっ」とビビられた。今日、夢子に会ったらすぐさま抱き締めて、いやというほどその存在を腕の中で確かめるつもりだった。
 しかし、当の本人に出鼻を挫かれたばかりか、こうも酔っ払っていられては……。まともな判断ができない相手に手を出すというのは、弓場のポリシーに反した。夢子の様子を見る限り、明日の朝にはまともに覚えていないだろう。
「おいコラ、そのくらいにしとけや」
「なんで? 久しぶりなのに」
 夢子は不服とでも言わんばかりに、口をへの字に曲げた。弓場の拒否は、夢子を大事にするからこそのものなのだが、なかなかそれが伝わらない。聞き分けが悪いばかりか、緩めの襟ぐりから素肌がちらちらと見えるので、理性と葛藤する羽目になり、気を使う余裕がなくなってくる。
「たっくんはシたくないの?」
「その呼び方ァすんじゃねェ」
「たくまくうん? えっちしよーよ」
 甘ったるい声色であからさまに誘う夢子が、弓場の顔を覗きこんでくる。抑え込んでいた弓場の怒りが、頂点に達した。
「きゃっ!」
 弓場は夢子を抱きかかえると、迷わずベッドへ向かった。無造作に放り投げ、布団で夢子をぐるぐる巻きにする。そして、ベッドの傍に立ち、腕を組みながら見下ろした。
「今日はもう終ェだ。さっさと眠っちまえ」
 夢子は突然の弓場の行動に呆気に取られたのか、何度も瞬きをしていた。ゆっくり顔を上げて、弓場をじっと見た。「なんだァ?」と尋ねると、夢子の瞳から大粒の涙が溢れ始めたので、ぎょっとした。
「ゆ、ゆばく」
「おいコラ、泣くことたァねェーだろォが」
「ゆばくんは、ひっく、シたくないの? わたしは、うっ、あえるの、すごく、たのしみにしてたのに」
「楽しみにしてた割にゃ、酔っ払ってたがなァ」
「ひさしぶりで、きんちょう、してたの! ぜったい、えっちにさそうってきめてたから、はずみをつけたくて……」
 夢子からセックスに誘うことは今まで一度もなかったので、そのような決意をしていたことに、僅かながら驚きを覚えた。自分を覆う布団で涙を拭いながら子供のようにしゃくりあげている夢子を見ていたら、叱る気も失せてしまった。
「酔ってる奴に手ェ出せるか」
「……今日はシてくれない?」
「おめェーが素面に戻らねェ限りは、そうだ」
「……じゃ、もういい」
「あァ!?」
 夢子は弓場のワイシャツを思い切り掴むと、ベッドの中に引き摺り込んだ。体勢を崩した弓場の上に、すかさず馬乗りになる。弓場は慣れない角度から、恋人を見上げた。夢子の目は据わっていた。
「私が、する!」
 そう言って夢子は、噛み付くようなキスをしながら、弓場のシャツのボタンを辿々しい手つきで外し始めた。
 弓場は初めこそ苛立っていたが、あまりの強情ぶりに「酒の力でこうも積極的になれるものか」とついぞ感心してしまった。そのブレない熱意を認め、一転、受け入れの態勢を取った。
 一方夢子は、弓場が抵抗しないことを不思議に思ったらしい。顔色を窺おうと唇をゆっくり離したのだが、弓場に間髪入れず首根っこを押さえつけられ引き戻されてしまった。荒々しいキスと同時に弓場の舌があやすように絡みついてくる。腰を撫でられた夢子は、身体が小さく震えた。唇が離れると、唾液がぬらっと滴れた。
 
