【SS】君の道
2012/10/29 01:40
「いっしょにいく、」
カイが静かに告げた。
何の事かなんて、迷うまでも無く、たったひとつしかない。
世界大会が終わった今、俺たちは旧ボーグはヴォルコフの野望を打ち砕きに、いくのだ。
苦い苦い苦い記憶に、まだ治りきらない傷を抉られながら、
薄汚れた欲望渦巻く、沼の様な闇のなかへ、飛び込むのだ。
それを承知で、いっしょにいく、と言った。
カイは確かにそう言った。
誰が、いつ彼女にそれを知らせたのだろうか。
自分達からは、教えないと決めたはず。
この問題に、関わって欲しくはなかったから。
勘がいいから、わかってしまったのだろうか。
わかってしまったから、放ってはおけなくなってしまったのだろうか。
なんであろうと、突き放さなければならない。
なのに、
ぎゅう、と抱き付かれて、温かい体温に触れてしまったら、俺の決心は角砂糖のように脆く崩れて。
「なあ、ユーリ、」
俺は、心地よい高めのハスキーが求めるままに、
夜色の髪に鼻先をつけて、
頷いて、しまったのだ。
「…夢か…」そう、確かに俺たちは告げていなかったのだ。
だから、彼女は一緒にいかない。
「…よかった…」
そう呟いてみたものの、それが本心なのかは自分でも分からなかった。
だって、俺は頷いてしまったのだ。
朝の光が、俺の弱さを暴いて、
どうにも泣きたい気持ちになった。
そんな俺にも容赦なく、別れの日はやってきた。
別々の便に乗るためのターミナルで、お互いに大きな荷物を抱えて、少し言葉を交わす。
「じゃあな」
「…ああ」
別れの言葉はそれだけだったけれど。
踵を返す直前、俺は、彼女の白い頬に、
ひとつだけ、キスを残して、
忙しなく行き交う人々の中へと紛れた。
未練がましくもあり、潔くもあるけれど、
俺は、お前に、お前自身が歩むべき道を忘れて欲しくない。
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「死んでやろうか、一緒に」
夢であなたは
そう言った
夜に紛れて頷いた
朝に目覚めて泣いてみた
忘れないで
果て無き道
笑うクローバー
どさくさに紛れ塗れキスを送ろう
四月馬鹿/C●CC●
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