3


ユーリが淹れたコーヒーを飲みながら、状況確認をしていくと、部屋割について学校側のミスがあったのではという結論に至った。

ならば、やることは決まっているな、カイはそう言って寮の管理者へ電話をかけ始めた。事態を報告して部屋を変えてもらう。これで万事解決だ。

ユーリは、電話を耳に当てる彼女の横顔を眺めた。
耳にかかる髪を避ける仕草。白い頬に長い睫毛。
先程は動揺のあまり失礼なことを口にしてしまったが、こうして改めてみると、かなりの美人だということに気がつく。

内面に問題がありそうなのは否めないが、強い瞳やはっきりとした物言い、冷静なところにも好感が持てた。
このまま部屋が別になっても、同じ学校にいるならば、また話してみたいものだ、と思う。

ところが、話の途中からカイの顔色が変わり、抗議する言葉が聞こえた後、電話を切ったカイの口から発せられた言葉は思いもよらないものだった。

「…部屋は変えられないそうだ…」

「は…?」

思わず間抜けな声を出してしまったが、詳しい話を聞いてさらに愕然とする。
今年は留学生をたくさん受け入れたため、書類の不備などで、性別を取り違えるケースが多発しているらしく、正直対応しきれないのでこのままでいくことにした、とまあこういうことらしい。

ユーリもカイも怒りよりもむしろ、この学校は大丈夫なのか…という思いであったが、あまりにずさんな対応であったので、カイの保護者から連絡してもらうことにした。

しかし、再び電話を手にしたカイの表情は先程より明らかに不機嫌で、会話が続くうちにさらに険しく、口調も荒くなっていく。

そして、ついに「誰が帰るか!くたばれ、くそじじい!」そう言って電話を切ってしまった。

なんて口調だ。この学校に来るのは良家の出身者だと聞いていたが。表情には出さないものの、ユーリはすこし驚いていた。

そのことを察したのか、カイはばつの悪そうな顔で大きく息を吐いて、ユーリの方を向くと、こう言った。

「寮の部屋が気に入らないなら、学校変えて家に戻れと言われた。」

そして、神妙な顔で続ける。

「家には戻るくらいなら…、私は同室で構わないが貴様はどうだ?」

「まあ、貴様が構わんのなら」

了承の言葉を聞いて、ホッとしたような表情を浮かべたカイを見ながら、ユーリはさらに言葉を続けた。

「さて、では共同生活における決まりを作ろうか」

思いがけないユーリからの提案にカイは目を見開く。はっきり言って、ユーリはそんな気を使えるような男には見えなかったからだ。

しかし、それはカイにとってもありがたい提案だった。
なにしろ初対面の男女が同じスペースで暮らすのだから、お互いの認識を一致させるためにも、ある程度の取り決めをしておきたい。

こうして作られたこの部屋の法律は、基本的には相互不干渉で、洗濯物は放置しないこと、着替えは自室か風呂場に限り全裸もしくは半裸で共同スペースを徘徊しないこと、寝室には無断で立ち入らないことなど、最低限のものであったが、カイが何となく言い出しにくいことを自分から申し出てくれたユーリのことを、彼女はこっそりと見直したのだった。

ユーリという男は派手な見た目の割に、細やかなところがあって気が利くし、どちらかと言うと寡黙で個人的な問題に干渉してくることもなさそうで、総合すると、なかなかイイ男かもしれない、と。

やや高圧的な態度が鼻につくこともあるが、軟弱な奴よりはましである。

「では、これからよろしく頼む」

そう言ったユーリにカイは黙って頷き、恐ろしく整った顔をもう一度眺めてから、もしかしたら下手に騒がしい女と同室になるよりも、良かったかもしれないとカイは考えた。





[*prev] [next#]


→TOP


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -