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「ユーリ、最近シケてんな」
頬杖をついて、食べかけの夕食を行儀悪く突きながら、ボリスが言った。
「ああ」
と相槌を打つセルゲイもユーリの方をそっと見遣る。
夕食を食べきらないうちから、ぼんやりと外を見つめる彼女は、はやり覇気がないように見える。
「まあ、気持ちはわかるけどな」
「…痛えくらいな」
はあ、とため息をつきながら、イワンの言うと、ボリスも同じようにため息交じりに呟いた。
世界大会は準優勝、その後のBEGAとの戦いでは負傷による戦線離脱。
精一杯戦った上での結果で、ユーリの活躍はだれもが認めるところで、だれも責めたりはしないことはわかっていても、彼女はいまだに後悔のようなやるせなさを捨てきれないのだった。
3人の話を黙って聞きつつ、同じようにユーリの方を見遣っていたカイが、突如、勢いよく椅子から立ち上がった。
椅子がずれるガタン、という音も気にしない様子で、つかつかとユーリの方へ歩み寄ったカイは、ユーリの目の前まで来ると、仁王立ちで彼女を見おろす。
なんだなんだ、と動揺するのはボリスたちの方で、当のユーリはカイの方を一瞥したっきり、まるで気にしない様子でまた外へと視線を向けた。
その仕草に、カイの纏う空気が一段と刺を孕み、次の瞬間、彼女はユーリの前髪を掴み上げて、強引に自分の方を向かせると、至近距離で睨みつけた。
「…何のつもりだ」
ユーリの方も負けじとカイを睨みつけながら尋ねる。
少し離れたところで見守っていた3人は、ただならぬ空気にごくりと唾を飲み込んだ。
「メ、メンチというやつかな?」
「さあな……」
重たい空気の中、カイが強い口調で言った。
「貴様、いつまで辛気くさい面をしているつもりだ」
それだけ言うと、突き飛ばすような勢いでユーリを離したカイは、足早に部屋を出て行ってしまった。
その後、しばし呆然としていたユーリもふらりと立ち上がると、自室にひきあげた。
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