「威勢が良いのは嫌いじゃねェ。やってみろ」
 
 弓場がニッと笑う。夢子の瞳は従順に蕩けていた。
 ◇
「ん、ふぅ」
 夢子は一糸纏わぬ姿で弓場に跨り、男性器をしごいたり舐めたりしているが、なかなか集中できない。弓場に秘部を弄られているからだ。いわゆる、シックスナインというやつだった。弓場は普段、強面の外見に似合わず夢子を壊れ物のように抱き、奉仕じみた行為をさせないため、夢子にとってこの体位は初めてだった。
「おいコラ、さっきまでの威勢の良さァどこいった」
「やっ、そこでしゃべ、っちゃあっ!」
 弓場が二本の指を抜き差ししながら言う。収まりきらない夢子の愛液が膣内から溢れ出て、弓場の手首まで滴っている。部屋に響く卑猥な音は、指の動きに合わせて、ぐちゅ、じゅく、と形を変えていた。夢子がどうしても今日セックスをしたかったというのは、どうやら本心らしい。掻き出しても掻き出しても、愛液が止まらないのだ。弓場がくっと笑い「どうしようもねェくれェサカってんなァ」と呟くと、夢子は「らって、ふ、ぅん、なか、ごりごりって、んっ、きもちいっ」と知性が感じられない口調で言った。
 指を引き抜いた弓場は、割れ目の肉を左右に引っ張って、熱気の篭る膣内をまじまじと覗く。ソコは先ほどまで咥えていた指がなくなり、物足りな気にヒクついていた。夢子の身体が、自分を求めて蕩けきっているという事実が、弓場のモノをいっそう固くさせた。ぐっと伸ばした舌で膣内を舐めると、夢子の腰がびくりと浮いた。逃さないように尻を掴む。ついでにぐにぐにと揉んでやると、夢子は力が入らなくなったのか、上半身が完全にへたってしまった。体勢上、弓場の腹部に倒れ込む形になる。肌がぴったりとくっついた。
「あっ、にゃあ、あんっん」
「日和ってんじゃねェぞ」
 膨らんだ陰核を不意に摘まれた夢子は、突然の鋭い刺激に「やぁんっ!」とひっくり返ったような喘ぎ声を上げた。陰核をこりこりと撫で回され、絶え間なく押し寄せる快感に朦朧となりながら、目の前の勃起した男性器におそるおそる舌を伸ばす。下から上へゆるやかに舐めた後、根元をやわやわと喰む。力の入らない指で、先端の方をゆっくりしごいた。
 弓場にとっては弱い刺激だったが、愛液をじゅっと吸われた途端イヤらしく痙攣し出した夢子を見ていたら、いつの間にか準備万端になっていた。弓場は口周りについた愛液を指でサッと拭った。
「夢子、どうする?」
 イッたばかりの秘部に息を吹きかけられ、夢子の太腿は期待に震えた。体力はほとんど残されていなかった。
「わたし、が……」
「そうこなくっちゃなァ」
 弓場は夢子の頭を二回撫でてから、自身に避妊具をつけた。前回この部屋で使った時の、残り物だった。
 その間に息を整えた夢子は、よろよろとした動きで、弓場と対面になるように向きを変えて跨り直した。そそり勃つソレを秘部にあてがうが、初めてだからか上手くできなかった。しばらくもたついていると、弓場の先端が夢子の陰核を掠めた。瞬間、びりびりと走った目先の気持ち良さに、ほとんど残っていなかった理性すら奪われた夢子は、腰を小刻みに往復させ始めた。何度も陰核を弾いてはひとりで喘ぐ。
 恋人が自分のモノで自慰まがいな行為をするのを、弓場は睨むように見ていた。前戯に夢中になった夢子の姿がなんとも愛しく、扇情的で、些細な表情の変化さえも見逃すまいと凝視していた。とはいえ、いつまでも夢子に任せていたら終わらなそうだった。
「放置たァ、いい度胸じゃねェーか」
「はっ! あっ、きもちいっ」
 重力に従って、弓場の目の前で揺れる夢子の胸。その先で主張する乳首を摘んで引っ張ってやると、夢子は嬉しそうに声を上げた。発破を掛けたつもりだったが、悦ばせてしまっただけだった。
「できねェーなら代わるか?」
 弓場は本来、女を上に乗せて悦に浸る趣味はない。今回は夢子の意向もあって好きにさせているだけだ。
 当然、夢子は首を横に振った。
「がんばる、からぁ」
 夢子は男性器に片手を添え、もう一方の手で、自身の入口を拡げた。割れ目に先端を擦りながら、ゆっくりと腰を落としていく。ぬぷ、と愛液がかき混ざる音がした。
「んぅ、おっき……」
「はっ、きちィなァコラ」
 柔らかくなった膣が、弓場の太いソレをぐにぐにと締め付けている。弓場は顔を歪ませて笑った。
 夢子は覚束ない瞳で圧迫感に耐え、身動きも取らずじっとしていた。まだ全部が挿入されているわけではなかったが、こういったことに慣れていない夢子にしては上出来だろう。少なくとも、弓場はそう思っていた。
「よォし、よくやった」
「ぉんっ!」
 弓場が腰を進めると、一気に奥まで挿入った。不意打ちに与えられた快感に、夢子は下品な声を漏らす。普段当たらないところまで突かれて羞恥心が完全に消え失せたようだった。結合部が鳴らす、ばちゅんというあられもない音と、弓場の腹が愛液で濡れていく様子が、夢子をますます乱れさせていく。耐え切れず、弓場の上にくたりと倒れ込んだ。
 両手で夢子の尻を掴んだ弓場は、容赦なく腰を突き上げた。首に擦り付く夢子は連続する気持ち良さを受け止めるのに必死で、口を開きっぱなしにし、舌と唾液をだらしなくこぼしている。弓場が耳を舐めると、無意識に膣内が締まった。
「オラ、もちっと気張れや」
 一度引き抜いて、夢子をうつ伏せにする。腰を持ち上げて、後ろから挿れ直した。力の入らない夢子はベッドにぐったり身体を預け、背中をしならせた。
 夢子に覆いかぶさりながら、腰を動かしていく。汗と唾液で、肌はくまなく湿っていた。枕を掴んでいる夢子の手に、弓場は自身の手を重ねた。
「夢子、こっち向け」
「ん、ふあ」
 夢子を振り返らせて、ハメたままキスをする。それが次第に、舌だけを絡ませるキスに変わっていく。
「ゆば、く、んんっ、イく! イっちゃう」
「あァ、イっちまえ」
 びくびくと膣内が震え、夢子が達したことがわかった。弓場も腰をぐっと押し込んで、避妊具の中に登ってきた精子を吐き出した。
「はー、はー」
「結局、俺が動いちまったなァ」
「ごめ、んなさい」
 ベッドで脱力しきっている夢子は、まだ肩で息をしている。弓場は避妊具を結んでゴミ箱に捨てると、夢子の後頭部を雑に撫でた。
「謝るこたァねェ。やり直せばいいだけの話だからなァ」
「え?」
 驚いたように目を見開いた夢子を、弓場が抱き起こす。顎をくいっと持ち上げて、唾液を絡ませながらキスをした。先ほどまで弓場を受け入れていた膣内が、再び快感を求め、収縮する。
「逃げんじゃねェぞ。おめェーが言い出したことだからなァ。最後まで責任持て」
 弓場が口の端を吊り上げて、悪い顔で笑った。夢子の膣から、愛液がじわりと湧いた。



21.11.20
もくりの企画で書きました。

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