薄暗く冷たい地下の部屋。
監守に案内されて来てみれば、当人は此方に背を向け眠っていた。
監守が起こそうとするのを制止した後、「10分だ」と時間を言い渡し、監守は私達から離れていった。
ボサボサの茶髪が前に会った時と全く変わってなくて、笑ってしまう。
相変わらず、華奢なのも変わっていない。
背は少し伸びたのだろうか。
横たわる姿ではそれを確認することは難しい。
暫くそんな風に見ていると、いつの間に起きていた彼が大きく伸びをした。
「おはよう」
「んー」
「探してやっと見つけたと思ったら、こんなとこに入っちゃってさ。普通、面会って個室に案内されんのかと思ったのに、普通にこんなとこまで案内されるし」
「この街…ってか、国はおかしいんだよ」
「ふーん」
「で? 今日は何しに来たの?」
「唯一の友人がやってきてあげたのに、その言い種はないんじゃない?」
「唯一じゃねーし」
ふてくされたように、そっぽを向く彼は年齢に似合わず、やっぱり幼かった。
口をとがらせて、「あと二人ぐらいはいるし」とブツブツと呟いていた。
「あんた、死ぬのはいつなの?」
「明後日か明日か。何時だったか…」
自分のことなのに、どこか興味がなさそうに話す彼は、本当に明日明後日で死ぬ人間とは思えない。
平気で脱獄やらなんやらしそうなのに、彼にそんな素振りはない。
「逃げないんだ?」
「もうめんどくせーから。って、俺も歳だな」
まだ成人して両手で数えられる程しか経ってないくせによく言う。
彼はまだこんなにも若いのに、その身に載せられた罪はあまりにも多い。
彼の死で償いきれないくらいの罪。それでも彼は殺される。
「あんたって、何に興味があるの?」
人にも物にも、自分の死にも関心を示さない。
どこか適当で、曖昧だ。
「さぁ?」
そう言って彼は笑った。
彼の笑った顔を見るのは、何年ぶりだろうか。
「時間だ」と案内してきた監守が此方を睨んでいる。
そのことに彼は肩を竦めて、くしゃりと髪を撫でた。
「…おやすみ」
いつも、彼の世話をするのも、一緒にいたのも自分だった。
いつも彼を探すのも、置いてかれるのも自分で、彼に好かれたのは自分じゃなくて。
だけど、それ以外はみんな自分。最初に会ったのも、最期に会ったのも、私でした。
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I won't say “bye”
さよならは言わないよ
「fish ear」様に提出。
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