【SS】Long Night
2013/04/10 23:11
ユーリがはやく帰ってきますように。
冷たい風で凍えていませんように。
いいこにします。
うそだってつかないよ。
できれば、毎晩ユーリと一緒に眠りたいです。
すぐに、だなんてわがままもいいません。
だから、神様、どうか
願いをかなえてください
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俺が帰ると、すでに部屋に人気はなかったけれど、ほんの少し残った暖かさから、ユーリが出掛けてまだ幾ばくも経ってないことがわかる。
俺も働けるようになって、もうずいぶん経つ。
しかし、ユーリはいまだに身体を売ることをやめてはいなかった。
それはきっと、今でも俺を、守らなくてはいけないと思っているからだ。
もう背丈だって、力だって、追い抜かしてしまったのに。
もう、小さくてか弱い子どもじゃ、ないのに。
彼女はいまだに、ひとりぼっちをおそれているのだ。
こんなに丈夫になるまで養ってくれたのは自分だというのに。
俺はこんなにもユーリのことが大事で愛しくてもう離れられやしないというのに。
だから、俺はまだ何も知らないふりをしている。
そりゃあ、平気なわけじゃないけどさ。
そんな仕事はやめてくれなんて、そんな言葉では彼女を傷つけてしまうから。
だってそうだろう?
美しく清らかなその身体を張ってくれたのに、それが間違ったこと、いけないことみたいに言ってしまったらさ。
それに、一番後ろめたさを感じているのは、他でもないユーリ自身だと思うから。
なにも言わず、俺のいない間に出掛けて行ってしまうくらいにさ。
だから今は、働いて、働いて、二人で街を出ても少しの間は暮らせるだけのお金をためるまで働くのだ。
そしたら、遠いところで一緒に、ずっと一緒に暮せるはず。
ユーリをいろんなしがらみから自由にして。
ぐるぐると考え事をしながらでも、今日も一日働いた分のお金をしまって、一人分の簡単な夕食を食べてしまえば、後はユーリを待つだけになる。
意味はないとわかっていても、窓の外をのぞいてみたりして。
窓に触れると、指先からキンと冷え切った外の空気が伝わる。
こんな日に、いつものひらひらと薄い服で出掛けて行ったのであろうユーリは、凍える風に肌を切られていないだろうか。
窓の外、夜はどんどん深くなる。
俺をここに閉じ込めて、ユーリを見つけられないように、深く、濃くなる。
ガキのころは、毎晩飽きもせず祈っていた。
星も見えない濁った夜空じゃ、神様だって見守れやしないだろうにさ。
今となっては、カミサマなんて信じちゃいないけど。
どんなに身体がでかくなっても、ユーリを待つ時間の長さは変わらないもんで。
待つことしかできない夜は、あまりに長いけれど。
待たないなんて選択肢は、ハナから持っちゃいない。
Long Night
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