3
「冷たい肌だな。本当に氷でできているみたいだ」
ばかばかしい。もともと体温が低いだけだ。
そう言ってやりたいのに、容赦なく弄る手に、さらに身体が冷えていく。
そんななか、私の頭が導き出した結論は、思考を放棄し、抵抗をやめる、だった。
こんな薄着では抵抗してもたかが知れているだろう…。
訓練の一種だ、そう思えば、耐えられる。
ふ、と目を閉じて諦めかけた私の脳裏に間抜けな顔で笑う銀髪の姿が映った。
どうなったって、あいつなら、ちゃんと、あいしてくれる。
だいじょうぶ。
申し訳なさと、あいつ以外はもう知りたくなかったのに、という気持ちを奥歯で噛み殺してもっと強く目を閉じた、そのとき。
鈍い音がして、不快な肌の感触がなくなって。
そっと目を開けた、そこには。
「…ボリス?」
「ばかユーリ」
無造作に放り投げられた上着に移った、香りと体温にどうしようもなく安心させられる。
でも、上着を羽織ってから見上げた横顔は、へらへらと落ち着きのない近頃のこいつからは想像も出来ないほど、冷たく凍りついていて。
久しぶりに見た、ただ壊すための、表情。
引き金を引くことを、1ミリも躊躇わない、瞳。
それは確かに、あの薄暗い修道院に置いてきたはずだったけれど。
わたしもお前も、もうただ壊すだけの兵器ではないはずだけど。
凶器そのもののボリスの姿は、電撃のような快感でわたしの全身をくまなく痺れさせて。
わたしはそのとき、確かに欲情、したのである。
「後悔するより先に、けしてやるよ」
刃物のように鋭利で無慈悲な言葉が、相手に語りかける気もなく、呟かれる。
わたしは、熱に浮かされてぼうっとしながら、兵器のようにためらいもなく淡々と、相手を蹴って殴って踏みつけるボリスに見惚れていたのである。
それが、決して正常ではないと、頭では、わかっていながら。
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