この雨じゃあ、外には出れないなあ、だからって家で勉強なんてしたくねえよなあ、

窓の外を眺めながらそんなことを思っていると、ガラガラと玄関の戸が開く音がして、来客を知らせる。

こんな雨の中に、誰だろう。

はいはーい、なんて気の抜けた返事をしながら向かったそこには、よく知った姿があった。

「なんだ、カイか!
よく来たな!!」

学校帰りなのか、制服姿の彼は、相変わらず寡黙ながらも、「突然すまんな」と申し訳なさそうに言って、小さな紙袋を差し出した。

「いーって、いーって。
まあ、上がれよ」

全部本心だ。カイが来てくれて嬉しくなかったことなんて、今までに一度もない。

「ああ…」

受け取った紙袋の中にはいつも通り、高そうな菓子の箱。

「お、うまそー
いつも悪いなー。」

「でもなー、手ぶらで来てくれていいって、いっつも言ってるじゃんかー」

廊下を歩きながら、ほぼ一方的に俺だけが話すのはいつものことだ。

「あ、道場なら、今日も空いてるから」

そう伝えると、ごく自然な動作で、カイは道場の方へと向かって行った。

その後ろ姿をちらりと見て、多分今日も必要になるであろう、ハンガーと着替えを持って俺も道場に向かった。

戸を開けると、しっとりとした空気の中で、カイは、あのころからは信じられないような無防備さで、ころりと道場の床に寝ころんでいた。

実は、今となっては、これはめずらしい光景ではない。

高校に入ってから、カイが本格的に火渡を継ぐための準備が始ると、生真面目で責任感の強い彼は、どれに関しても気を抜くことができなくなってしまった。

しかし、いくらカイが強くても、限界というものがある。
いつまでも気を張り続けるのは無理という話だ。

そんな日々の中、相変わらず自分の弱みを見せることが嫌いで、何でも一人で抱え込もうとする彼だけれど、こうやってふらりとあらわれては、家の道場で仮眠を取りに来るようになったのだ。

「お前の家の道場だと、なぜかよく眠れるんだ」

以前ぽつりと言っていたように、俺の家はカイにとって、気を張らなくてもいい場所なのだろう。
少なくとも、家や、学校よりは。





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