【SS】星屑の箱庭
2012/09/17 01:31
「お前は本当に、
夜に出歩くのがすきだな」
声のした方を振り返ると、月明かりの下で見るからに夜目の利きそうな金色の瞳が、こちらを見つめていた。
「レイか」
瞳の主は、へらりと笑うと、静かに近寄ってくる。
「星が、すごいだろ」
「ああ」
見上げた空には、まるでばら撒かれたかのようにおびただしい数の星。
ともすれば溢れかえって落ちてくるのではないだろうかと思う程、密度の高い星空は圧巻だった。
「昔はな、あんまり星が多くて怖くなったもんだ」
まるで見張られているみたいでさ、そう言ったレイは、かつて、裏切り者のレッテルを張られるのも厭わず、たったひとりこの村を飛び出した。
「でも、いざ外に出てみると、懐かしくもなってな。
重かったものが、愛しくなったりしてさ」
金色の瞳が、星の海を映して、さらに輝きを増す。
心なしか大人びたように見える横顔。
「新しく手に入れたものよりもむしろ、自分の手の中にあったものが、どんなに大切かわかった気がするよ」
「そうか」
「うん」
お前らとの出会いは別格だけどな、ニッと笑う無邪気な顔に弱い。
俺は、こんな風には、笑えないから。
一通り話し終ると、レイはその場にストン、と座り込んで、俺に隣に座るようにと促した。
「明日帰るんだろ」
「そうだな」
しゅん、と淋しい空気が二人の間に流れると、レイは少し子供っぽく、俺にくっついてきて。
自分よりも高めの体温と、しっかりした腕の感触が心地いい。
「俺の村、良いとこだろ」
「ああ」
「また遊びに来てくれよ」
「そのうちにな」
「絶対だぞ」
この星空と、自分の見てきた淀んだ夜空が、つながっているなんて実感はわかないけれど。
俺たちはこの約束で繋がっていられるのだろう。
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